ミラーレス一眼用EVFの夜明け
ミラーレス一眼とは切っても切れない関係のEVF(電子ビューファインダー)。イメージセンサーで受けた画像信号をファインダーに表示させるファインダー方式で、一眼レフのOVF(光学ファインダー)とは全く違うシステムだ。EVF自体は、映像信号を電気的に記録するビデオのファインダーとして確立されたもので、一般向けのビデオカメラでも1980年代にはEVFが搭載されていた。
現在のような高機能なEVFが初搭載された一般向けレンズ交換式ミラーレスデジタルカメラは、2008年10月に発売されたパナソニックのマイクロフォーサーズ機「LUMIX DMC-G1」だ。
それまでデジタルカメラと言えば、一眼レフやレンズ一体型のネオ一眼、コンパクトデジタルカメラというラインナップだったが、光学ファインダーのみか、背面モニターのみ、またはその両方というのがほとんど。EVF搭載機はあったものの、ビデオカメラと同じ様にフレーミング確認を主とするものだった。
「LUMIX DMC-G1」のEVF(製品ではLVF:ライブビューファインダーと呼んでいた)は、当時最高クラスの、144万ドット相当の高精細高密度EVFにしたことで、光学ファインダーに近い臨場感と、シャッター速度や絞りをはじめ、様々な情報表示や撮影設定が、ファインダーを覗いたままできるようになった。軽量・コンパクト&レンズ交換式という、コンパクトデジカメとデジタル一眼レフの良いところ取りのミラーレス一眼という新たな機種が生まれたのだ。
「LUMIX DMC-G1」の登場はデジタルカメラ業界に衝撃を与えたのは事実で、以降各メーカーでミラーレス一眼の開発が加速したのはいうまでもない。「LUMIX DMC-G1」はまさにミラーレス一眼の世界を切り開いた一台である。
鉄道写真撮影で物凄く有利なEVF
ではここで、早速本題の「EVFがもたらした、鉄道写真の撮影スタイル」について話を進めよう。ちなみに私が現在愛用しているフルサイズミラーレス一眼、ニコン「Z6II」「Z7」のEVFは「0.5型 Quad-VGA OLED、約369万ドット、上下左右とも約100%(対実画面)」というスペックを持っている。
順序が逆にはなるが、EVFの欠点と呼ばれている部分からお話しよう。
EVFの欠点は主に「見え方」と「表示タイムラグ」の2つだ。ひとつめの「見え方」だが、一眼レフの光学ファインダーに比べ、EVFはファインダーに表示されるのは「映像」であるので、臨場感が無く立体的にも見えない……。と言われていたが、現在の最新機種では光学ファインダーの見え方にかなり近いと感じるほどに緻密で違和感がない。ニコンZシリーズの約369万ドットの表現力ですらそう感じるが、ソニー「α1」のEVFはなんと約944万ドットだ。これほどの高精細さがあれば、もうOVFと変わらない見え方である。
また、現在のEVFの表示パネルは、以前に問題視されていた画像のチラつきはほとんどなく、表示できる色域も広がり、濃淡をより忠実に表現することができるようになった。おかげで被写体を立体的に感じることもできる。
ふたつめの「表示タイムラグ」は、これはさすがにまだ感じるレベルではあるが、読み出し速度の高速化で新しい機種であればあるほど、タイムラグは減ってきている。
流し撮りでは、タイムラグが大きいと、列車の動きに合わせてカメラを動かすことが難しかった。だが、タイムラグが少なくなってきた近年の製品は、列車の動きに合わせてカメラを動かすことが容易になっている。鉄道写真撮影でのEVFの欠点は、ほぼ解消されたといっても良いだろう。
それでは、ここからは鉄道写真撮影における、ミラーレス一眼のEVFならではのメリットをお話しよう。
◆EVFは視野率がほぼ100%
先ずはOVF(光学ファインダー)との違いだが、ファインダー視野率(画像として記録される範囲とファインダーで確認できる範囲の比率)がどのメーカーもEVFはほぼ100%だ。
かたや一眼レフのOVFは機構上100%にするのは難儀で、ほぼ100%をうたっているのはフラッグシップやハイエンドクラスモデルがほとんど。普及機モデルの多くは90%台だ。
一眼レフの撮影で、線路際で三脚を使って厳密にフレーミングしたのに、架線柱や標識などの余分なものが、画面隅や横にちょっと入ってしまったという経験は無いだろうか。それはOVFの視野率が90%台のため、その周りの部分が見えていないためだ。
一眼レフの背面モニターの表示は大概100%なので、チェックするには良いが、その都度OVFと背面モニターを交互に切り替えるのが煩わしくなる。撮影地の制限が多く、針の穴を通すほどの厳密なフレーミングをしなくてはならない鉄道写真では、ミラーレス一眼の視野率ほぼ100%であるEVFは、実に理にかなったファインダーであることが分かるだろう。
◆大きい画面表示で部分拡大確認ができる
編成写真や鉄道風景写真撮影で「『置きピン』でここの枕木にピントを合わせる」とセッティングする人も多いだろう。だが厳密にピンポイントでピント合わせをするというのは意外に難しいものだ。特に一眼レフのOVFはマグニファイヤー(ファインダー用の拡大鏡)を装着しない限り拡大表示できず、正確なピント位置がつかみにくい。
私は一眼レフを使っていた時は、背面モニターの拡大表示を使ってピント位置を修正していたものだ。そしてOVFに戻して撮影というパターンだった。ちなみに一眼レフの背面モニターモードでは、OVFモードに比べて連写速度が落ちる機種もある。よって高速連写が重要な鉄道写真撮影では、一眼レフはOVFモードが一番信頼できる。
だが、ミラーレス一眼のEVFになってからは、ファインダーを覗いたまま拡大表示ができるので、厳密なピント合わせができる。
恥ずかしながら最近老眼が入り始めた私は、背面モニターを以前よりも離れて見ないとならないので、結局いくら拡大表示してもモニター画面が遠くなって確認しにくい。それに反して、EVFはファインダー内の大きい画面で確認できるので、正直ありがたい。
また、少し前の機種のEVFは拡大率が少なく、小さい表示で見づらいものが多かった。しかし近年のミラーレス一眼のEVF拡大率は各メーカーともフルサイズで0.7~0.9倍(APS-Cは÷1.5~1.6、マイクロフォーサーズは÷2.0で計算するとフルサイズ換算値)と、表示が大きいので視認しやすい。
さらに、拡大率を変えられる機種があることも、EVFならではの利点の一つだ。メガネをかけて撮影する人は、ファインダーからの距離が離れてしまうので、そのままだと画面の4隅が見えないことがある。だが拡大率を下げることで、眼鏡をかけたままでも4隅までしっかり見ることができる。OVFではできない機能で、まさにEVF様様だ。
◆露出シミュレーションと色味が分かる
私がEVFの最も良い点と感じるのが、露出シミュレーションとコントラストや彩度などの色味の確認ができるということだ。鉄道写真を撮影しているときに、列車が来る寸前に曇ったり、またその逆に晴れてしまったりということは無いだろうか。というよりも、列車が来た時に、急に光の具合が変わるというのは「鉄道写真あるあ