一度はボツに? 「サイコロきっぷ」の企画が実現するまでの流れとは
――このユニークなきっぷが生まれるまで、どのようなプロセスがあったのでしょうか。
当社では、社員からビジネスアイデアを公募する取り組みを、毎年実施しています。「サイコロきっぷ」の原案は、2021年の秋に、当社の若手社員から提案があったものになります。この取り組みの中では残念ながらビジネス化に繋がらなかったのですが、この原案をもとに、営業本部において商品化の検討に踏み切りました。
企画に際しては、「ゲーム性」に着目しました。近年、航空会社のPeach Aviationさんが販売している「旅くじ」や、JR東日本さんが先日発表された「どこかにビューーン!」のように、交通業界でもゲーム性がトレンドになっていると感じています。
また、ターゲットに定めたZ世代の利用を考慮し、発売シーズンは夏休みにフォーカスを合わせました。プロジェクトのスケジュールはかなりタイトでしたが、その中でアプリ画面をゼロから作るなど、多くの社員による努力の結果、ようやく実現できたものです。
――これまでの企画きっぷはフリーきっぷが多く、往復きっぷでの展開は意外でした。
当社では、新型コロナウイルスの感染状況を見極めながら、企画きっぷを発売してきました。たとえば2021年秋には、観光需要が高まるシーズンであることを見据え、「JR西日本 どこでもきっぷ」を発売しています。このような周遊系のきっぷについては、旅行好きの方のみならず、鉄道ファンのみなさまにも支持をいただいていることは把握しております。
一方で、今回の「サイコロきっぷ」は、周遊系のきっぷとは性質が異なります。サイコロというゲーム性で、こちらも多くの方に利用していただきたいと考えております。
――今後の展開について、決まっていることがあれば教えてください。
発売はこれからという段階ですが、7月1日の発表の時点で多くの反響をいただき、大変ありがたく思います。当社は西日本エリアを中心に営業している鉄道会社ですので、目的地も関西、北陸、中国地方へと限られてしまうのですが、ネット上では「首都圏発着はないのか」といった声も見られ、期待の大きさを感じております。
今回の商品のように、ワクワクしたり、人の心に響く、血の通った商品を開発することこそが、当社の目指すものに繋がるとあらためて感じました。
また、7月22日、23日には、大阪駅で「真夏の鉄フェス2022」を開催します。このイベントでは、「サイコロきっぷ(鉄フェス用)」を発売します。WESTERのものは画面の中でサイコロを振りますが、こちらのイベントではリアル体験となっており、大きめのサイコロを実際に振っていただき、旅行先を決定します。
鉄道業界は、安全、安心という変わらない意識のもとで運行することで、多くのお客様にご利用いただいている事業です。もちろん変えてはいけない要素は重要なのですが、あぐらをかいて、変革から逃げてしまってもいけません。将来にわたって継続的に事業を展開していくには、今回のようなアイデア出しが重要です。今後も、鉄道会社という枠にとらわれず、さまざまな商品を展開していきたいと考えております。
――「サイコロきっぷ」に関しては、他社と連携することは考えられるでしょうか。たとえば京都丹後鉄道や智頭急行など……。
他社様との連携については今のところ具体的な計画はありませんが、お客様の反応を見ながら、今後検討していければと思います。
また、Peach Aviationさんについては、旅先をゲーム性のあるイベントで決めるという商品性で先陣を切った会社という認識です。利用者のみなさまで「サイコロきっぷ」とあわせて活用していただくなど、相互に盛り上がっていければと思います。
私たちは、ただ移動するだけでなく、旅先の価値や、道中の価値も重要だと考えています。他社と連携することで、そういった従来のきっぷでは得られなかった価値を引き出すことも考えられます。
――ありがとうございました。
社内アイデアを発端に、若年層をはじめ多くの方に旅行を楽しんでもらいたいという思いから、「サイコロきっぷ」は生まれました。またJR西日本は、鉄道会社やJRという枠にとらわれず、利用者に対して新たな価値を提供できるものであれば、広くチャレンジしていきたいとしています。
地域とともに歩む鉄道会社から、次はどのような魅力的なアイデアが出てくるのか、期待が高まります。