JR東日本が18日に報道公開した、燃料電池車両のFV-E991系「HYBARI」。水素を燃料とする燃料電池と、蓄電池を電源とするハイブリッドシステムを搭載した試験車両で、ディーゼルエンジン車などに代わる非電化区間用車両の実現を目指し、今後試験が進められる予定です。
未来の車両である注目のFV-E991系。当日の速報記事で紹介しきれなかった詳細をお伝えします。
試験車両でも営業車仕様?
車両デザインは、燃料電池の化学反応から生まれる水を、碧いしぶきと大地を潤すイメージで捉え、スピード感と未来感を持たせたもの。車両前面と側面に描かれた「ひばり」のロゴは、車両に新しいエネルギーを吹き込むイメージをデザインしています。
ちなみに、車体は蓄電池車両のEV-E301系がベース。3ドア2両編成といった構成要素が踏襲されています。
車内も、EV-E301系をベースとしたロングシート配置。試験用車両ではありますが、一般旅客の乗車も想定し、優先席や車いす・フリースペース、半自動ドアボタンが設置されています。
また妻面には、同社のハイブリッド式気動車のような、エネルギーフローを紹介するディスプレイが設けられました。
一方、試験車両であるため、側面窓にはカーテンを設置。乗務員室直後の機器配置も異なっており、EV-E301系のようなワンマン運転対応の運賃表や運賃箱の設置はありません。
ちなみに、燃料電池を搭載する制御付随車のFV-E990形では、屋根上に水素燃料タンクを設置しているため、制御電動車であるFV-E991形よりも天井が若干低くなっています。
乗務員室内は、EV-E301系をベースに少々仕様変更をしたとのこと。燃料電池車両であるため、運転台側面に「システム起動」ボタンが設置されていますが、その他は基本的にE233系に揃え、乗務員に配慮した設計としたといいます。
「HYBARI」の要、燃料電池ユニット
実は燃料電池車両は、海外ではドイツを走る「Coradia iLint」として既に実用化され、旅客営業列車として運用されています。国内でも、先の「NEトレイン」のほか、鉄道総合技術研究所の試験車両による実車試験が進められてきました。
これに対する今回のFV-E991系は、狭軌線用かつ営業列車としても運用可能な仕様としては世界初ということ。なにやら限定的な「世界初」ではありますが、先行する標準軌線用車両や、室内空間も自由に使える試験用車両と比較し、車体幅が小さい狭軌線用車両では、機器配置スペースが限られます。ドイツの「Coradia iLint」では、水素関連機器は全て屋根上の搭載だといいますが、FV-E991系は、水素タンクを屋根上、燃料電池システム箱は床下に設置。これらの配置に苦慮したのだといいます。
また、海外の車両では、燃料充填圧力は35MPaだということ。こちらのFV-E991系では、海外の倍となる70MPaでの充填が可能となっています。
この70MPaという充填圧力は、トヨタ自動車の燃料電池自動車「MIRAI」と同じ数値。そう、FV-E991系では、トヨタ自動車の協力を得て、「MIRAI」のシステムを使用しているのです。
水素タンクを含む水素貯蔵ユニットは、FV-E990形の屋根上に搭載。水素タンクは5本を1ユニットとし、これを計4ユニット設置しています。水素タンクの周辺温度が異常に上昇した場合には、自動的に水素を大気に放出して拡散させる仕組みも備えています。
床下には、燃料電池装置を設置。車体幅全体にまたがるサイズの燃料電池装置箱を2箱搭載しています。燃料電池による発電中には、この装置の下から水蒸気が発生します。また、この燃料電池装置の横には、タンクから燃料電池へ水素を供給したり、またタンクへ水素を充填するための床下配管ユニットも装備しています。
VVVFインバータを含む電力変換装置や、走行用の主回路用蓄電池(バッテリー)は、FV-E991形に設置。バッテリーは、燃料電池とともに走行用機器へ電力を供給するためのもの。燃料電池とバッテリー双方の電力を組み合わせることから、FV-E991系は「水素『ハイブリッド』電車」と呼ばれています。
燃料の供給は、移動式ステーションによる方式と、車両基地内に設置する充填方式の2つの方式で実施。前者は扇町駅で、後者は鎌倉車両センター中原支所や鶴見線営業所での試験が予定されています。また、充填方式によって燃料充填量が異なるため、航続距離も変化。70MPa充填となる前者では約140キロ、35MPa充填となる後者では約70キロとなります。現時点では従来型気動車に及びませんが、航続距離が約30キロだという蓄電池車両よりは長距離の走行が可能です。
ところで、FV-E991形の屋根上には、パンタグラフ台が設置されています。EV-E301系のように、パンタグラフを用いて充電する試験を実施するための装備なのかと思いきや、FV-E991系ではこのような試験は実施しないとのこと。JR東日本の担当者によると、将来の転用を考慮した設備だということです。
FV-E991系の先代ともいえる試験車両「NEトレイン」は、当初はハイブリッド式気動車の試験車両、キヤE991形として誕生。その後、燃料電池車両の試験車両であるクモヤE995形、続いて蓄電池車両の試験車両であるクモヤE995形「スマート電池くん」として、2回の大きな改造を受けました。
このFV-E991系も、燃料電池車両としての試験が終了した後、「NEトレイン」のように他用途の試験車両へと転用する可能性があります。そのため、具体的な用途は決定していないようですが、さまざまな試験に対応できるよう、使用する必要のない現時点から、パンタグラフの設置に対応した設計としたということです。
燃料電池車両導入の狙いとは
これまでJR東日本では、従来のディーゼル車に代わる車両として、ディーゼルエンジンと蓄電池を搭載した「ハイブリッド式気動車」、蓄電池によって非電化区間も走れる電車「蓄電池電車」、ディーゼルエンジンで発電しモーターを回す「電気式気動車」の3種類を導入してきました。燃料電池車両は、同社ではこれに続く4種類目の方式となります。
燃料電池とは、供給した燃料を用い、化学反応によって発電する電池のこと。水素を用いる燃料電池では、水素と酸素を用いて高効率な発電を実現でき、かつ排出物は水だけと、従来型よりもクリーンな発電システムを実現できます。
JR東日本では、試験用車両の「NEトレイン」を用い、2006年から2007年にかけて、燃料電池車両の試験を実施していました。これ以降、実車による試験は実施されず、非電化区間用車両としては先述の3タイプが導入されていましたが、JR東日本では2019年にあらためてFV-E991系の試験導入を発表。約3年が経過した2月、FV-E991系の実車が登場しました。
JR東日本の研究開発センター所長である大泉正一さんは、「一番クリーンなシステムは電車」だといいます。とはいえ、同社の保有車両には非電化区間用車両もあり、非電化区間全てを電化するわけにもいかないため、非電化区間に対応したクリーンな車両を導入する必要があります。
そこで同社では、ハイブリッド式気動車や電気式気動車など、さまざまなタイプの車両を導入してきました。そして新たに取り組むのが水素による燃料電池車両ですが、このシステムは他のシステムよりも高コストとなる欠点があります。JR東日本の電気式気動車、GV-E400系他の業界に目を転じてみると、たとえば自動車業