なかなか見られない山万1000形の機器類
今回のイベントでは、車両基地にてユーカリが丘線の車両をじっくり眺める機会もありました。小さな路線の車両故に、なかなか知る機会のない車両を、今回は詳しく解説します。
ユーカリが丘線で活躍しているのは、3両編成の1000形3本。「こあら号」の愛称があり、「こあら1号」から「こあら3号」まで、編成別に付番されています。
車両の寸法は、高さ3280ミリ(案内車輪等含まず)×長さ8850ミリ(中間車は8000ミリ)×幅2500ミリで、中型の路線バスに近いサイズ。編成定員は140人で、路線バスの約2倍の数値です。
乗降用ドアは中央に1か所設けられており、車内はロングシート。また、客室内には冷房が設置されておらず、空調系は天井設置の換気装置と内折れ式の窓があるのみ。関東では珍しい非冷房車となっています。
運転席には、1982年デビュー車としては先進的なワンハンドルマスコンを装備。京急2000形などで採用例のある、右手保持タイプとなっています。また、ワンマン運転に対応していますが、編成長が短いためか、乗降監視カメラ等は装備されておらず、ドアの開閉時には運転席を離れ、乗務員室扉から目視で確認する形です。ドアスイッチは扉上に設置されており、一般的な電車のものと異なり、ボタン式となっています。
また、客室内は非冷房ですが、運転席には家庭用のエアコンが。大型で傾斜した窓ガラスを備える前面形状では、特に夏場は強い日差しで乗務員室が「サウナ状態」になりそうで、このデザインでは運転席のエアコンにも納得です。
機器も見ていきましょう。制御方式は抵抗制御で、制御装置は中間車に搭載。車輪は各車とも1軸台車×2の1両2軸で、先頭車の中間車寄り車輪が動軸となっています。モーターは先頭車の中央に設置され、シャフトで動軸へ動力を伝達するシステム。これは「ゆりかもめ」などと同様のものです。
タイヤはブリヂストン製で、山万の社員によると、トラック用をベースにしたものだということ。ただし、基本的に前進しかしない自動車と異なり、鉄道では前後に進行方向が変わるため、タイヤの踏面はこれに対応した仕様となっているということです。
中央案内方式を採用しているユーカリが丘線では、軌道の中央にあるレールを、小さなタイヤ「案内輪」が左右から挟むことで、進行方向を制御しています。
ATS(自動列車停止装置)の車上子は、車体側面に搭載。ちなみに、ユーカリが丘線のATSは点制御方式で、2対の地上子間を通過した時間で速度を測定し、規定以上であればブレーキを掛ける、国鉄・JRのATS-S形改良型に類似した方式です。
また、他路線には見られないものとして、黒色の地上子も設置されています。こちらは列車の在線を検知するための装置です。
一般的なレールを使用する鉄道路線では、2本のレールを流れる「信号電流」を、列車が通る際に車輪が短絡することで、列車がどこを走っているか=在線を検知しています。しかし、ゴムタイヤを使用する新交通システムではこの方式を使用することができません。
そこでユーカリが丘線では、この黒い地上子を使用することで、在線検知を実施しています。地上子の4つの正方形は、それぞれにループコイルが組み込まれており、列車が通過すると、順々に反応していきます。ユーカリが丘線では一部が単線区間となっていますが、どちら側に向けて地上子が反応したかによって、列車の通過有無、列車の進行方向を検知しているということです。
なお、床下機器類は普段はカバーで覆われており、見ることができません。この車両の足回りをじっくり観察できるのも、今回のイベントならではとなっていました。
路線バスも運行する山万
今回のイベントでは、1000形のほかにも、山万が運行するバス車両が展示されていました。
ユーカリが丘線は、全ての住宅が駅から10分以内であることを掲げてユーカリが丘の住宅地を一周しており、エリア全体の公共交通サービスを提供しています。しかし、開発初期に入居した住民は高齢化が進んでおり、駅までのアクセスが難しい利用者も出ています。これを解消し、ユーカリが丘線を補完する公共交通機関として、山万は2020年に有料路線バスの運行を開始。住宅街やショッピングセンターなどを結ぶ移動手段が生まれました。
通常であれば競合相手に見える新交通システムと路線バスですが、ここユーカリが丘では両者が共存。路線バスの運行は山万の鉄道事業部が担っており、バスの愛称も「こあら4号」~「こあら10号」と、ユーカリが丘線と連番です。また、運賃はユーカリが丘線と路線バス共に同額で、ユーカリが丘線の定期券や回数券で路線バスに乗車することもできます。
そうなると、路線バスでユーカリが丘線を完全に置き換えてしまうことも……という考えも生まれますが、現状では特にそのような動きはない様子。ユーカリが丘線の車両は製造から約40年が経過していますが、当面は現状のまま推移することとなりそうです。
今回のツアーは、千葉県内のさまざまな車両基地を訪ねるツアーを企画した京成トラベルが、山万と手を組み実現したもの。ユーカリが丘線の車両基地は、地域住民向けのイベントや、系列ホテルの宿泊つきプランなどのみと公開機会が限られており、この日は応募倍率が約4倍に達する人気ツアーとなりました。
京成電鉄の広報担当者によると、今後については未定だというものの、反響があれば再び開催したいということです。