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秋田と山形を駆けたE3系 「こまち」から観光列車まで

2020年10月31日(土) 鉄道コムスタッフ 西中悠基

1997年、新幹線と在来線を直通する「新在直通運転」の2例目として開業した秋田新幹線。この路線の開業時に投入された車両が、「ミニ新幹線」2形式目となるE3系です。

1997年にデビューしたE3系
1997年にデビューしたE3系

1992年に山形新幹線「つばさ」用で営業運転を開始した400系は、日本で初めて新在直通運転を実現した車両。新幹線車両ながら在来線規格の細い車体を採用するなど、新幹線史における画期的な車両として登場しました。しかし400系の機器類は、当時の東北新幹線の主力であった200系に合わせた性能となっており、営業最高速度は時速240キロに留まっていました。

初代山形新幹線用車両の400系
初代山形新幹線用車両の400系

続く秋田新幹線用に開発されたE3系では、営業最高速度を時速275キロに向上。車体は鋼製だった400系に対し、アルミ合金製となったほか、足回り機器ではVVVFインバータ制御装置を採用するなど、400系以降の技術の進歩を反映した車両となりました。一方、車体幅の違いによって生まれる隙間を埋める乗降用のステップや、新幹線区間で併結運転するための分割併合装置など、新在直通運転用車両としての装備は400系から受け継いでいます。

E3系の営業運転開始は、1997年3月22日。東京~秋田間を直通する「こまち」としてデビューしました。同日にはE2系も営業運転を開始しており、E2系「やまびこ」と連結して運転する「こまち」は、東北新幹線での時速275キロ運転を実現。東京~秋田間の所要時間短縮に貢献しました。

「こまち」として走るE3系
「こまち」として走るE3系

秋田新幹線開業前の1995年では、東北新幹線の東京~盛岡間が3時間30分前後、L特急「たざわ」は盛岡~秋田間で2時間前後を要しており、合計で約5時間30分(乗り換え時間含まず)の旅路でした。秋田新幹線の開業後は、東北新幹線、および秋田新幹線として整備された盛岡~秋田間での速度向上に加え、乗り換えも不要となったことで、東京~秋田間は4時間30分前後、最速列車では3時間50分台と、大幅に短縮されたのです。

当初は5両編成で製造されたE3系ですが、利用者数が想定以上となったため、早くもデビュー翌年の1998年には全編成を6両編成に増強。さらに増発への対応として、1998年から2005年にかけ、計10本が増備されました。

また、E3系は山形新幹線用としても製造されました。1999年には、山形~新庄間延伸開業用として7両編成2本が登場。2005年にも1本が増発用として投入されています。さらに2008年からは、400系の置き換え用として、マイナーチェンジした2000番台が登場。7両編成12本が製造され、2010年までに400系を全て置き換えました。

E3系の製造数はあわせて261両。JR東日本の新幹線路線を走る車両では、歴代5位の数値です。

山形新幹線用のE3系
山形新幹線用のE3系
山形新幹線用E3系は、デビュー当時は銀色の塗装をまとっていました(画像は復刻塗装車両)
山形新幹線用E3系は、デビュー当時は銀色の塗装をまとっていました(画像は復刻塗装車両)

一方、東北新幹線の新青森延伸、北海道新幹線の開業を見据え、JR東日本は東北新幹線で時速320キロ運転が可能な車両の導入を決定しました。これにあわせ、東北新幹線で併結運転する「こまち」も、E3系から新型車両に置き換えられることに。2013年に時速320キロ運転が可能なE6系がデビューし、翌2014年までにE3系は「こまち」から全て撤退しました。

「こまち」から撤退したE3系は、初期に導入された編成は全て廃車に。一方、2002年以降に製造された編成は、さらなる活躍の場が与えられました。

6両編成2本は、新幹線初の「のってたのしい列車」に改造。1編成は、車内に足湯などを設置した「とれいゆ」となり、主に福島~新庄間の「とれいゆ つばさ」として運転されています。もう1編成は、車内で現代美術を展示する「現美新幹線」に。活躍の場を東北新幹線系統から上越新幹線へと移し、主に越後湯沢~新潟間で運転されることとなりました。

上越新幹線を走る「現美新幹線」
上越新幹線を走る「現美新幹線」

また、山形新幹線「つばさ」用編成に生まれ変わった編成も。6両編成に中間車1両を組み込み、車内設備も山形新幹線用に改造する形で、2014年から2015年にかけて7両編成2本が登場。1999年の山形新幹線新庄延伸開業時に投入された2本を置き換えました。

このほか、R21・R22編成の6両編成2本が車体側面の「こまち」ロゴを消し、引き続き東北新幹線の運用に充当。E5系「やまびこ」「なすの」の増結編成のような扱いで、細々と運用を続けることとなりました。かつてのように在来線区間の定期列車に用いられることは無かったものの、2019年までは所属が秋田車両センターのままとなっており、検査時には盛岡~秋田間に乗り入れる姿が見られました。

1997年のデビューから走り続けてきたE3系ですが、いよいよ置き換えの時が迫りつつあります。

山形新幹線用のグループについては、JR東日本は2020年3月、新型車両E8系への置き換えを2024年春より始めると発表。時速300キロでの運転を可能とし、営業時速275キロに留まるE3系よりもスピードアップを図る予定です。なお、山形新幹線用のE3系は現在7両編成15本が在籍していますが、E8系は2本多い7両編成17本を投入する計画です。

また、「のってたのしい列車」に改造された編成のうち、上越新幹線を走る「現美新幹線」は、2020年12月に運転を終えることが発表されています。

さらに、東北新幹線の増結用として残存していた2本については、2020年11月より、充当列車を16両編成から10両編成へ変更するとの掲示が一部駅に貼り出されています。これにより、R21編成とR22編成は定期列車での運用が全て消滅してしまいます。とはいえ、こちらは新型コロナウイルスの影響による利用者減に対応したもの。JR東日本では両数変更を「当面の間」としており、情勢次第ではふたたび定期運用が復活するかもしれません。

E5系と連結して「なすの」に充当されるE3系(左)
E5系と連結して「なすの」に充当されるE3系(左)

いよいよ終焉の時が見えつつあるE3系。しかしながら、400系から受け継いだ新在直通運転というミッションは、後継のE6系やE8系にも受け継がれています。

【2023年12月18日追記:画像を追加しました】

 

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