2020年3月14日のダイヤ改正で、東京都心と伊豆半島を結ぶ特急列車「サフィール踊り子」が新たに運転を始めます。その一方で、1990年に運転を開始した特急「スーパービュー踊り子」が、改正前日の3月13日に定期運転を終了します。
JR発足から3年後に登場したスーパービュー踊り子用の251系は、それまでの特急列車とは次元が異なる、新時代の風を吹かせる車両でした。
1990年に特急「スーパービュー踊り子」用としてデビューした251系。そのころの首都圏と伊豆半島を結ぶ定期特急列車は、国鉄時代に設計された185系を使用した「踊り子」のみでした。当時の185系はリニューアルを受ける前で、普通車の座席はリクライニングができない転換クロスシート。中京圏・関西圏の新快速や、地方都市圏の近郊電車と同等の設備でした。
一方、直通先の伊豆急行では、1985年に車内からの展望を全面的に意識した2100系「リゾート21」を導入。1988年からは臨時特急「リゾート踊り子」として東京駅への乗り入れを開始していました。マイカーに対抗すべく、鉄道車両らしからぬ設備を備えたリゾート21と、普通列車にも使用できるコンセプトで開発された185系のギャップは、埋めがたいものがありました。
そこで、JR東日本で2番目の特急型車両として開発された251系では、観光需要を全面的に意識した車両となりました。
10両編成中3両は2階建て、残る7両もハイデッカーとし、窓も天井まで掛かる大きなものを採用して眺望に配慮。両先頭車では運転席の後ろにシアターシートを配置し、前面展望を楽しめるつくりとしました。
車内は、先頭部を除くグリーン車開放席は一般的な2列-1列配置ですが、2号車の1階部分には4人用グリーン個室を3室設置。普通車はグループ利用を想定した座席が主体で、普通車8両のうち6両は、わずかに窓側を向いた2人掛けの回転式クロスシートを配置。残り2両では、4人掛けのコンパートメントシートを配置しました。
さらに、1号車1階にはグリーン車利用者専用のサロンを設置。食器に盛ったカレーライスなどの軽食や、サーバーから注ぐ生ビールを販売するなど、従来の列車よりも豪華なサービスを提供していました。10号車の1階には、「こども室」を設置。長時間の乗車でも子どもが楽しめるようなキッズルームを常設した車両は、251系が初めてでした。
1990年4月28日に運転を開始したスーパービュー踊り子は、東京・池袋・新宿~伊豆急下田間で1日3往復が設定。2年後の1992年には2編成が増備され、同年3月14日には計5往復の運転となりました。
2002年からはリニューアルが始まり、車内外に手が加えられました。デビュー当時は薄い水色だった外観は、白とエメラルドグリーンの塗り分けに。グリーン車やこども室はモケット変更程度でしたが、リクライニング機構の無い座席やコンパートメントが配置されていた普通車は、一般的な回転式リクライニングシートへと交換されました。
さらに、2007年にはグリーン車が再度リニューアル。非リクライニングシートを9席配置していた展望席は、リクライニングシート6席へ配置を変更。その他のグリーン席も若干手が加えられました。
2019年3月改正のダイヤでは、251系は臨時列車を含むスーパービュー踊り子6往復で運転。このほかにも、新宿~小田原間のライナー列車「ホームライナー小田原23号」「おはようライナー新宿26号」に充当されています。
まもなく約30年の活躍を終える251系スーパービュー踊り子。デビュー当時では画期的な車両、画期的な列車でしたが、年月を経るにつれ、その相対的な立ち位置は変化していきました。
1990年当時の鉄道車両は、イベント用車両でも「シャトル・マイハマ」や「オリエントサルーン」といった「ちょっと変わった内装」のジョイフルトレインが主体。単なる移動手段ではなく、列車も旅行の1ピースとして楽しめるコンセプトで登場した251系は、1989年に登場したJR九州の「ゆふいんの森」同様、JR車両としては画期的でした。
時が下ると、251系のようなコンセプトは、さらに昇華されていきます。1997年には秋田新幹線開業にあわせて「リゾートしらかみ」が登場。五能線沿線の観光を意識して運転が始まったものですが、車内での津軽三味線の演奏など、乗ること自体も楽しめる列車となりました。2010年代に入ると、JR東日本はさらに「HIGH RAIL 1375」や「フルーティアふくしま」、「POKEMON with YOU トレイン」といった観光列車を次々と投入。単なる移動の場を少々アップグレードしたジョイフルトレインではなく、列車に乗ること自体を目的とした「のってたのしい列車」として展開していきました。
伊豆方面でも、2016年に651系を改造した「伊豆クレイル」が登場。車内にはバーカウンターやラウンジを備えるほか、旅行商品として販売するプランでは、ランチやアフタヌーンカフェセットを提供するなど、伊豆への移動とともに車内での時間を楽しむ列車となっていました。
また、直通先の伊豆急行と、その親会社の東京急行電鉄(当時)も、観光列車「THE ROYAL EXPRESS」を2017年に運行開始しました。JR九州の「ななつ星in九州」と同じ水戸岡鋭治さんがデザインを手掛けており、コンセプトも類似。豪華クルーズ客船のように、列車自体もツアーの魅力として提供するクルーズトレインとして展開し、成功を収めています。
スーパービュー踊り子に代わって運転するサフィール踊り子では、THE ROYAL EXPRESSのようなクルーズトレインではありませんが、「プレミアムグリーン車」やグリーン個室、カフェテリアを備えるなど、スーパービュー踊り子デビュー当時のサービスを、さらに数段階進化させた列車となっています。
一方のスーパービュー踊り子は、デビュー時では画期的な列車だったものの、年月を経てサービスレベルが低下していきました。
のってたのしい列車群と相対的な差が開くこともさることながら、JR東日本グループの車内販売サービス合理化の影響で、グリーン車サロンで販売されていたカレーライスやチョコレートソース掛けアイスクリーム、生ビールといった、スーパービュー踊り子らしい車内販売メニューが消滅。グリーン車乗客へのシートサービスこそ残ったものの、末期におけるソフト面のサービスは、残念ながらデビュー時よりも劣ったものとなってしまいました。
デビュー時は画期的な車両だった251系。しかしながらその存在は、年月を経るとともに「普通の列車」に近いものとなっていったことは、残念でなりません。