ミラーレス一眼と鉄道写真
私と同じ昭和生まれの方は、写真は銀塩フィルムのカメラから始めたという人がほとんどだろう。それがまさか、フィルムカメラがデジタルカメラに取って代わられるとは、当時はつゆも思わず、さらに今では、一眼レフではなくミラーレス一眼がカメラ業界の主流となりつつあるのだ。
カメラ業界の技術というのはまさに加速度的に進化しており、目を見張るものがある。ただ、鉄道写真業界に目を向けると、一眼レフの需要は未だ根強く、撮影現場でもミラーレス一眼よりも一眼レフを構える姿を多く見受ける。その理由は様々だろうが、気になってはいるものの、今一歩ミラーレス一眼に踏み出せない、という鉄道写真愛好家も多いのではないだろうか。
そこでこの連載では、ミラーレス一眼の特徴と機能、そして魅力を鉄道写真へのアプローチの仕方と共に紐解いていきたい。もちろん一眼レフには一眼レフの良さがあるので、一眼レフ愛好家の方も、カメラの知識をより深く得るということで、参考にしていただければ幸いだ。
さて、なぜ現在のカメラメーカーは一眼レフではなくミラーレス一眼の開発に注力しているのだろうか。その理由は、ミラーレス一眼が一眼レフよりも大きな発展性を秘めているからだと私は考える。
そもそも、ミラーレス一眼と一眼レフの違いは、その呼び名からもわかるように、光を読み込むイメージセンサー(CMOSなどの撮像素子)の前にファインダーへ反射させるミラーが有るか無いかである。至極簡単なことだが、この構造の違いがカメラの性能や機能だけでなく、レンズの解像度など画質にも大きな影響を及ぼしている。
シャッターシステムの違いと高速連写
ミラーレス一眼と一眼レフの違いは色々あるが、記念すべき連載第1回は、現在の一眼レフやミラーレス一眼で多く採用されている「フォーカルプレーンシャッター」と「電子シャッター」の違いをお話しよう。
フォーカルプレーンシャッターは、基本的には先幕と後幕の2幕の動きで露光量を調整する、メカニカルシャッターのことだ。シャッターボタンを押すとイメージセンサーを覆っている先幕が動き出し、追って後幕が動く。そしてまた所定の位置に先幕と後幕が戻るというのが一連の動作だ。
シャッタースピードは先幕と後幕の隙間(スリット)の幅によって変わり、先幕と後幕の隙間が小さくなれば高速シャッター、隙間が大きくなればスローシャッターということになる。ミラーレス一眼の場合はそのフォーカルプレーンシャッターの一連の動作速度と画像データの読み込み速度で連写速度(コマ速)が決まるのだが、一眼レフはさらに先幕動作の前にミラーアップし、後幕動作の後にミラーダウンするという動作の時間も加わるのでそれが連写速度に大きく影響する。
ミラーの上下動は速さに加え精度も重要で、ミラーアップとダウン時にミラーがバウンドするのだが、すぐにバウンドを抑えないとミラーダウン時のファインダー像が安定せず、次の動作にも移れない。また、AF機のミラーは、実は一部の光を透過する「ハーフミラー」(多くは光学ファインダー用に2/3の光を反射し、AF用に1/3の光を透過する)で、特にコンティニアスAF(被写体追従型AF)では、ミラーダウン時にバウンドで暴れるとAF駆動用の測距時間が短くなり、AFの精度が落ちるといったデメリットも起きる。
一眼レフの連写は、このミラーとシャッターユニットの一連の動作を1コマごとに行うので、技術的には1秒あたり16コマの連写が限界と言われている。ただ、必然的にミラーアップ時のブラックアウトの時間も増えるので、ファインダーで被写体を視認するのも難しくなるだろう。
ちなみに、シャッターのシステムには「電子先幕シャッター」もある。後述する電子シャッターが先幕の役目をして、フォーカルプレーンシャッターの後幕で撮影を終了するものだ。メリットは先幕を電子シャッターにすることで動作による振動が無くなり、長時間露光時の振動ブレが起きにくい。デメリットはシャッタースピードが高速になればなるほど露出ムラが出やすくなるという点だ。よって電子先幕シャッターは夜間のバルブ撮影向きと言えるだろう。
さて、話を戻して、ミラーレス一眼のシャッターシステムはどうだろうか。ミラーレス一眼もフォーカルプレーンシャッターを搭載している機種は多い。ちなみに2020年11月現在、ミラーレス一眼のメカニカルシャッターで最速の連写性能を誇るのがニコン「Z 6II」の秒間約14コマだ。
ただ、ミラー機構は無くなったとは言え、やはりメカニカルシャッターの動作にも限界はある。そこで上がってくるのが電子シャッターの存在だ。電子シャッターはイメージセンサーに指定した露光時間分を光情報として読み込み、記録するので、ミラー機構が無くEVF(電子ビューファインダー)で被写体を視認するミラーレス一眼との相性は抜群だ。
デジタル一眼レフでも電子シャッターを搭載した機種はあるが、ミラーレス一眼ではさらなる高性能化を視野に、これからの主力となるシャッターシステムとして注目されている。特に60コマ/秒といった高速連写や1/32000秒の超高速シャッタースピードなど、メカニカルシャッターでは実現できない新次元の領域にも到達する。ソニー「α9 II」やキヤノン「EOS R5」など、電子シャッター搭載を前面に押し出す機種も登場している。
ここまで見ると、電子シャッターは高速シャッタースピードと高速連写が必要な鉄道写真にぴったり!……と言いたいところだが、ちょっとした問題がある。「ローリングシャッター歪み」である。
現在ほとんどのミラーレス一眼で採用されている電子シャッターは、ローリングシャッター方式だ。横構図にした場合、ローリングシャッターは、スキャナーのように上から順にイメージセンサーで受光した信号を読み出す。すると、上辺と下辺の読み出しに大きなタイムラグが生じるため、横構図で真横に走る列車を撮ると車体が平行四辺形のように歪んでしまうのだ。特に列車の速度が速ければ速いほど、列車までの距離が近ければ近いほどその歪みは大きく表現されてしまう。
また、イメージセンサーの画素数が多くなれば、さらに読み出しに時間がかかり、これもローリングシャッター歪みの原因になる。よって、マイクロフォーサーズやAPS-Cサイズの中でも、特に画素数が比較的小さい機種であれば、若干だが歪みは少なくなる。また、画素数は大きめでも、先ほど挙げたソニー「α9 II」やキヤノン「EOS R5」などは、読み出し速度を速くしているので、ローリングシャッター歪みはかなり改善されている。
さらに、撮り方によってもローリングシャッター歪みを目立たなくする方法がある。鉄道写真撮影の場合は、車両の真横ではなく、望遠~超望遠レンズで列車の見かけの速度を遅くして、流線形の車両の編成写真を撮ると良いだろう。逆に、通勤電車などの角ばったデザインの車両は、やはりローリングシャッター歪みが現れてしまうので、その際はメカニカルシャッターの使用がおすすめだ。
これはあくまで私の見解だが、2020年現在の中~上級ミラーレス一眼が、電子シャッターだけでなく、フォーカルプレーンシャッターも搭載しているのは、ローリングシャッター歪みがまだ完全に除去できないためだろう。
だが、ローリングシャッターの読み出し速度のさらなる高速化や、現時点で開発と製造のコストが高額になると言われているが、1カットを一気に読み出すグローバルシャッター方式の採用などで、電子シャッターによる歪みの問題が解決される日もそう遠くないはずだ。
先にも述べたが、電子シャッターは超高速シャッタースピードの実現や機械的な動作が無いため故障が減るなどメリットが大きく、さらなる発展性を秘めているのは間違いない。
特に標準レンズで300km/h近くの新幹線を撮ろうとすると、現在のメカニカルシャッターで最速の1/8000秒でもブレてしまうが、電子シャッターならば最速1/32000秒もの設定が可能で、しっかり写し止めることができる。ミラーレス一眼の電子シャッターが拓く鉄道写真の新たな世界が実に楽しみだ。
※次回は、一眼レフの位相差AFとミラーレス一眼の像面位相差AFの違いや、使い方のコツをお伝えします。
(画像は全て編集部撮影・作成)