小型軌陸車やドローン、新しい点検機器
鉄道に限られた話ではありませんが、インフラを継続的に維持していくためには、定期的な保守・点検が欠かせません。メンテナンス分野も、鉄道業界における重要なマーケットの一つです。
建設機械のレンタル事業などを手掛けるアクティオは、軽トラック(ホンダ・アクティ)をベースとした小型の軌陸車を展示しました。一般的な軌陸車よりもサイズが小さいため、狭い踏切でも線路に軌陸車を載せることができるなど、取り回しの良さが特徴です。この車両は、JR東日本水戸支社との共同開発によって生まれたとのこと。開発の発表は鉄道技術展の開催初日である11月27日でしたが、10月に東日本で多大な被害をもたらした台風19号の襲来時に、水郡線などでの復旧作業で実績を上げていたといいます。
点検分野では、近年各業界で需要が高まっているドローンも外せません。インフラ保守や建設現場などで限定的な導入が進められているドローンですが、保守人員の不足が懸念されている鉄道業界においても、ドローンの需要が生まれています。今回の鉄道技術展では、さまざまな形態のドローンソリューションも展示されていました。
沖電気工業は、空飛ぶ水中測深装置「CARPHIN air」を参考出展しました。基地から調査対象の橋脚付近へ飛行し、川などに着水。そのまま航行し、河床や水中構造物を調査できるという、ドローンとラジコン調査ボートを組み合わせたような機体です。これまで同様の調査が必要な場合、対象の橋りょうに近い川岸からラジコン調査ボートを出していたということですが、このような現場では川岸にアクセスしづらい例が多かったため、その現場までの移動の手間を省くべく、この機体を開発したそう。基地から現場までの飛行や調査は、遠隔操作のほかに自動でも可能だそうで、省力化も実現できます。
ドローンソリューションを展開するSkyLink Japanは、VTOL(垂直離着陸)型ドローン「Wingcopter」を用いた「広範囲測量次世代ソリューション」のモデルを展示しました。最高飛行速度が時速約150キロ、最大飛行距離が約100キロの機体に1億画素のカメラを搭載し、離れた場所からでも短時間で高精度な測量が可能です。
セキュリティ対策も万全、蛍光灯一体型の防犯カメラ
近年導入される新型の鉄道車両では、防犯カメラを設置しているものが数多くあります。一方で、既存の車両に防犯カメラを取り付けるには、これまでは天井に穴を開ける必要があるなど、設置作業に手間が掛かっていました。また、録画した映像も、記憶媒体を車両から取り出す必要があるなど、閲覧・管理の面倒がありました。これを解決すべく、各社はさまざまな防犯カメラを開発しています。
ソフトバンクは、LED蛍光灯一体型防犯カメラ「IoTube」を展示しました。蛍光灯の端に防犯カメラが設置されており、従来の蛍光灯ソケットに差し込むだけで設置完了となるため、大がかりな設置工事が不要です。また、ソフトバンクの4G回線を通じて、設置車両から離れた事務所などからでも、映像データを確認できるのが特徴。車内トラブルの発生時でも、すぐに映像を確認できます。この製品は2019年5月に東急線での実証実験が開始されており、東急電鉄では2020年に本格導入する予定です。
JR東日本グループのJR東日本テクノロジーも、灯具に装着する防犯カメラを展示しました。こちらは蛍光灯の灯具と天井の間に挟み込むように設置するのが特徴。灯具を一旦外す必要がありますが、それでも大がかりな工事は必要ありません。加えて、蛍光灯の種類も問わないため、LED蛍光灯のみならず、従来型の蛍光灯でも併用が可能です。
アイテック阪急阪神は、「スマートLED蛍光灯」を参考出品しました。カメラに加え、録音やAIといった、スマートフォンと同様の機能を持つモジュールを備えており、画像AIでは倒れ込みや忘れ物の検知、音声AIでは悲鳴や罵声、異常音などの検知が可能。携帯電話回線経由で駅係員などにアラートを発し、次駅で係員が車内に乗り込み点検できるようになっています。同社ではこれを、全ての空間と時間をインターネットにつなぐ「IoS(Internet of Space/Internet of Spacetime)」と呼んでいます。
ロボットが登場、変わる駅空間
駅の空間も進歩しています。
日本信号は、超短焦点プロジェクタ「FLOOR-PROJECTION」を搭載した自動改札機を展示しました。改札機の下部にこのプロジェクタを搭載しており、床面に40インチサイズの投影が可能です。「通行可」「使用停止中」といった案内などを改札機手前に表示できます。日本信号では、列車内に設置すれば広告やドアの開扉方向の案内など、その他施設でも商品案内や機器の使用可否案内など、さまざまな場面で活用できると提案しています。
オムロンは、駅窓口の自動化ソリューションを紹介しました。改札窓口や券売機横にロボットを設置し、周辺案内や路線案内など、状況に応じた質問に対応できるようにすることで、対旅客業務の自動化を実現します。また、駅案内ロボットをポータルとして活用するソリューションも開発中とのこと。基本的な旅客対応はロボットが自動で対応し、複雑な対応は遠隔地のオペレーターや駅係員と対話できるシステムです。オムロンでは、旅客対応の自動化のみならず、駅の始業時のような駅係員業務についても、サポートできるようにする狙いです。
鉄道情報システム(JRシステム)は、JRグループの予約システム「マルス」の関連ソリューションを展示。JR西日本の「みどりの券売機プラス」のような、対話型の指定席券売機システム「アシストマルス」などを紹介していました。
アシストマルスは、指定席券売機「MV50」に対話機能を追加したもの。通常の指定席券売機と同様に利用者の操作のみできっぷの発券が可能なほか、学生割引や「大人の休日倶楽部」など、書類の提示が必要なきっぷの購入時など、オペレーターと対話するサービスを提供できます。AIや音声認識技術による外国語の自動翻訳機能もあるため、外国人利用者との対話も可能となっています。
また、ソフトバンクロボティクスが開発したロボット「Pepper」を活用したサポートロボットも展示。ロボットと対話しながら購入したいきっぷの情報を収集し、QRコードを発行。このコードを指定席券売機にかざすことで、きっぷを発券することができます。
印刷業界からも出展
ダイヤグラム(列車運行図表)を展示して注目を集めていたのは、印刷業を手掛ける昇寿堂。路線の全ダイヤを蛇腹折りの用紙に印刷するダイヤグラムですが、かつては1ページずつのり付けするのが主流でした。現在も一部の鉄道会社ではこの方式を採用しており、ダイヤ改正ごとに作業の手間が発生してしまいます。昇寿堂は、高精細な長尺印刷を提案。表裏一体印刷で、蛇腹折り加工した状態での納品も可能とのことで、JR各社や大手私鉄など、さまざまな事業者からの引き合いがあるといいます。
印刷業界からは、きっぷの印刷などを手掛ける山口証券印刷も出展していました。鉄道ファンに人気の高い「硬券」は、近年は一般のきっぷとしてはほぼ絶滅状態にありますが、記念きっぷとしてはさまざまな鉄道会社が採用しています。山口証券印刷ではこの需要に応え、昔ながらの硬券仕様の記念乗車券を発行しているといいます。また、きっぷをモチーフとした独自ブランド「Kumpel」も展開。こちらは個人でも購入することができます。