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京急の1000形はいつから「新1000形」ではなくなった? 京急に聞くその理由

2023年11月4日(土) 鉄道コムスタッフ 西中悠基

京浜急行電鉄の主力車両といえば、2002年にデビューした1000形。これまでに約500両が製造され、800両近い京急の車両のうち、過半数を占めています。

京浜急行電鉄の1000形
京浜急行電鉄の1000形

1000形は、20年以上にわたって増備が続けられているため、最初に登場したグループと、最新のグループでは、見た目も機器も大きく異なります。通勤電車として一般的なロングシート主体の車両だけでなく、2021年にはクロスシートとしても運用可能な車両、1890番台「Le Ciel」も登場しました。

2021年にデビューした1890番台「Le Clel」。2002年デビューの編成とは見た目も機器も設備も異なりますが、同じ1000形です
2021年にデビューした1890番台「Le Clel」。2002年デビューの編成とは見た目も機器も設備も異なりますが、同じ1000形です

そんな1000形ですが、デビュー当時は「『新』1000形」と呼ばれ、京急の公式発表でも、長年「新」が付いた表記が使われてきました。

デビュー時に新1000形と呼ばれていたのは、当時は(旧)1000形が在籍したため。別の形式であるにもかかわらず、同じ1000形という形式名を使うため、新1000形と(旧)1000形として区別されていたのです。

2010年に営業運転を終了した旧1000形。現在は2両が久里浜工場に保存されています
2010年に営業運転を終了した旧1000形。現在は2両が久里浜工場に保存されています

形式が重複するのであれば、別の形式名にすればいいのでは、という考えもありますが、京急が直通運転を実施していることが、その制約となってしまいます。

都営地下鉄浅草線を介して相互直通運転を実施している京急、京成電鉄(および芝山鉄道)、北総鉄道(およびかつての住宅・都市整備公団、現在の千葉ニュータウン鉄道)、東京都交通局の各社局では、直通運転に使用する車両形式が重複しないよう、それぞれが使用する形式名の千の位が決められています。たとえば、東京都は5000番台、京成は3000番台。そして京急は1000番台(および600形)が指定されているため、京急では4000形や6000形といった他の形式を使用することができないのです。

都営浅草線を介して直通する各社局の車両。この直通網の形式は、京急が1、京成が3、東京都が5などと、千の位の数字が決められています
都営浅草線を介して直通する各社局の車両。この直通網の形式は、京急が1、京成が3、東京都が5などと、千の位の数字が決められています

加えて、新1000形がデビューした当時、同じ1000番台では、1500形が1500~、1600~、1700~、1900~を形式の細分類で使用。旧1000形も、1000~、1100~、1200~、1300~を使用していました。新1000形の初期グループでは、8両編成が1000番台、4両編成が1400番台を使用したので、8両編成を基本とする考え方でいけば、番号が重複する1000形とするしかなかったと考えられます。

ちなみに、京急の歴代車両には、1000番台や600形ではない形式も存在しますが、これらは相互直通運転に使われる車両ではないため、1000番台の縛りはありません。

第二次大戦期に東急が現在の京急や小田急などを吸収していた、いわゆる「大東急」の時代には、車両形式の重複を避けるため、元会社別に千の位が決められており、元京浜電気鉄道(湘南電気鉄道を含む)の車両は5000番台に統一されていました。戦後、大東急が分割された際、京浜急行電鉄は各車番から5000を引いた数字に改番。それまでの車両は230形などの3ケタの形式となり、以降の営業用車両も、1000形と2000形以降を除き、500形や700形、800形などと、3ケタの形式が続きました。

1978年にデビューした800形。旧1000形より後の登場ですが、相互直通運転には使用されないため、1000番台の形式にはなっていません
1978年にデビューした800形。旧1000形より後の登場ですが、相互直通運転には使用されないため、1000番台の形式にはなっていません

さらに余談ですが、京急線に乗り入れていた住宅・都市整備公団の車両には、京急車と番号が重複する2000形が存在していました。重複状態を避けるため、1994年に同形式は9000形に改番されましたが、1991年の直通運転開始から約3年間は、別形式の2000形が京急線を走っていたことになります。

2017年に引退した、北総鉄道の9000形。かつては2000形と名乗っており、京急2000形と形式名が重複していました
2017年に引退した、北総鉄道の9000形。かつては2000形と名乗っており、京急2000形と形式名が重複していました

さて、新1000形と旧1000形の形式の重複は、新1000形がデビューした2002年から、旧1000形が引退した2011年(営業運転終了は2010年)まで続きました。しかしその後も、京急では「新1000形」という呼び方を継続して使用。たとえば、2018年に営業運転を開始した1000形17次車の導入発表では、「2018年1月から順次営業運転を始める新造車『新1000形(17次車・ステンレス車)』において」と、「新」を冠した名称を使用していました。

1000形のうち、初期の2002年にデビューした編成。当時は「新1000形」と呼ばれていました
1000形のうち、初期の2002年にデビューした編成。当時は「新1000形」と呼ばれていました
2018年にデビューした1000形17次車。導入発表のプレスリリースでは、こちらも「新1000形」でした
2018年にデビューした1000形17次車。導入発表のプレスリリースでは、こちらも「新1000形」でした

その一方で、2023年現在の京急の公式情報を見ると、新1000形という表記は見当たらず、1000形という表記が主流になっています。

京急の広報担当者によると、新1000形から1000形に表記を改め始めたのは、2021年とのこと。担当者は、「旧1000形が引退した後も、1000形といえば旧1000形だと、社内を中心に広く認識されていた」と、旧1000形の引退直後に表記を切り替えなかった理由を説明しました。一方で、2020年代に入ると、引退してから時間が経過し、(新)1000形という形式も定着してきたことから、会社要覧などの表記を順次切り替えていったのだといいます。

「アクセス特急」に使われる1000形。画像の編成を含む、2007年以降製造の1000形は、車体の素材がアルミからステンレスに変更されています
「アクセス特急」に使われる1000形。画像の編成を含む、2007年以降製造の1000形は、車体の素材がアルミからステンレスに変更されています
2015年に登場した1000形1800番台。貫通幌の設置に対応した前面デザインとなりましたが、形式名に変更はありませんでした
2015年に登場した1000形1800番台。貫通幌の設置に対応した前面デザインとなりましたが、形式名に変更はありませんでした

実際、京急のプレスリリースを見ると、2017年度までは新1000形という表記が多く使われていたものの、2018年度以降は減少。2020年の京急ミュージアム開業時の発表では「新1000形実物運転台」という表記が見られるほか、歴史紹介や過去に販売されたグッズでは今も新1000形が使われていますが、基本的には1000形に切り替わっています。

1000形のバリエーションは増え続けており、2023年9月には、1500形と重複する番台である、1000形1500番台が営業運転を開始しました。京急線に乗れば1000形を見ないことはない、と言えるレベルにまで増備された1000形。もはや旧1000形と区別する必要がないほど、利用者にも会社にも認知されたのかもしれません。

快特や「ウィング号」から普通列車まで、幅広く活躍する1000形
快特や「ウィング号」から普通列車まで、幅広く活躍する1000形
 

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