乗降時間短縮を目指したもう1つの形
まもなく終焉を迎える多扉車両ですが、乗降時間短縮を狙ったドアの工夫は、もう1つのタイプがありました。いわゆる「ワイドドア」です。
ワイドドアは、扉の数はそのままに、開口幅を従来よりも広げたものです。6ドア車両と同様に、乗降できる部分を増やすことで乗降時間の短縮を狙いました。
1991年には小田急電鉄が1000系でワイドドア仕様の車両を導入。従来車では開口幅1.5メートルだったところを、2メートルに拡大しました。また同年、営団地下鉄(当時)も、東西線用の05系を1.8メートルのワイドドア車両として製造し、導入を開始しました。このほか、小田急1000系のような極端なワイドドアではないものの、阪急8200系や新京成電鉄8900形のように、従来車よりもわずかに幅を広げた車両も一部で導入されました。
6ドア車両と同様、鳴り物入りで登場したワイドドア車両ですが、さほど普及することはありませんでした。ネックとなったのは、ドアの開閉時間です。開口幅が広くなった分、扉を閉めるのにも従来車以上の時間が掛かるため、駆け込み乗車の頻度が上がってしまったのです。営団地下鉄では、ワイドドア車両は東西線向けの5本で導入を打ち切りました。さらに小田急電鉄では、1000系ワイドドア車両の開口幅を1.6メートルに狭める工事を実施。各社とも失敗に終わったかのように思われていました。
再びワイドドア車両が注目されたのは、6ドア車両の引退が始まった頃の2010年です。同年に東京メトロが東西線向けとして投入した15000系は、05系ワイドドア車両と同様、開口幅1.8メートルのドアを持つ形で開発されました。混雑が激しい東西線において、6ドア車両の導入は適さないと判断されたため、ワイドドア車両が復権したのです。
6ドア車両引退の要因となったホームドアも、ワイドドア車両は対応することができました。東京メトロでは、開口幅を従来機種以上に広げた新型ホームドアを開発し、東西線に設置を進めています。ワイドドア車両でない車両でもドア位置が異なるという課題があった東西線において、ホームドアを設置するための解決策として導入された新型機種ですが、扉数が同じワイドドア車両でも、これによってホームドア設置という制約をクリアすることができたのでした。