鉄道王国日本の誇り「新幹線」!
近年は、「今までは風景写真を撮っていたけど、鉄道も入れて撮ってみようと思った」といったように、鉄道趣味ではなくても鉄道写真を始める人も増えているそうです。特に鉄道風景写真は、編成写真や流し撮りなどの、鉄道写真ならではの撮影テクニックや機材の設定などをあまり必要としないため、鉄道写真を始めやすいという理由もあるようです。
しかしこの「鉄道写真なんでもゼミナール」をご覧になっている方は、生粋のレイルファンが多いのではないでしょうか(笑)。そこで今回は、鉄道写真の原点である「編成写真」、そしてテクニカルな撮影方法である流し撮りに絞って、話をしていきたいと思います。しかも今回は、鉄道王国日本の象徴にして世界に誇る「新幹線」の撮影にスポットを当てます。
新幹線と言えば、普通の鉄道と一線を画す速度とスマートなスタイルの車体が魅力です。その点を考慮し、活かした新幹線ならではの撮影方法や考え方をお伝えします。この文章を見れば、新幹線が撮りたくなること間違い無し!?
速い!とにかく速い!!
今や世界各国でも使われている「Shinkansen(新幹線)」という名称。実際のところ、高速で走る車両や列車を指す言葉と思っている方もいると思いますが、少し違います。
「新幹線」とは「新しい」「幹線」という意味で、車両だけでなく線路や駅施設、信号システムなど、最先端の技術と高度なシステムで構成された高速鉄道という意味です。なので正確には車両のことは「新幹線車両」と呼びます。ただここでは「新幹線」と書かせていただきますのでご承知おきを(笑)。
さて、その新幹線ですが、在来線と明らかに違うのがその速度。現在、日本の在来線の営業最高速度を誇るのが、京成電鉄AE形「スカイライナー」。その速度はなんと、時速160キロ!成田空港線(成田スカイアクセス線)でその速さを体感できます。北陸新幹線金沢開業以前は681系&683系「はくたか」が北越急行ほくほく線で同様の時速160キロ運転をしていましたが、今は京成スカイライナーが唯一の存在となっています。
しかし、新幹線の営業最高速度は、東北新幹線の時速320キロを筆頭に、最低でも北陸新幹線、九州新幹線などの時速260キロと、スカイライナーよりも100~160キロも速い速度(山形新幹線や秋田新幹線の在来線区間などを除く)で走行しています。
そんな速い列車を写し止めようとするのだから、何より必要なのはカメラのシャッタースピードの設定。単純な話、列車の速度と必要なシャッタースピードは比例するので、列車の速度が3倍になれば、シャッタースピードも3倍で考えなくていけません。しかしそうするには、レンズの絞り(F値)を開けなくてはならなかったり、ISO感度をより高感度にしなくてはならないなど、露出的な反比例も起きます。
ちょっとばかり算数的な考え方で対処する必要があるのですが、その設定上シビアになりがちなのが新幹線の撮影なのです。それでは具体的に撮る写真の内容によっての設定や考え方をお話ししていきましょう。
鉄道写真の王道「編成写真」で大切なシャッタースピードの話
鉄道写真の中で、最もポピュラーで基本中の基本、王道と呼ばれているのが「編成写真」です。
以前もお話しした通り、編成写真は「鉄道写真の商品撮影」とも言われているもので、列車の先頭から最後部までフレーミングいっぱいに収め、とにかく列車の格好良さと美しさを見せることが重要になる鉄道写真です。そのためには、カメラの機能や設定方法、列車の形や長さを予測する経験と想像力など、様々な写真スキルと鉄道知識をフル動員することが求められるので、私は鉄道写真の基本でありながら、奥の深い分野だと思っています。
そこで、まずはカメラの設定からお話ししましょう。新幹線の営業最高速度は時速260~320キロと先述しましたが、シャッタースピードを目安として考えると、時速300キロで走っている新幹線は、1/1000秒で約9センチ動きます。9センチというと、かなりの移動量になりますね。
しかし、使用するレンズや線路までの距離によって、見た目の移動量は大きく変わってきます。
超望遠で高圧縮している構図と標準レンズで肉眼に近い構図とでは、どちらも編成写真として撮影するにもかかわらず、シャッターを切るベストポイントに来た時の新幹線の速度感は全く違います。超望遠構図はゆっくりと等速で来るように見えるのに対し、標準レンズ構図では加速度的に速度が上がり、またものすごい勢いで駆け抜けるように見えます。
線路までの距離においても同様で、新幹線を真横で捉えるにしても、立ち位置が線路に近ければ速く駆け抜け、線路から遠ければゆっくり走っている様に見えます。それら全てを考慮して、私は最適と思われるシャッタースピードを導き出しています。列車の実際の見かけの速度感もその場で考慮しますが、編成写真撮影の際は300mmクラスの超望遠だったら1/2000秒、50mmクラスの標準レンズだったら1/8000秒以上といった感じです。ちなみに、この数値はニコン「Z 9」や「Z 8」のような4500万画素を誇る高画素機に対しての考え方。2000万画素クラスの機種ではもう少し遅くても大丈夫です。
「じゃあ、始めから超望遠も1/8000秒にすれば?」という声も聞こえてきそうですが、むやみやたらに高速シャッターにするのも良くありません。シャッタースピードを上げれば、適正露出を確保するために絞りを開けるか、ISO感度を上げるなどの対処が必要になります。絞りを開けると被写界深度が浅くなりボケが大きくなるのと同時に、レンズの収差(特に画面の四隅の色がにじんだり、流れたりするような描写低下)が起きやすくなります。画面の端に列車の顔がある構図となりやすい編成写真では、できるだけ絞りを絞り込んで、描写力を上げたいものです。また、ISO感度は上げれば上げるほどノイズが発生しやすくなるのは、皆さんもご存知の通りです。
これは在来線の場合でも同様ですが、特に高速で走る新幹線の編成写真は、この条件がシビアになります。最低限のシャッター速度を確保しつつ、最大限の描写力も確保するという計算が重要になるのです。その計算をするためにも己の経験を積むことも大切です。まずは私のお伝えしたシャッタースピードの目安をもとに、自分が所有するカメラやレンズの描写力や限界値を考えながら撮影に臨んでください!
先頭部の長い鼻を「活かす」 編成写真~標準レンズの場合~
子供たちに大人気の新幹線。その魅力は、やはり鼻の長い流線形の先頭車が格好良いからではないでしょうか。子供たちだけでなく、大きなお友達である私も新幹線のフォルムに羨望のまなざしを向ける一人です(笑)。
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ちなみに、新幹線の鼻が何故長いのかご存知でしょうか?「空気抵抗を減らして速度を向上させるため!」と答えた方、半分正解で半分間違いです。日本だけではなく世界の高速鉄道に目を向けてみるとわかりますが、たとえばイタリアの高速鉄道車両、ETR500は、最高時速300キロで走るのに新幹線ほど鼻が長くなく、むし