芳賀・宇都宮LRTの秘密兵器「トランジットセンター」とは
――トランジットセンターとは、どのようなものなのでしょうか。
トランジットセンターは、バスや地域内交通、自転車、マイカーなどとLRTの乗り換えのための施設です。芳賀・宇都宮LRTでは、宇都宮駅東口、宇都宮大学陽東キャンパス、平石、清原地区市民センター前、芳賀町工業団地管理センター前の5つの停留場付近に設けます。
これらは、マイカーやバスなどの利用が多いと想定される場所に配置しています。たとえば、宇都宮大学陽東キャンパス停留場のものは、ショッピングセンターである「ベルモール」の隣接地です。平石停留場の隣には、幹線道路である新4号バイパスが通っています。清原工業団地は、工業団地内のバスや、さらに遠方へ向かうバスや地域内交通、マイカーとの結節点となります。現時点では清原地区市民センター前停留場のものが一番大きなトランジットセンターですが、平石トランジットセンターも今後拡張していく予定です。
――地方の鉄道路線では、電車で通学する子どもを親が駅まで送り迎えすることがありますが、同様の利用も想定されているということですね。
その通りです。たとえば清原地区市民センター前トランジットセンターは、パーク&ライド用に多くの一般車用駐車場を設けています。駐輪場も整備し、公共交通以外でもアクセスしやすい形態にしています。
――新たな公共交通機関としては、近年では「BRT」の導入という選択肢もあります。なぜLRTを選んだのでしょうか。
BRTは、従来の路線バスより輸送力が大きいのが特徴ですが、LRTはBRTに対し、時間の正確性や定時性、速達性、環境性能といった点で有利です。また、宇都宮市の現状にあった輸送力、整備費用や既存路線との直通運転の可能性なども考慮した結果、LRTの採用に至りました。
――LRTは、どのような層の利用を想定しているのでしょうか。
主に、清原工業団地や、終点近くに所在する本田技研工業(ホンダ)の施設などへの通勤利用を想定しています。1日あたりの需要見込みとしては、平日が約1万6000人で、うち通勤利用が約1万3000人。休日の需要見込みは約5000人としています。
これまでは企業による送迎バスの運行もありましたが、今後はLRTがその役割を代替することになります。
――宇都宮市は、現在ではマイカー社会という印象があります。今後はマイカーからLRTへの転換を目指す必要があると思いますが、どのような施策を検討しているのでしょうか。
まずはLRTの利便性を知っていただくことが必要です。これまでにも市民のみなさまを対象にした車両見学イベントを実施してきましたが、開業後には、他の交通機関との連携や、定時性のアピールによって、LRTの利用を増やしていきたいと考えています。
――平石~ゆいの杜間では、県道64号線が宇都宮芳賀ライトレール線をショートカットするような経路で通っています。所要時間では県道64号線経由のマイカーの方が有利だと思うのですが。
通勤・通学利用者の需要を考えると、清原工業団地は無視できない存在でした。渋滞に影響されない専用走行区間の整備などによって定時性を確保し、時間短縮を図る方針です。
宇都宮駅の西側にも伸びるLRT 東武線などとの直通運転は?
――今回の開業区間は宇都宮駅東側ですが、西側への延伸計画についても教えてください。
まずは宇都宮駅から教育会館付近までの約5キロを「整備区間」と位置付け、2030年代前半の開業に向けて検討を進めています。この区間は、商業施設が多い東武宇都宮駅付近や、複数の学校付近を経由するため、潜在的な需要が見込めるものとなっています。
さらに西側には、観光スポットである「大谷地区」があります。教育会館付近から大谷地区までについても、将来的な「検討区間」に位置付けています。
――現在はバスで連絡しているJR宇都宮駅と東武宇都宮駅の移動が便利になりそうです。他路線との直通運転は検討しているのでしょうか。
現時点で計画はありません。しかし、将来的な接続には対応できるよう、LRTのレール幅は東武線などと同じ1067ミリとしています。
――試運転は2022年11月に始まっていますが、これまでの試運転で課題は見つかったのでしょうか。
宇都宮駅東口で脱線事故が起きてしまいましたが、さまざまな面で検証し、対策した上で安全性を確保しています。今は開業に向けて順調に進められている状態です。
――LRT整備による効果は、どう感じていますか?
LRTの整備によるまちづくりの効果は、開業前からすでに生まれています。LRTが経由する「ゆいの杜」地区では、人口が5年で約1.5倍に増加し、宇都宮市では30年ぶりとなる新しい小学校が2021年4月に開校しました。私自身、実際に訪問すると、住宅が多く、若い世代が多いので、活気のあるまちになっていると感じます。そのほかのエリアでも、路線価の上昇や、高層ビルの増加といった効果が見られています。
また、これまでに開催したLRT車両の見学会では、乗り方や交通ルールについて、参加者のみなさまが熱心に質問されていました。当初企画したLRT車両の地域住民向け見学会では倍率が8倍から10倍、7月に開催した「レールウォーク」では約40倍と、いずれも大変な人気を集めており、多くの方に期待されていると感じます。開業日、また開業以降も、皆さまに楽しんでライトラインに触れていただけるイベントを開催していきたいと思います。
2020年3月に富山駅の南北を走る路面電車路線が接続した富山市では、宇都宮市同様に、自治体によるまちづくりの一環として路面電車の整備が進められてきました。その富山市では、路面電車の「南北接続」の結果、路線の利用者が増加し、マイカーからの転換も新規利用者の約50%を占めたといいます。
富山市と同じように、市街地が拡散し、マイカー移動が主流となっている宇都宮市。今回の新たな路面電車の整備で、公共交通を主軸とした新たなまちづくりが、また一歩前進することになります。