日本の国土は、全体の7割以上が山地だと言われています。私たちは、残りの平野部に街をつくり暮らしているわけですが、その都市間を結ぶ中長距離鉄道路線は、海沿いを走る一部の路線を除き、山地を通ることを余儀なくされています。
現代であれば、全長約26キロの東北新幹線八甲田トンネルを筆頭に、山岳地帯を長大トンネルで貫くことが可能です。しかし、建設技術が今より未熟だった頃に建設された路線では、長大トンネルの建設を避けるため、スイッチバックやループ線などで峠を越えたり、あるいはわずかな平地を求めて右に左にカーブする線路を敷くことで、山地という障害を乗り越えていきました。
列車は、カーブで速度を出しすぎると脱線してしまいます。また、脱線までいかなくとも、カーブを猛スピードで通過すると、外向きに遠心力が掛かるため、乗り心地が悪化してしまいます。そのため、列車は急なカーブを通過する際には、速度を落として進入します。そのため、カーブが多い路線では、スピードアップが困難となってしまいます。
そのようなカーブが多い路線でも、スピードを落とさずにカーブに進入できれば、所要時間の短縮は可能です。そうした経緯で誕生したのが、「振り子式車両」などの「車体傾斜式車両」です。
鉄道路線の急なカーブには、制限速度が設けられるのが一般的です。仮に速度を出しすぎたまま列車がカーブに進入してしまうと、乗客に大きな遠心力が掛かり、乗り心地が悪化します。加えて、列車の安全性も損ない、最悪の場合は脱線という大事故につながってしまいます。
ただし、安全性が第一とはいえ、列車がカーブに入るたびに減速していると、スピードアップの弊害になります。カーブを通過する際に問題となるのは、先述した通り、乗客の乗り心地と通過列車の安全性の2つです。しかし、乗客が乗り心地を悪く感じる速度は、安全性を損なう速度よりも下です。乗り心地さえ解決できれば、安全な範囲で制限速度の向上が可能となります。
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遠心力を小さくするための線路の工夫が、外側のレールを高くし、内側のレールを低くすることで、線路を傾ける「カント」です。カントがあると、カーブを通過する車両は車体が内側に傾くため、乗客に掛かる遠心力は緩和されます。そのため、理論上はカント量を大きくすればするほど、遠心力の緩和によるスピードアップが可能