東京メトロでは、東西線の南砂町駅で、ホームを増設する工事を進めています。5月7日、同社はこの新ホームや、同駅の新改札口などを、報道陣に公開しました。
東京の地下を東西に貫く東京メトロ東西線は、東京都区内のみならず、千葉県西部からの利用も多い路線。かつてはラッシュ時の混雑率が日本一となっていたこともありました。2024年5月現在の最新データ(2022年度統計)では、新型コロナウイルスの影響を受け、混雑率は全国で10番目と「改善」されてはいますが、それでも首都圏有数の混雑路線であることに変わりはありません。
東京メトロでは、この東西線の混雑緩和を図るべく、以前からさまざまな輸送改善策を講じてきました。ソフト面では、ピーク時を避けた時間の利用でポイントを積算できるサービスを展開。ハード面では、飯田橋~九段下間の折り返し設備整備や、茅場町駅のホーム延伸、そしてもう一つが、この南砂町駅の改良工事です。
1969年に開業した南砂町駅。現在の同駅は、1つのホームの両側に各方面の線路が敷かれている、島式1面2線の構造です。東京メトロでは、現ホームの南側にホームと線路を増設し、島式2面3線とする工事を進めています。
現在の南砂町駅の構造では、前の列車がホームを出るまで、次の列車はホームに進入することができません。ここに新しいホームと線路を設置することで、前の列車がまだホームから完全に出ていないタイミングでも、次の列車が進入することが可能となります。このように、複数の線路に列車を発着させる方法は「交互発着」といい、JRの中央線快速や、東海道新幹線など、列車本数が多い路線で見ることができます。
ホームの増設に加えて、駅構造の変更も実施し、2つにわかれていた改札口を1つに統合します。南砂町駅は開業以来、ホームの両端に改札口がある構造で、駅改札事務室が分散していたほか、幅が狭くなるホーム両端に出入り口の階段があるため、安全面などで課題がありました。
南砂町駅の改良工事では、3回の線路切替工事を予定しています。まず1回目は、中野駅方面の線路を新ホームへと切り替える工事を実施。続いて2回目の工事として、西船橋駅方面の線路を、これまで中野駅方面の線路があったスペースに移設。そして3回目に、西船橋駅方面の線路を従来の位置に戻すこととなります。1回目と2回目の切替工事の間、新ホームと従来ホームの間(従来の中野駅方面の線路があったスペース)には、通路を設置し、両ホームの通行を確保します。また、2回目の線路切替工事後は、開業以来使われてきたホームのリニューアルを実施。ホーム幅の拡大などを実施する計画です。
この南砂町駅がホーム増設工事の対象となった理由について、東京メトロ 鉄道本部改良建設部 第一工事事務所長の吉田敬さんは、他の駅はスペースの都合上増設が難しいと説明。加えて、出口が2箇所にある南砂町駅の構造の改良も兼ねて、同駅を選定したとしています。
新たなホームは、中野駅方面の線路の向かい側に置かれました。従来のトンネルの壁を撤去し、その奥に新たな施設を構築した形です。従来のホームは最大幅6メートルでしたが、新ホームは最大幅9メートルに。スペースを広くすることで、混雑緩和を図る狙いです。新ホームには、取材時点ではホームドアはなく、ホームの供用開始までに設置することもないとのこと。東京メトロは今後、駅改良工事の進捗にあわせ、設置時期を精査していくとしています。
新ホームの北側は、大部分は仮の壁がありますが、一部には通路用のスペースが確保されています。1回目の線路切替工事後は、この場所に新旧ホームをつなぐ仮設通路が置かれます。
改札は地下1階に設置。先述したとおり、2つにわかれていた改札を1つに統合しています。改札付近には天窓を設けており、地下ながら日中には日差しが差し込むつくりとなっています。
また、駅西側にある従来の1番出口は、線路切替工事にあわせて廃止。その近くに、新しい1番出口が設けられます。新1番出口は、エレベーターやエスカレーターを併設した構造。駅西側へのバリアフリー動線が誕生します。また、1番出口の地上部には、改札横とは別の駅事務室が設けられています。
新たな1番出口の建屋では、横引き式の大きなシャッターが目を引きます。南砂町駅が所在する江東区は、大部分が海抜ゼロメートル地帯。豪雨などで荒川の堤防が決壊した場合には、区内の大部分が浸水するおそれがあるとされています。江東区のハザードマップによると、南砂町駅周辺では、最大で3~5メートルの浸水が想定されているということ。万が一このような事態が発生した場合にそなえ、このような大がかりな防水壁が設置されているのだといいます。ヒンジ式のドアのような防水壁は他の駅でもよく見られますが、横開き式のものはあまりないようです。
東京メトロでは、新ホームの供用開始にともなう線路切替工事のため、5月11日と12日の2日間、東西線東陽町~西葛西間を終日運休すると発表しています。両日は、南砂町駅を発着する列車が全面運休となるほか、中野~茅場町・東陽町間、西葛西~葛西間、葛西~西船橋間で折り返し運転を実施する予定。東京メトロでは、他路線などへのう回を呼びかけています。
南砂町駅の改良工事は、当初は2020年度の完成を予定していましたが、新型コロナウイルスの影響などにより遅延。東京メトロでは、現在は2027年度の完成をを予定しているものの、さらに後ろ倒しになる予定だと説明しています。