11月8日から10日まで、千葉県の幕張メッセで開催された「第8回鉄道技術展2023」。鉄道車両メーカーや座席メーカー、線路メーカーといった一般利用者の目につきやすい分野の会社から、システム周りや乗務員などの労務管理ソリューションなど、鉄道の裏側の部分を手掛ける会社まで、さまざまな事業者が出展する、鉄道技術の見本市です。
この展示会で、鉄道車両メーカーの近畿車輛が展示していたのが、車載式自動スロープ装置「スマートランプ」。車いすを使用する乗客の乗降をアシストするためのスロープを、車両側に搭載しようという試みです。
車いすの使用者が電車に乗車する際、電車とホームの間には段差や隙間があるため、多くの場合では可搬式の板を用います。しかしこれは、係員がその駅にいなければ対応できません。大きな駅ならともかく、小さい駅では対応できる係員の人数が限られるほか、無人駅ではそもそも駅に対応できる係員が配置されていません。さらに近年では、駅管理の集中化によって係員無配置となる駅が増えています。一部事業者では、車いすを使用して乗車すると事前に連絡することで、係員が乗降駅に移動し対応することもありますが、これでは車いす使用者側の電車利用の足かせとなってしまいます。
そんな状況を改善するための製品として、近畿車輛が開発しているのが、この「スマートランプ」。車内に自動でスロープを展開する装置を備えることで、駅係員に頼らず車両側でスロープの展開・収納を完結させようというのです。
「スマートランプ」は、乗務員が操作することを想定。装置の近くにカメラを設置し、乗務員が周囲の状況を確認したうえで、ボタンで展開・収納を指示します。動作自体は自動ですが、動作中にスロープを横切る乗客をセンサーが検知した場合は、スロープ動作は自動で停止する仕組みです。
車いす乗降用スロープを自動化する試みは、京急グループが開発した「ラクープ」や、JR西日本グループが手掛ける可動式スロープなど、これまでにもホームに設置するタイプのものがありました。これらは使用頻度が多い駅であればコスト面で有利ですが、列車本数が少ないローカル線であれば、車載式の方が有利であると考えられます。「スマートランプ」はまだまだ開発中の段階だといいますが、これが実用化されれば、バリアフリー対策の選択肢が広がります。
同じような車両とホームのすき間を埋める製品として、「ドアステップ装置」を展示していたのが、東洋電機製造。VVVFインバータ制御装置や歯車といった走行用機器、ドア開閉装置、パンタグラフなどを製造している同社ですが、新たな開発品として、転落防止用の装置を提案しました。
「ドアステップ装置」は、車両ドアの下に設置され、空気シリンダーで動作します。ドアが開くと同時にステップが張り出し、車両とホームのすき間を埋めてくれます。耐荷重は約200キロで、2人が同時に乗っても問題ないよう設計しているといいます。ステップの先端にはセンサーがあり、展開時はステップが一度ホームに当たってから、少しバックする仕組み。車両とホームの間隔にあわせて展開できるので、間隔が異なるどの駅でもすき間を埋められます。
この装置が威力を発揮するのは、カーブ上に設置されたホーム。このような場合、車両の両端と中央部ではホームと車両の幅が異なり、どちらかで大きなすき間が開いてしまいます。車載式ドアステップはJR東日本のミニ新幹線車両にも設置されていますが、こちらは車両側の軸を中心として90度回転する形で持ち上がるもの。ステップが埋めるすき間の幅は一定のため、扉数が少ない車両で、そもそも線形の良い新幹線駅では有用ですが、急カーブ上に駅があり、4ドア車両も存在するような在来線では、効果を十分に発揮できないことも考えられます。
近畿車輛の「スマートランプ」とは毛色が異なりますが、こちらもバリアフリー対策として、ユニークな提案となっています。