流し撮りのススメ
前2回に分けてお話した「編成写真」は、車両中心の記録的要素が強い写真ですね。私は編成写真こそが鉄道写真の基本と考えているほど、美しい編成写真を撮るためには多くのセオリーと注意すべき点を守らなくてはならない奥の深いものです。
とはいえ編成写真は、人物写真に例えると証明写真のようなものです。編成写真を嗜むと、より写真的な表現を求めて鉄道風景や鉄道イメージ写真など、鉄道に関わる全ての被写体をフォトジェニックに捉えたくなるものです。
その衝動にお応えすべく、私がおすすめするのが、今回お話をする「流し撮り」です。以前はプロやハイアマチュアが行う高等撮影術に思われていましたが、今では多くの方がSNSでも発表するほど、メジャーな表現方法になりました。まだ流し撮りはしたことが無いという方も、是非この機会にチャレンジすることを強くお勧めします。
流し撮りとは
流し撮りの作品は見たことがあるという方も多いのではないでしょうか。
流し撮りとは、動きのある被写体に合わせて、カメラを振りつつスローシャッターで撮影する方法です。うまく決まれば、狙った被写体は止まり、その他の前景や背景はブレて写ります。
「流し撮り」という名前の由来は、このように背景が流れることや、被写体に併せて流れるようにカメラを動かすことから名付けられたようです。ちなみに昔は「ひっかけ撮り」という呼び名もあったようです。画面に一部分に被写体をひっかけるように追っていたからではないかと推測できます。
今では「流し撮り」という言葉が鉄道写真だけでなく、様々な写真分野でそう呼ばれるようになりました。まさに写真界の共通語であり、表現方法でもあるのです。
基本的な流し撮りのテクニック(1) ~シャッタースピード~
先にも述べた通り、流し撮りはテクニカルな撮影技術になります。では具体的にどのような撮影方法にするのか、セッティングから紐解いていきましょう。
まず、流し撮りをするには、スローシャッターに設定することが基本になります。ではどのくらいのシャッタースピードにすれば良いでしょうか。
第一の目安として、カメラに装着しているレンズの焦点距離が参考になります。昔から「『1/焦点距離』が手ぶれをしないシャッタースピード」と言われています。要するに50mmのレンズを使っているときは、1/50秒が手ぶれをしないシャッタースピードということです。
もちろんカメラを持つ手をあえて高速で振り回せば、速いシャッタースピードでもブレはします。ですが、通常の手持ち撮影では、先述の割り出し方法が基本になります。そして流し撮りでは、最低でもその手ブレをするよりも遅いシャッタースピードに設定する必要があります。
ただ、手ブレが始まるシャッタースピード程度では、走る列車を写し止めることはできても、背景の流れ方がわずかで、スピード感が感じられません。そこでもっと背景が流れるようにさらにシャッタースピードを遅くしたくなります。
しかしそこが流し撮りの難しいところ。シャッタースピードが遅くなれば遅くなるほど、不必要なブレ(真横に走る列車に対しての上下ブレなど)が起きたり、列車のスピードに合わせてカメラを振ることができず列車自体がブレてしまったりと、失敗も多くなります。
「シャッタースピードが1段(シャッタースピードが半分。例えば1/60秒→1/30秒)遅くなると、失敗する可能性は2乗になる」と、とあるスポーツ写真家が言っていたほど、流し撮りは難しいものなのです。
特に鉄道写真では失敗したくない列車も多いので、失敗する可能性のある流し撮りを敬遠する人も少なくありません。しかし、流し撮りの技術を身に着けていれば、鉄道写真の表現方法が広がることはもちろん、通常撮影では不可能な暗い場所での撮影にも対応ができるようになるのです。
基本的な流し撮りのテクニック(2) ~レンズワーク~
流し撮りのシャッタースピードは、レンズの焦点距離が基準になると先述しましたが、レンズの焦点距離の違いは列車の写り方や流れ方にも違いが出ます。
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例えば、走る車両の先頭部を画面いっぱいに流し撮りするとしましょう。望遠レンズで先頭部を画面いっぱいに捉えようとすると、ある程度線路から離れなくてはなりません。そうすると、ファインダーでの先頭部の見かけの動きは、斜め前→真横→後ろとゆっくり変化していきます。望遠レンズでの流し撮りの例(撮影:助川康史)
次回は「『流し撮りに』挑戦!!(2)」と題して、より具体的な流し撮りの表現方法やフォトジェニックな作品撮りについてお話します。
また、鉄道写真やカメラ、レンズに関わる質問も随時募集しております。併せてよろしくお願いいたします。