273系の新しい振り子システムとは?
技術面も見ていきましょう。
273系の前面のデザインは、287系や271系に類似しているように見えます。しかし、振り子式車両である273系では、車体の肩部や裾部が他形式よりも絞られており、断面が他と異なっています。結果、車内は271系などより若干狭くなっているのですが、川西さんのデザインにより、それを感じさせない客室を演出しているといいます。
振り子式とは、カーブで車体を傾けて走ることで、遠心力を打ち消し、乗り心地を改善させるもの。自転車に乗る際、曲がる際に体を傾けるのと、原理的には同じです。これにより、一般車両よりも速度を上げても乗り心地の悪化を抑えられるため、速度向上が可能となるのです。
従来の381系では、振り子式車両の黎明期であったため、遠心力のみで傾斜を制御する「自然振り子式」が採用されていました。これに対し、近年の振り子式車両では、遠心力を用いつつも、アクチュエーターにより事前に傾斜を制御させる、「制御付自然振り子方式」が採用されてきました。
273系では、さらに一歩進んだ形で、「車上型の制御付自然振り子方式」という、国内初の方式が採用されています。
これまでのシステムでは、ATS(自動列車停止装置)用の地上子などをもとに、位置情報を検知・補正し、車体を傾斜させるタイミングを計っていました。しかしこの方法では、車輪の空転などで距離が正確でなくなった場合、その後の地上子による位置補正が正確に働かなくなるおそれがあったといいます。加えて、地上設備である地上子は、工事などで設置位置が変わる可能性があります。その場合、車上のデータベースを更新しなければ、正確な補正ができなくなってしまいます。
これを解決する新システムは、鉄道総合技術研究所(鉄道総研)、JR西日本、川崎車両が共同開発したもの。車両のデータベースに、走行路線のカーブの情報を持たせ、従来方式の欠点を改善しました。車両は走行中、速度情報と、搭載したジャイロセンサーにより、現在走行している区間のカーブの情報を取得。これをデータベースの情報と突き合わせることで、地上設備によらない位置取得・補正が可能となりました。これにより、キハ187系などの既存の制御付自然振り子方式よりも、乗り物酔い評価指数で最大23パーセントの改善を実現しています。
なお、近年の車体傾斜車両では、遠心力に頼らず、空気ばねなどで車体を傾斜させる方式も多く採用されています。しかし、この方式は曲線が連続するような路線には不向きということ。かつて、空気ばね方式を採用したJR四国の8600系が、「やくも」が走る伯備線で走行試験を実施したこともありましたが、結果的に制御付自然振り子方式の方がメリットがあることから、こちらが採用されたということです。
走行システムは、271系などと同等。全ての車両が4つの車輪のうち2つをモーター付きとする「0.5M方式」を採用しており、制御装置としてはSiC適用のVVVFインバータを搭載しています。
また、2・4号車には、走行用のパンタグラフのほか、冬期を中心に使用する、いわゆる霜取りパンタグラフが搭載されています。これにより、4号車側は287系以来の「前パン」となっています。
273系の営業運転開始は、2024年春以降を予定。今回公開された編成と同じ、半室グリーン車を含む4両編成を、計11本製造する計画です。
この車両のデザインを担当した川西さんは、「1人あたりの居住スペースをできるだけ確保し、フリースペースやバリアフリー設備など、さまざまな設備を車内のあちこちに配置した。ぜひお気に入りの場所を見つけてもらいたい」とコメント。JR西日本車両部の関谷賢二車両部長も、「この車両に乗ることで山陰地区を思い出してもらえるような存在になってもらえれば」と話していました。