9月11日に運転を開始した、JR西日本の「WEST EXPRESS 銀河」。「TRAIN SUITE 四季島」や「TWILIGHT EXPRESS 瑞風」のような完全なツアー専用列車ではなく、時刻表に記載される一般的な寝台列車が新しく設定されるのは、1999年に運行を開始した寝台特急「カシオペア」以来、約21年ぶりのことです。
なお、WEST EXPRESS 銀河は、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、デビューしてから当面の間は、日本旅行が企画・実施する旅行商品に限定して販売されることになりました。そのため現時点では、実質的にツアー専用列車となっており、9月号のJR時刻表には掲載されていません。
ところで、日本の鉄道では、「はやぶさ」や「さくら」といった列車名や、「肥薩おれんじ鉄道」のような社名など、さまざまな場面で普通名詞が用いられています。今回の列車名に採用された「銀河」もその一つ。昔から列車名や会社名など、さまざまな場面で用いられてきました。そんな、「銀河」にまつわる鉄道の数々をご紹介します。
宮沢賢治のふるさとを走る「銀河」
銀河と鉄道、といえば、宮沢賢治が執筆した小説「銀河鉄道の夜」です。宮沢賢治が過ごした岩手県では、これにちなんだ列車や路線が存在します。
2002年の東北新幹線盛岡~八戸間開業で、第三セクターに経営が移管された東北本線の同区間のうち、岩手県側の盛岡~目時間は、アイジーアールいわて銀河鉄道が運営する「いわて銀河鉄道線」となりました。
社名のアイジーアール(IGR)は、Iwate Ginga Railwayの略。当初は「いわて銀河鉄道」という社名とする予定だったのですが、この名称ですでに法人登録されていたため、苦肉の策でこの社名としたのだそうです。
とはいえ、IGRは同社の略称として定着しており、社名ロゴや駅の発車案内など、さまざまな場面で目にすることができます。
「銀河」の名を冠したSL
宮沢賢治の出身地である岩手県では、JRでも銀河にちなんだ名前の路線があります。
花巻駅と釜石駅を結ぶ釜石線は、銀河鉄道の夜のモチーフになったという説に基づいたもので、「銀河ドリームライン釜石線」という愛称が付けられています。この路線では他にも、宮沢賢治の作品にエスペラント語(人工の国際言語)が用いられていたことにちなみ、各駅にエスペラント語の愛称が付けられているなど、宮沢賢治を多く意識しています。
そして、釜石線で2014年に運行を開始した列車が、その名もずばりの名を持つ「SL銀河」。客車は銀河鉄道の夜にちなんだデザインとなっており、はくちょう座やさそり座などの星座が、各車に描かれています。
長大路線を駆けた「銀河」
北海道でも、「銀河」の名前を用いた路線がありました。北海道ちほく高原鉄道の「ふるさと銀河線」です。
もともとは国鉄の路線として開業した同線ですが、利用者の減少で廃線されることに。そこで沿線自治体が第三セクターの北海道ちほく高原鉄道を設立し、1989年に同線の運営を引き継いだのでした。
総延長140キロと、当時は第三セクター最長の路線だったふるさと銀河線ですが、経営転換後も利用者の減少は続き、ふたたび廃止問題が取り沙汰されることに。積雪地を走る長大な路線故に、代替交通手段の確保が困難という課題がありましたが、結局2006年に全線廃止となってしまいました。
鉄道路線としては消滅してしまったふるさと銀河線ですが、かつての途中駅であった陸別駅の周辺は観光鉄道「ふるさと銀河線りくべつ鉄道」として整備されており、かつてふるさと銀河線を走った車両の乗車・運転体験などができます。
銀河鉄道といえば「999」
「銀河鉄道」といえば、銀河鉄道の夜と並んで挙げられるのが、松本零士さんのマンガ「銀河鉄道999」。惑星間を駆ける999号のけん引機は、国鉄のC62形蒸気機関車をモデルとするなど、実際の鉄道を意識した作品としても知られています。
そんな銀河鉄道999は、テレビアニメ化されるほどの人気を誇っていますが、鉄道業界においても、これとタイアップした企画がいくつも生まれました。
銀河鉄道999と鉄道のコラボは、アニメの制作期間中であった1979年に運転されたミステリー列車、「銀河鉄道999号」が最初。国鉄が企画した、行先不明のツアー列車というもので、多くの乗車希望者を集めたと伝えられています。
国鉄分割民営化後の1999年には、年号にちなんだ999号の展示イベントも。作中にも登場したC62形を品川駅に回送し、客車の色に塗り替えた通勤電車とともに展示されました。
また、作中の登場人物などを描いたラッピング車両も多数登場。西武鉄道や上信電鉄、肥薩おれんじ鉄道、北海道ちほく高原鉄道、北九州モノレールで運転されました。ただし、これらは既にほとんどが運転を終了。現在営業運転に就いているのは、北九州モノレールの車両のみとなっています。
このほか、駅のメロディとして、ゴダイゴによる映画版主題歌を採用しているところも。横浜線の淵野辺駅では、JAXA相模原キャンパスの最寄りであることから、この曲を採用。他にも、山陽新幹線の一部駅や北九州モノレールの小倉駅などで、同曲を駅メロディとして使用しています。
列車名で「銀河」といえば
30代以上の鉄道ファンにとって、「銀河」といえば、かつて東京~大阪間を結んだ寝台急行「銀河」ではないでしょうか。
東京~大阪間の夜行急行が「銀河」と呼ばれるようになったのは1949年。同区間で戦後初の特急「へいわ」が運転を開始したのと同じタイミングでした。
「銀河」運転開始後の1950年代から1960年代にかけては、列車名は「『のぞみ』1号・3号」のように数字で区別するのではなく、同区間での運転でも1往復ごとに別の愛称を立てるのが一般的でした。そのため、1950年代には「銀河」のほか、「明星」や「彗星」、「月光」など、星や宇宙にちなんだ列車名の夜行急行が、「銀河」とともに東海道線で運転されていました。
最盛期には7往復を数えた東京~大阪間(一部は神戸駅まで運転)の夜行寝台急行も、東海道新幹線の開通によって順次廃止に。1975年には「銀河」1往復のみとなりました。しかしながら、深夜に出発して早朝に到着する、という夜行列車は、特にビジネス客からの人気を集め、この1往復は分割民営化後まで残存しました。
最末期には24系7両編成(電源車含む)で運転されていた「銀河」ですが、車両は全て開放寝台で個室の設定が無いにもかかわらず、運賃や特急料金に加えて寝台料金も必要となる値段の高さがネックな存在に。新幹線の速達化や夜行バスの増便など、競合手段の競争力強化もあって、利用者は次第に減少。ついに2008年3月をもって廃止されてしまいました。