2020年に入り感染が拡大した新型コロナウイルスの影響で、外出の自粛や勤務のテレワーク化など、人々の行動に変化が表れています。これによって鉄道などの運輸業界は大きな影響を受けており、各社とも利用率の大幅減による危機を迎えています。
たとえば、JR東日本の2020年度第一四半期(4~6月期)決算では、営業収益が前年同期比で2942億円(56.0%)減、うち運輸収入が前年同月比で2829億円(61.1%)減で、ともに9期ぶりの減収。また、初めて営業損失・経常損失・四半期純損失を計上しています。
そのような状況の中、JR東日本の深澤祐二社長は、「時間帯別運賃」の導入を検討していると7月に言及。JR西日本の長谷川一明社長も会見で「お客様のご利用がコロナ前の状態に戻らない前提で、持続可能な経営を行うため、私どもの商品であるダイヤ、運賃・料金、サービス提供のあり方について大きな課題認識を持っています」と説明するなど、他社でも追従する動きがありました。
時間帯別運賃は、鉄道の営業時間をピーク時間帯とオフピーク時間帯に分け、ピーク時間帯はその他の時間帯よりも割高な運賃を設定するというものです。
海外では、ロンドン地下鉄などを運行するロンドン交通局(Transport for London)が、これを導入しています。ロンドン地下鉄では、平日の6時30分~9時30分と16時~19時をピーク時間帯とし、ICカード「オイスターカード」を利用する場合には、ピーク時間帯以外では割安な運賃を設定しています。
このような運賃体系を導入することで、一般的には、ピーク時間帯からオフピーク時間帯への利用者の転移による混雑緩和が期待できます。
この時間帯別運賃ですが、日本では各社とも検討段階としており、具体的な内容は見えてきません。どのような導入方法が想定されるのでしょうか。
ロンドン地下鉄では、ICカードを利用すると時間帯別運賃が適用されますが、紙のきっぷを購入する場合には、全時間帯でICカードよりも割高な運賃が適用されます。日本でも、紙のきっぷの運賃を基本とし、これを値上げした上で、ICカードでオフピーク時間帯に乗車する場合には割り引く、といった方法が想定されます。
一方、金額を割り引くのではなく、ポイントの付与による実質的な還元という手段もあります。東京メトロでは、新型コロナウイルス問題の発生以前から、有楽町線豊洲駅や東西線の利用者を対象に、ピーク時間帯を外して利用すると同社のポイントサービス「メトポ」を付与する企画を実施しています。同様に、オフピーク時間帯の利用者全員にポイントを付与する方法であれば、二段階の運賃を設定するよりも簡便ではあります。
一部報道によれば、JR東日本の深澤祐二社長は、まずは定期券での導入を検討しており、ポイントの活用も考えていくとしています。しかしながら、具体的な方針については、各社とも検討段階にあり、明確に見えていないのが現状です。
利用時間帯によっては実質的な値上げとなる時間帯別運賃の導入は、多くの利用者にとって、理解はあっても諸手を挙げて賛成できるものではないかもしれません。ですが、アフターコロナの時代を鉄道事業者が生き抜くためには、避けては通れない道なのかもしれません。