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常磐線全線復旧から1年、復興への歩みが続くいわき〜岩沼間を訪ねる

2021年3月25日(木) フォトライター 栗原景

車窓の見通しが良くなってしまった新地〜浜吉田間

伝承館で震災と原発事故について学んだのち、双葉駅11時15分発の特急「ひたち3号」に乗車しました。いわき〜仙台間の「ひたち」は1日3本。震災前は、原ノ町止まりを含めて6本でしたから半減しましたが、この地域の人々にとって東京に直結する貴重な交通です。乗客は1両に7〜8人ほど。原ノ町、相馬で多くが降りましたが、乗ってくる人もそこそこいます。

大野・双葉両駅には特急「ひたち」が停車。首都圏そして仙台と直結した双葉駅
大野・双葉両駅には特急「ひたち」が停車。首都圏そして仙台と直結した双葉駅

相馬駅を発車した「ひたち3号」は、駒ケ嶺を過ぎ、新地駅の手前から内陸付け替えとなった新ルートに入ります。旧ルートは、すでに宮城県道38号線相馬亘理線として整備が進められており、分岐点もよほど注意して観察しないとわかりません。

旧ルートは海岸沿いの平坦地をまっすぐ北上していましたが、新ルートは内陸側に最大約1.1km入った阿武隈高地の麓を経由します。山を切り崩すような工事を極力避け、地形を利用したルートとした結果、駒ケ嶺〜浜吉田間の営業キロは22.6kmから23.2kmと0.6km延びました。全体の4割が高架線です。

新ルートの高架は全体の4割に留まる。地形を利用し踏切を許容することで建設費を圧縮した(坂元〜山下間)
新ルートの高架は全体の4割に留まる。地形を利用し踏切を許容することで建設費を圧縮した(坂元〜山下間)

新ルートの特徴は、事実上の新線であるにも関わらず踏切が新設されたこと。現在の法律では、鉄道と道路は必ず立体交差することになっており、踏切の新設が原則として認められていません。しかし、新ルートは20か所以上踏切があった旧ルートの「改修」であることから、5か所の踏切新設を許容して建設費を圧縮しています。また、旧ルートはほとんど海が見えませんでしたが、新ルートでは時折太平洋が見えるのも特徴です。高架線となって視点が高くなったうえ、津波によって防風林が失われ、また海岸近くに被害地に建物を建てることが禁じられて見通しが良くなったためです。

皮肉にも見晴らしがよくなった駒ケ嶺〜浜吉田間の新ルート。海とともに震災遺構の中浜小学校がぽつんと建っているのが見えた
皮肉にも見晴らしがよくなった駒ケ嶺〜浜吉田間の新ルート。海とともに震災遺構の中浜小学校がぽつんと建っているのが見えた

高架から降り、右手から旧ルート跡で建設中の道路が近づいて来ると、新ルートは終了して浜吉田駅を通過します。亘理、逢隈を経て東北本線と合流し、岩沼を通過。12時29分、「ひたち3号」は仙台駅に到着しました。

山下〜浜吉田間で旧ルートに合流。旧線跡は復興道路頭無西牛橋線に生まれ変わる
山下〜浜吉田間で旧ルートに合流。旧線跡は復興道路頭無西牛橋線に生まれ変わる

これまでの生活と復興の狭間で悩む山下の人々

午後は仙台駅前からカーシェアリングを利用して、たった今通過してきた付替区間を見に行きましょう。

最初に訪れたのは、山下駅です。1955年に山下村と坂元村が合併して誕生した山元町の中心駅で、交換設備を備えた高架駅です。線路付替前は田園地帯でしたが、今は駅西側にドラッグストアやスーパー、新興住宅地の「つばめの杜」が整備されています。山元町では、山下駅と隣の坂元駅周辺、そして国道6号線沿いの国立宮城病院周辺の3か所に町の機能を集約する、コンパクトシティ構想を進めているのです。

山元町コンパクトシティ構想の中心となる山下駅
山元町コンパクトシティ構想の中心となる山下駅

一方、かつての山下駅は、現在の駅から東へ1kmほどの花釜地区にありました。花釜地区は、以前は1000世帯以上が暮らす山元町最大の住宅地でしたが、津波による被害を受け、現在は400世帯余りに減少しています。それでも、旧山下駅周前には個人商店と「山下駅前簡易郵便局」が健在で駅前の趣を残していますが、この風景が見られるのもあとわずか。旧山下駅は解体され、震災犠牲者を慰霊する「大地の塔」が建てられているほか、線路跡は道路化する工事が進行中です。駅前から現山下駅に至る県道121号線も避難道路として拡張される予定で、住み続けるには土地の嵩上げが必要な場所もあります。

避難道路の整備が進められている旧山下駅前。「山下駅前簡易郵便局」が健在だが、ここも道路拡張の敷地にかかっている
避難道路の整備が進められている旧山下駅前。「山下駅前簡易郵便局」が健在だが、ここも道路拡張の敷地にかかっている
取材時、旧山下駅に唯一残っていた鉄道の遺構が、6両編成の停車位置目標だった
取材時、旧山下駅に唯一残っていた鉄道の遺構が、6両編成の停車位置目標だった

津波被害の経験から災害に強いまちづくりを目指している山元町では、前述した3地域への移住を勧めていますが、長年旧山下駅周辺に暮らしてきた人たちの中には、復興から取り残されていると複雑な思いを抱く人もいます。

90人の命を守った中浜小学校を見学

山下駅から4kmあまり南下すると、山元町のもう一つの駅、坂元駅があります。こちらも、コンパクトシティ構想の一環として駅西側に新しい住宅地が整備され、駅横には特産品であるイチゴの直売を行う「やまもと夢いちごの郷」があります。

コンパクトな高架駅となった坂元駅。隣にはいちごの直売所があり食事もできる
コンパクトな高架駅となった坂元駅。隣にはいちごの直売所があり食事もできる

山下駅も坂元駅も、新しい町は駅の西側、内陸側に整備されています。駅の東側には調整池も設けられ、もし再び大津波が襲ってきた場合でも、「防潮堤/旧常磐線を整備した県道38号線/調整池とJR常磐線高架」という三段構えで津波の力を減衰させる多重防御によって、住民を守ろうとしているのです。

旧坂元駅は、現在の駅から1.1km北東にありました。現在は、線路跡が県道38号線相馬亘理線に整備され、ここに駅があったことを偲ばせるものは何もありません。旧坂元駅周辺は3mを大きく超える津波に襲われたことから建築物の建設が認められておらず、線路跡の県道も、津波を減衰させるための高盛土で整備され、駅の痕跡を一切消してしまいました。

旧坂元駅があった場所には駅の痕跡は何もない。取材時、旧線を転用した県道のうち開通済みの区間は新地からここまでだったが、3月26日に全通
旧坂元駅があった場所には駅の痕跡は何もない。取材時、旧線を転用した県道のうち開通済みの区間は新地からここまでだったが、3月26日に全通

旧坂元駅から県道38号線を1.4kmほど南下すると、原野の中にぽつんと建つ建物が見えてきます。これは、震災遺構として保存・公開されている中浜小学校。震災発生後、児童と職員、そして迎えに来た保護者ら90人が屋上にある屋根裏倉庫に避難し、2階の天井付近にまで達した津波に呑まれることなく、全員が救助された現場です。

地域の人々の命を守った中浜小学校。中央の階段の上に津波の高さを示すプレートが見える。子供たちは三角屋根の屋根裏倉庫に避難した
地域の人々の命を守った中浜小学校。中央の階段の上に津波の高さを示すプレートが見える。子供たちは三角屋根の屋根裏倉庫に避難した

2020年9月26日から一般公開が始まり、常駐する職員による詳細な解説を聞きながら見学ができます。「さあ、この状況を見て、津波はどの方角から入ったと思いますか」「この天井にひっかかっているものは何だと思いますか。実は……」など、真剣さの中にユーモアも交えた解説は興味深く、「被災地だから」と肩肘を張ることなく、津波の恐ろしさと対策の大切さを学ぶことができます。

被災時のままの姿を保存している中浜小学校。津波が押し寄せた方角に倒れている
被災時のままの姿を保存している中浜小学校。津波が押し寄せた方角に倒れている

中浜小学校の周辺には、10年前まで中浜地区の住宅地が並び、すぐ横の踏切を常磐線の電車が行き交っていました。今は荒涼とした原野に、防潮堤を兼ねた県道がまっすぐ延びているだけです。

かつて目の前には山元町中浜地区の住宅地が広がっていたが、現在は建築禁止
かつて目の前には山元町中浜地区の住宅地が広がっていたが、現在は建築禁止
常磐線の線路は、町を守る基幹道路に変貌
常磐線の線路は、町を守る基幹道路に変貌

2月13日に発生した福島県沖地震の際には、東北新幹線の代替ルートとしての役割を立派に果たした常磐線。その沿線では、まだまだ終わることのない東日本大震災からの復興の取り組みが続いています。津波の恐ろしさとエネルギー問題の難しさを知るためにも、常磐線を乗り通して、これらの街を訪れてみてはいかがですか。

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