2030年代のドライバレス運転実現を目指す
一口に自動運転といっても、副都心線のように運転士が乗務する方式や、ポートライナーやゆりかもめのように無人運転が基本となるものなど、さまざまなタイプがあります。国際公共交通連合(UITP)では、このさまざまな自動運転を、GoA0からGoA4までの5段階に分類。副都心線やつくばエクスプレスのような「半自動運転」扱いとなる路線はGoA2、ポートライナーやゆりかもめのような完全無人運転はGoA4となります。
今回の山手線における自動運転は、短期的には運転士が乗務するGoA2の実現を目指したものです。しかし将来的には、先頭部以外に避難誘導などを担う係員が乗務する、GoA3の実現を目標としています。
自動運転については、JR九州でも先頭部に運転資格を持たない係員が乗務する形のGoA2.5(UITPが定めたレベルではないもの)の実現を目指し、2020年から香椎線で実証運転を継続しています。このJR九州のシステムとJR東日本が将来導入を目指すシステムでは、係員が乗務する場所に違いが現れています。
JR九州のシステムでは先頭部へ係員が乗務し、踏切やホームなどの安全を目視で確認することとなります。一方、JR東日本のシステムでは、非常時の避難誘導などのために係員は乗務しますが、乗務場所は先頭部に縛られません。たとえ話ではありますが、東海道線の乗務員がグリーンアテンダントのみとなり、有事の際には全車両の誘導をアテンダントが担う、といった担当配置も、GoA3では可能となります。
なお、JR東日本の担当者は「乗務する場所は前後しか考えられない」としつつも、「GoA2.5の導入は考えていない」と説明しています。
JR東日本 代表取締役副社長の市川東太郎さんは、「今回のATOは列車を連続制御するもので、地方路線へ導入するにはコストが高くなる」と説明。今のところは地方路線への導入は考えていないということです。筆者の私見ではありますが、仮に地方路線への自動運転導入を検討する場合は、山手線での試験を実施した高機能なATOではなく、JR九州のようなシステムとなるのではないでしょうか。
また、ポートライナーや副都心線など、自動運転を導入している多くの路線では、ホームドアが導入されている例が多数です。これについて問われた市川さんは、「ホームドアがなくとも自動運転は可能」だとし、ホームドアはホーム上の安全を担保するもので、自動運転に必須ではないとしました。
また、踏切についても同様で、先頭部に乗務員がいれば、前方の安全監視は可能となるので、わざわざ撤去することは考えていないといいます。ただ一方で、先頭部に乗務しない形では、列車設備も含め、総合的に考える必要があるとしました。
JR東日本では2月、先頭部に設置するステレオカメラを活用する、リアルタイムな自動障害物検知システムの走行試験を実施すると発表しています。こちらも山手線のATOと同様、将来のドライバレス運転に向けた取り組みの一つ。JR東日本の担当者によると、ATOは山手線、障害物検知システムは京浜東北線での試験実施となりますが、本格導入路線とイコールではなく、他路線への展開も想定しているということ。将来のドライバレス運転本格導入第1号がどの路線となるかは不明ですが、ホームドアがなく踏切が残る路線であっても、このシステムを活用することで、係員が先頭部へ乗務しない形での自動運転が実現できるようです。
JR東日本は今回のATOについて、2025年~2030年頃の導入を予定。山手線や京浜東北線などへの導入が検討されています。さらに2028年~2030年頃には山手線へのATACS導入が検討されており、2030年代にはGoA3のドライバレス運転が実現する予定です。