JR東日本のGV-E400系をはじめ、各地でじわじわと増え続けている、非電化路線を走る新たな動力形態の車両たち。その種類は「電気式気動車」「ハイブリッド式気動車」「蓄電池電車」などさまざま。ですが、名前は知っていても詳しい仕組みはわからない……という方も多いのではないでしょうか。
今回は、鉄道版「EV」と呼べる「蓄電池電車」、そして現在開発が進められている「燃料電池車両」について解説します。
鉄道版「EV」と呼べる蓄電池電車
ハイブリッド式気動車や電気式気動車は、その開発の歴史を見ると、気動車を電動化した車両という位置付けです。一方、逆からのアプローチとして、非電化区間でも走行できる電車という形で開発されたのが「蓄電池電車」です。
現在の日本で旅客営業用に使われている蓄電池電車は、電化区間ではパンタグラフを使用し、一般的な電車と同様に架線からの電力で走行。そして非電化区間では、パンタグラフを折り畳み、車両に搭載した蓄電池からの電力で走行します。蓄電池への充電は、非電化区間に設けられた充電スポットや、電化区間の架線で、パンタグラフを使用して実施します。
このタイプの蓄電池電車は、モーターや制御装置、パンタグラフを備え、見た目は一般的な電車にそっくりで、これに走行用の電気を溜める蓄電池を搭載したものが基本です。JR東日本が開発したEV-E301系「ACCUM」を例にとると、一般的な電車のシステムに対し、走行用電源の蓄電池と、パンタグラフからの電力を1500ボルトから630ボルトへ降圧するDC-DCコンバータを追加した構成。同社の直流電車では、架線電圧である直流1500Vの電力を直接制御機器に導いていますが、EV-E301系では蓄電池の定格出力電圧が630ボルトとなっているため、架線電力もあわせて降圧する仕組みとなっています。
現在、自動車業界においては、エンジンを搭載せずバッテリーからの電力で走る電気自動車(EVまたはBEV)が注目を集めています。鉄道業界の蓄電池電車は、鉄道版EVと言えるでしょう。
発想自体は戦前から、蓄電池車両の歴史
現在、非電化路線用の新世代車両として活躍する蓄電池車両の端緒となったのは、鉄道総合技術研究所(鉄道総研)が1999年に開発を始めた「架線と車載蓄電によるハイブリッド電源形電車」です。鉄道総研では、中古車両を改造して実証した後、路面電車型のLH02形「Hi-tram」を製作し、走行試験を実施しました。この車両は、電化区間での架線電力での走行、非電化区間での蓄電池電力での走行、架線からの充電と、現在の蓄電池電車の要素を全て備えており、その後の蓄電池電車の開発へと活かされています。
JR東日本では、2009年よりE995系「NE Train スマート電池くん」(キヤE991形の改造車)を用いて走行試験を開始。この結果を基に、営業用車両であるEV-E301系を、2014年に烏山線へ導入しました。2017年には増備車両が投入され、同年3月からは烏山線の全列車がEV-E301系による運行となっています。同線は現在も非電化路線ですが、列車番号の末尾は電車を表す「M」となっており、非電化路線ながら全て電車によって運行される路線となっています。
JR九州では、2016年10月にBEC819系を若松線(筑豊本線)に導入。2017年3月には同線の全列車を置き換えました。2019年3月には香椎線に投入されており、こちらも全列車がBEC819系での運行となっています。また、他系列の一般的な電車との連結運用も可能で、福北ゆたか線では、一般電車の817系と連結して運用に入る姿が見られます。
また、直流区間向けのEV-E301系を導入していたJR東日本では、交流区間向け車両として、BEC819系を基に寒冷地向けにカスタマイズしたEV-E801系「ACCUM」を、2017年3月に男鹿線へ投入。2021年には男鹿線の全列車が同形式による運用となりました。
試験用車両ではありますが、近畿車両は2012年、非電化路線用バッテリー電車「Smart BEST」を発表しました。充電は架線ではなく搭載したエンジンを用いるため、システム構成はハイブリッド式気動車と同様に見えます。しかしSmart BESTは、大容量蓄電池を搭載し、放電した分のみを従来型気動車より小型のエンジンにより効率よく充電するというコンセプトで、蓄電池が主、エンジンは補助(レンジエクステンダー)という位置付けです。Smart BESTのコンセプトを実用化した車両は現れてはいませんが、2014年1月にはこの車両を用いた臨時列車が鳴門線や徳島線で、同年9月には紀勢本線で運転されており、それぞれJR四国およびJR西日本では初めての、蓄電池式車両による営業運転の事例となっています。
また、常用ではなく非常用として、駆動用の蓄電池を搭載する車両も増えています。東京メトロでは、銀座線用の1000系に、非常走行用電源装置を搭載。万が一停電が発生した場合でも、変電所からの電力に頼らず、最寄り駅まで自走できるようになっています。東京メトロのほか、京王電鉄の5000系やJR東海のN700Sなどでも、同様の装置を搭載して非常時に備えています。
そんな新世代の車両システムに見える蓄電池電車ですが、蓄電池から電源を供給という発想は古くからあり、一部では戦前から使用されてきました。
日本国内においては、鉄道省(当時)が王子駅付近の貨物線用機関車として、1927年に蓄電池式機関車AB10形を製造しました。蓄電池式となった理由は所説ありますが、導入路線の近隣に陸軍の弾薬庫があり、蒸気機関車の運用は火の粉による引火の危険性があり、一方で架線の設置も困難だったから、とも言われています。同様の理由で蓄電池式機関車を使用する例は、工場内の専用鉄道などの危険性が高い場所では現在でも見られます。
AB10形の他にも、戦後の宮崎交通線や、新交通システム化前の西武山口線でも、蓄電池式車両が用いられていました。2021年現在でも、黒部峡谷鉄道の専用線区間、通称「上部軌道」で使用されるBB形など、専用鉄道などの特殊用途用車両として、各地に在籍しています。なお、これらの車両は蓄電池のみを動力源としており、EV-E301系などのように、パンタグラフを上げて電車のように走行することはできません。
蓄電池電車のメリットとデメリット
蓄電池電車を導入するメリットとしては、一般的な電車との部品共通化が挙げられます。気動車では、エンジンや変速機、推進軸など、電車では用いない部品を多く搭載しています。このため、電車と気動車の両方を保有する鉄道事業者では、メンテナンス時に双方に対応した設備や技術者が必要となり、メンテナンスコストが増加し