JR東海では、東海道新幹線に代わる東名阪間の高速移動手段となる路線として、「リニア中央新幹線」の建設を進めています。完成すれば、東京(品川)~名古屋間を最速40分、品川~大阪間を最速67分で結ぶ予定となっています。
夢の高速移動手段だったリニアモーターカーは、今まさに建設工事が進められており、「夢の」という接頭辞が取れる日もそう遠いことではありません。そんな、近い将来に開業する新たな新幹線について、取材しました。
そもそも「リニアモーターカー」とは?
リニアモーターとは、一般的な回転式のモーターを切り開き、一直線に伸ばしたようなもの。N極とS極の吸引・反発で稼働する基本的な仕組みは同じですが、これを回転方向ではなく直線方向の運動に変えたものと考えれば、理解しやすいのではないでしょうか。
リニアモーターカーには、推進力のみを得るためにリニアモーターカーを使用する「鉄輪式」と、車両を浮上させるためにも使用する「磁気浮上式」の2種類があります。
前者は都営地下鉄大江戸線や大阪メトロ長堀鶴見緑地線などで採用されていますが、後者で現在営業運転に用いられているのは、日本国内では愛知県を走る「リニモ」のみ。リニア中央新幹線は、リニモに次いで日本で2番目の、磁気浮上式によるリニアモーターカーの本格営業路線となる予定で、高速鉄道としては日本初採用となります。
リニア中央新幹線では、「超電導リニア」という技術が採用されました。「超電導」とは、ある金属を一定の温度にすると、電気抵抗がゼロになる現象のこと。この状態では電気抵抗がなく発熱しないため、大きな電流を流すことができ、軽くて強力な磁石とすることができます。
これまでは、液体ヘリウムや液体窒素を用いて、超電導磁石をマイナス269度まで冷却する必要がありました。現在では、液体ヘリウムや液体窒素を用いずに、冷凍機によりマイナス255度程度に冷却することで使用可能な「高温超電導磁石」の実用化に目途が立っており、営業車両に導入できる見込みということ。液体ヘリウムなどを用いる場合よりも、省メンテナンスや省エネルギー、コスト削減が期待できるといいます。
この超電導磁石を用いた超電導リニアでは、従来の鉄道では難しい速度での走行を実現。2003年には時速581キロ、2015年には時速603キロと、ともに鉄道の世界最高速度記録を達成しました。リニア中央新幹線での営業最高時速は500キロの予定ですが、一般人が利用できる公共交通機関としては、史上最速の地上移動手段となることは間違いありません。
なお、浮上走行中は車体と物理的に接触する設備はないため、電車のように車内用などの電気を架線から得ることはできません。このため、かつては車両にガスタービンエンジンを搭載し、発電機を用いて電力を得ていました。現在では、スマートフォンの非接触充電にも使われる「誘導集電」の技術を確立。地上と車上に設置したコイルで車内用電源を得ることが可能となっています。
時速150キロ程度まではゴムタイヤでの走行ですが、それ以上の速度ではタイヤを収納し、10センチ程度浮上して走行します。
なぜ中央新幹線を建設するのか
中央新幹線としての計画は、1970年に公布された「全国新幹線鉄道整備法」に基づき、1973年に「基本計画路線」として決定されています。この法律に基づいて建設された新幹線は、ほとんどが国が主体となって整備を進める「整備新幹線」。ですが、中央新幹線では、厳しい国の財務環境において、公的資金による建設では整備計画の決定に長い時間を要すると考えられたことから、JR東海が自己負担による建設を決定しました。
東京~名古屋間と名古屋~大阪間の2段階に分けて建設が進められるのは、このJR東海による建設費の自己負担が理由。まず最初に東名間を整備し、新線建設による会社の経営体力の回復を待った上で、全線開通に向けて整備していく、ということです。
では、既に東海道新幹線が走る東名阪間において、新たな高速鉄道を建設する理由は何でしょうか。これは、輸送力の増強はもちろんのこと、災害対策や線路設備の老朽化対策として、東海道新幹線の代替ルートを確保する、といったことが挙げられます。
東海地方では、長年にわたり、「東海地震」が発生する恐れが指摘されてきました。2011年の東日本大震災をはじめとする近年の災害で浮き彫りとなったとおり、大規模災害の発生時には、被災区間を迂回する代替ルートの確保が必要です。特に、静岡県付近を震源地とする東海地震では、東海道本線、東海道新幹線、そして東名高速道路などの道路が被災する恐れがあります。これらのルートから離れた位置に別の路線を整備することで、万が一の災害発生時でも、主要幹線全てを失うことがなくなるのです。
また、1964年に開業した東海道新幹線は、2024年には開業60年を迎えることとなり、施設の老朽化が進んでいる状態です。過去には、東海道新幹線を午前中に運休し、大規模なリフレッシュ工事を実施したことがありました。しかし、現在の高頻度運転ダイヤではこれは不可能。大規模修繕工事自体は現在も実施していますが、これは列車運行を止めずに進めています。東海道新幹線を将来にわたって維持していくリフレッシュの余地を生み出すためにも、別ルートの整備は必要となっています。
新線の建設は、東海道新幹線にもメリットをもたらします。リニア中央新幹線の開業によって、東海道新幹線の東名阪間利用者がリニアへ転移することが予想されているため、東海道新幹線は現在のような「のぞみ」中心の高頻度ダイヤで運転する必要が少なくなります。結果、これまでは通過列車ばかりだった静岡県内の各駅でも、停車列車が増加することが考えられています。
車両はどうなる? 今のL0系で営業運転?
現在超電導リニアの試験に使用されているのは、2013年に試験を開始したL0系です。L0系は、営業線仕様の第1世代として開発された車両。「L」はリニアモーターカーで、「0」は新幹線初代車両である0系同様、第1世代を表します。
当初投入された900番台は、14両が製造され、最長で12両を組成するなど、これまで営業運転に向けた各種試験を実施してきました。2020年には、L0系をさらにブラッシュアップした改良型試験車(950番台)が登場し、試験に投入されています。
日本の新幹線(山形・秋田新幹線を除く)では、車体幅は在来線より広い約3.3メートルで、車内は普通席で3+2列の配置です。一方、L0系の車体幅は、在来線の広幅車体に近い約2.9メートル。車内の座席は2+2列配置となっています。また、車体高は約3.1メートルで、N700系の約3.6メートルよりも小ぶりです。
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営業用車両の仕様についてはまだ発表されていませんが、編成長は東海道新幹線と同じ16両程度が予定されています。また、L0系改良型試験車の座席などは、(これは筆者の主観ですが)他の新幹線や特急型車両のような設備で、そのまま営業運転に投入しても問題なさそうなレベルとなっています。今後登場する営業用車両では