撮影時も動画を見ているかの如く見えるEVF「Real-Live Viewfinder」
鉄道車両を始め、動く被写体を常にファインダーに捉え続けることは難しいものです。鉄道ならば決まったレールの上を走るので捉えやすいですが、激しいスポーツや鳥、動物など、動きを読みづらい被写体を追い続けるのは、さらに難度が上がります。そんな撮影で長年、カメラ業界で理想的と言われていたのが、連写をしていてもブラックアウトが起きないカメラでした。
ブラックアウトとは、主に一眼レフの光学ファインダーへ光を導くミラーが上がってから降りてくるまで暗くなって被写体が見えなくなることです。この間にシャッター幕が動いて撮影をしているわけですね。
フィルム時代は、ミラーにフィルムとファインダーの両方に光を送る「ハーフミラー」(ペリクルミラーなど)を搭載したカメラも登場しました。しかし光の約1/3をファインダーに、残り約2/3をフィルムに送るという構造だけに、ファインダーは暗く見え、フィルムに届く光も弱くなってしまうという欠点があったため、すべてのカメラに普及するには至りませんでした。
時は現代に移り、ブラックアウトを作る要因の一つであったミラーを排除したミラーレス一眼が主流のカメラとなりました。それでもシャッター幕を動かして光を取り込む時間を調整する「フォーカルプレーンシャッター」を採用しているので、シャッター幕が動いている間はEVFに静止画像を表示したり、一眼レフのようにブラックアウト表示をするカメラがほとんどです。
しかし「Z 8」は、「Z 9」と同じ、ブラックアウトフリーのEVF「Real-Live Viewfinder」(リアルライブビューファインダー)を搭載。先述した完全電子シャッター化、つまりメカシャッターをなくし、さらに撮影時の映像を記録用とEVF用の2つに分けることにより、撮影記録中の一瞬でも同じ画像をファインダーに表示しています。高速連写中も、EVFに表示される画像は、まるで動画を見ているかのように滑らかに動きます。
それに加え、ZシリーズのEVFは緻密で輝度が高く、何より表示のタイムラグが少ないことで、プロの間でも定評があります。そのベースとなったEVFの性能によって、高速連続撮影中というのがわからないほどの滑らか、かつリニアなEVF表示になっています。ちなみに、「Z 8」や「Z 9」では電子音でシャッター音を再現しており、これをオフにすることもできるのですが、このモードでは本当に撮影しているかどうかわからなくなるので、私は取材時に必要以上に連写していることが多々あります(笑)。
さて、そんな「Z 8」の「Real-Live Viewfinder」が活きる撮影と言えば、やはり流し撮り。流し撮りは動く列車に合わせてカメラを振りながら低速シャッターで撮影する技法です。シャッター速度が遅くなる分、一眼レフ機や一般的なミラーレス一眼カメラでは、ブラックアウト中や止まった画像が表示される間は、勘でカメラを動かす必要がありました。
しかし「Z 8」では、撮影中でも滑らかに状況が表示されます。動く列車を常に任意の位置で捉え続けながら撮影することができるのです。これは、流し撮りの撮影では非常に大きなフォローになります。今まで流し撮りが苦手だったという人も挑戦しやすく、また成功率が上がること間違いなしの、素晴らしい機能です。
緻密さがモノ言う鉄道風景写真もお手のもの 「有効画素数4571万画素の高画素」
「Z 8」は先述した通り、ニコン高画素機の代名詞ともいえる名機「D850」の後を継ぐ機種として生まれたカメラです。そのため、高速連写&高速AFというフラッグシップ機のような性能を持つ「Z 8」も、高画素性能に抜かりはありません。有効画素数約4571万画素を誇る高画素と解像感は、息を呑むような圧倒的な描写力を持っています。これは大きなPCモニターで鑑賞するのみならず、B0やB倍といった、写真展でも特に大きなプリントにも耐える画像が撮れる性能です。
緻密さが何より重要な鉄道写真と言えば、鉄道風景写真ですね。画像の一部分をアップにしても、草木や地面のディテールなどがしっかり出ていると、撮影した側は本当に嬉しくなるものですが、「Z 8」で撮影した鉄道風景写真は、目を見張るほど細かなディテールが表現されます。
また、高解像な作品を撮るには、カメラだけでなく、レンズの性能も同じくらい重要です。ニコンはレンズをガラスから製造しているメーカーでもあり、世界中が一目を置く高品質なレンズを世に送りだしています。
ちなみに、レンズの性能を判断する私なりのポイントはいくつかありますが、鉄道写真でよく使うズームレンズで一番気にしているところは、レンズの周辺部の描写力です。
ズームレンズは単焦点レンズに比べ、多くの焦点距離をカバーするため、より多くのレンズを使います。あるレンズは形を変え、そしてあるレンズは材質を変えるなど、様々な方法を使って光を曲げ、集約してイメージセンサーに光を届けます。レンズ構成枚数の多いズームレンズは、どうしても画面四隅の周辺部に収差(光の曲がり具合によって起きる画質の低下など)が現れやすくなります。その収差をいかに修正して、画面中央部に負けないシャープさやコントラストや彩度を上げていくのかが、設計者の腕の見せ所なのです。
ズームレンズでも、全ての焦点域で単焦点レンズ並みの美しさを実現することはできなくもないですが、そのためにはかなり大型になり、また高額になるそうです。実際は、現実的なサイズ感と価格を考えてレンズを設計、製作するわけですが、その分どうしても設計が難しいところが出てきます。
ズームレンズの望遠側の描写を良くするか、それとも広角側の描写を良くするか、コントラストは?シャープ感は?「ここは妥協しても仕方ないが、これだけはこだわりたい」といった様な葛藤と壁が常に立ちふさがり、それを乗り越えるための創意工夫や新たな技術に対する探求心などを、日々惜しむことなく設計や開発に注ぎ込んでいるわけです。だからこそ、新しいレンズはそれまでの製品よりも性能と解像感などの描写力が上がり、それがカメラの表現力に大きく影響することになるのです。
美しい描写の写真を撮るためには、カメラだけでなくレンズの性能も良くなくてはなりません。つまり、レンズの良さを引き出せるカメラ、カメラの描写力を十二分に生かせるレンズの双方が重要です。
「Z 8」はもちろんそんなカメラですし、Zレンズ群はニコンの技術力と誇りが生み出した高性能なレンズです。その両者ががっちり組むことで、私たちは素晴らしい作品を撮ることができるのです。「Z 8」とZレンズ群は、鉄道風景写真撮影で最強の組み合わせといっても過言ではないでしょう。
鉄道写真撮影に「READY. ACTION.」
いかがだったでしょうか。「Z 8」は、鉄道写真撮影で必要とされている機能や性能を高次元で実現したカメラで、「Z 9」とほぼ同等の性能を持ちながら、軽量&コンパクトでリーズナブルな価格というのも大変魅力です。
ちなみに、鉄道写真で縦構図を多く撮るという方もご心配なく。縦構図の撮影がしやすくなり、バッテリーを2つ搭載することで長時間の撮影にも対応できる「パワーバッテリーパック MB-N12」も用意されています。「MB-N12」を装着すると「Z 9」よりもボディサイズが大きめになりますが、普段の横撮影や三脚を使う撮影は「MB-N12」を使わず、手持ちで縦撮影が必要な時に装着するという使い分けもできます。
もし「Z 8」が気になったら、近くのニコンプラザや量販店などで触ってみてください。「Z 8」のすべての性能や機能、そして感触が鉄道写真撮影への新たな写欲を呼び起こすに間違いありません。あなたの鉄道写真撮影に「READY. ACTION.」!
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雨が気になる梅雨時、濡れたカメラやレンズの保管方法はどうすれば? プレミアム会員に登録すると、プロカメラマンによる機材管理方法の解説がご覧になれます。
梅雨時のカメラの保管方法はどうすれば?さて、「鉄道写真なんでもゼミナール」に、読者からまたまたご質問を頂きましたのでお答えいたします。Q. 梅雨時でカメラの防湿対策、結露対策はどうすれば良いのか。雨の沿線でのカメラの管理、大雨の中屋根のない場所で撮影した後のカメラのお手入れの仕方は?この記事が公開さ