鉄道写真はピント合わせが命
1960年代から1970年代のSLブームの時、沿線にはカメラを構えたレイルファンが多数集まり、黒鉄(くろがね)の勇者を狙う黒山の人だかりができていた。その頃の35mmスチールカメラと言えばマニュアルフォーカス(MF)機構ばかり。皆がファインダーを覗いてピントを手動で合わせていた。
私もMF機から鉄道写真を始めた一人だ。当時は開放F値が暗いレンズを使っており、天気が良い日はピント合わせがしやすかったが、曇りや雨、はたまた夜間などはピント合わせが難しく、小学生で技術が無かったとはいえ、今となっては貴重な鉄道シーンでピンボケ写真を量産してしまった苦い思い出も多い。「常に正確なピント合わせができればプロ」と言われるくらい、MF機全盛の時代はピント合わせが難しかったのだ。
しかし今はどうだろう。ほとんどのカメラに高性能なオートフォーカス(AF)機構が当然のごとく装備されていて、MF機時代のようなピント合わせの失敗が激減している。特に、動体である走行中の鉄道車両へのピント合わせでは、AFは最大の戦力になる。
だが、それでもピント合わせがうまくいかず、悔しい思いをする人もいるのではないだろうか。それは、まだAFを使いこなしていないのが原因かもしれない。
デジタルカメラになって、多少の露出ミスはレタッチでカバーできるが、ピンボケだけは修正がほとんどできない。鉄道写真撮影はピント合わせが命だ。
ということで今回の「ミラーレス一眼が拓く新たな鉄道写真の世界」は、「ミラーレス一眼・一眼レフでAFを使いこなす」と題して、前編「デジタルカメラのAFシステムを知る」、後編「鉄道写真撮影のシーンによってAFを使い分ける」の全2回にテーマを分けてお話しよう。
AFシステムを理解し、場面によって使い分ければピンボケという初歩的な失敗はかなり減るはず。まさに「機材を知り機会を知れば百『路線』殆(あや)うからず」だ。
ミラーレス一眼カメラと一眼レフの採用AFシステムの違い
今回は、鉄道写真撮影のノウハウよりも、カメラのAFシステムを理解する内容になる。少し難しいかもしれないが、撮影現場での判断が正確になる知識になるので覚えてほしい。さて、本題のAFシステムについて入ろう。AFの測距方式は、赤外線や超音波で測距する「アクティブ方式」と、レンズを通った光を利用して測距する