編成写真のノウハウ 標準レンズ編
前回の「「編成写真」をたしなむ(2) ~ワンランク上の望遠レンズワーク~」では、望遠レンズの特徴を活かした編成写真撮影のコツをお話しましたが、今回は標準レンズで撮る編成写真の考え方と撮影のコツをお話します。
おさらいとなりますが、望遠レンズでの編成写真で特徴的な表現といえば圧縮感です。10両を超える通勤電車や特急列車、そしてさらに長編成になりやすい貨物列車を望遠レンズで撮ると、先頭車両はもとより、最後尾の車両まで比較的大きめに写り、編成全体が圧縮されることで編成の重厚感が出てきます。望遠レンズは長編成の編成写真撮影に向いたレンズなのです。
かたや、標準レンズではどうでしょう。標準レンズは望遠レンズや広角レンズのような個性の強い表現ではありませんが、人の目と同じ自然なパース(パースペクティブ=「遠近感」の略語)で見えます。よって、形式写真のような1両単位の車両撮影で形を忠実に再現できる利点があります。
ちなみに35mmフルサイズでは、70mm前後が人間の目と同じパースになります。よく50mmが人間の目と同じと言われますが、それは人間の視野率(目で見えている範囲)であり、パースではありません。これは豆知識的に覚えておくと良いでしょう。
標準レンズの描写を活かすフットワーク
さて、編成写真撮影の話に戻しましょう。
自然なパースで撮影できる標準レンズは、編成全体が比較的大きく写る望遠レンズ比べ、先頭車は大きく写っても2両目からは小さくなります。そのため長編成の列車では、編成の重厚感というよりも、列車をのびやかに、そしてスピード感のある構図で撮ることができます。何より1両~4両程度の短編成撮影にはベストマッチ。のびやかさに加え、迫力のある編成写真が撮れます。ただ望遠レンズの使い方にコツがあるように、標準レンズにもより美しい編成写真を撮るためのコツがあります。
まずは立ち位置。望遠レンズは多少前後に動いても、圧縮感があるために、それほどフレーミングは変わりません。しかし標準レンズは1歩動くだけで、列車の形に変化が出たり、背景の写り込みぐらいが変わってきます。
それは前後左右だけでなく、上下についても同じです。カメラを構えた位置が仕上がりに大きく反映されるのです。「ズームレンズだったら焦点距離を変えれば良いのでは?」と思う人もいると思いますが、例えば50mmで撮った場所から、一歩下がって70mmで撮るのでは、列車の写り方は近くても「列車の横の電柱が消える」「手前の草が足回りに掛からなくなった」など、写真の出来栄えに差が出ます。
かつて写真専門学校や写真学科のある大学などでは、初めて一眼レフを買う学生に、同時に50mmの単焦点レンズの購入を勧めていました。50mmは人の視野率に近いので、違和感の無い自然な作品が撮れることに加え、単焦点レンズにすることで、撮影者自らが動いて、細かくアングルを調整する工夫を体に覚え込ませるためです。
そのためか、50mmの単焦点レンズはカメラメーカー、レンズメーカーで数多くのラインナップがあります。メーカーを問わず50mmを数本持ち、それぞれのレンズの描写力の違い楽しみながら、作品作りに活かしているプロの鉄道写真家もいます。もちろんそこまでのこだわりを皆さんに求めるわけではありませんが、ズーム機能の便利さに頼るだけでなく、フットワークも大切にして構図を決めましょう。
編成写真撮影時の立ち位置のコツ
標準レンズを使った撮影ではフットワークが大切と書きましたが、編成写真撮影でのフットワーク「立ち位置」について具体的にお話しましょう。
標準レンズでの撮影は迫力不足になるかと思って、線路に寄ったほうが良いように感じる人がいるかもしれません。しかしそれは逆効果で、列車の顔の比率が大きくなるのに対して、側面はあまり見えなくなってしまいます。
特に、のびやかな編成美を見せるための標準レンズは、車体側面が見えにくくなるのでは本末転倒です。直線で列車の顔を大きく見せつつ、車体側面もしっかり見せるには、線路から少し離れることがおすすめです。私は線路から、さらに線路幅分離れることを基本にしています。単線を走る列車の編成写真だったら、複線で撮る感覚