JR西日本は8日、特別仕様車両「JR WEST Parade Train」を報道公開しました。
「JR WEST Parade Train」は、2025年4月13日に開幕する予定の「大阪・関西万博」に向け、JR西日本が投入する、車内空間演出つきの車両。大阪環状線・JRゆめ咲線(桜島線)を走る323系8両編成のうち、桜島駅寄りの1両(1号車)をラッピングし、車内も特別仕様に変更しています。
大阪・関西万博の開催期間中は、JRゆめ咲線の終点、桜島駅から会場行きのバスが発着する予定で、同線は万博アクセス路線の一つとして機能することになります。今回の「JR WEST Parade Train」は、アクセスルートで何かできないかと、2022年に構想がスタート。公募を経て実現したということです。
車内の特徴は、広告枠部分に設置されたLEDパネル。12×25センチメートルのLEDパネルを932枚埋め込んでいます。万博開催期間中は、ここにカメラで撮影した外の風景をリアルタイムで投影し、さらにさまざまなテーマ演出を合成した映像を流す予定です。
実際に映像を体験してみると、思った以上の開放感が。通常では天井などで見えないはずの空が、LEDパネル越しではありますが見ることができるため、まるでオープンカーのような車両となっています。
演出のテーマは、基本が「食」「水都」「歴史」「自然」の4つ。いずれも大阪らしさを表現したものです。今回の報道公開で流されたのは、このうち「食」と「水都」の2つ。「水都」では、走行風景の中を海の中の生き物が泳ぐような、ユニークな映像が投影されていました。
また、JRゆめ咲線に入ると、万博仕様のテーマが流されるということ。大阪・関西万博の公式キャラクター「ミャクミャク」などの万博IPを用いた映像が流れるほか、万博の帰り道(桜島駅発)では、万博観覧の高揚感を残すよう、途中駅で花火が打ち上がるような映像が楽しめる予定だといいます。
このほか、この車両が走る予定の新大阪~大阪~西九条間にあるトンネルでは、外の映像を投影しても、ただトンネルの壁が写るだけとなります。そのため、同区間においては、1970年の大阪万博から2025年の大阪・関西万博までをたどるようなコンテンツの放映を検討しているそうです。
なお、リアルタイム映像を投影するのは、列車の走行中のみ。駅に停車している間は、周囲のプライバシーなどに配慮し、カメラによる映像は流されません。また、万博が開幕するまでの間は、「アイドリング映像」として、開催期間中とは別のイメージ映像を流すとしています。
このように、車内で全面的にLEDパネルを設置し、外部映像を投影する試みは、鉄道業界では初めてなのだそう。JR西日本では、関連する技術の特許も取得しています。
鉄道趣味的な部分でご紹介すると、今回の改造に際しては、LEDパネルを設置するため、網棚はすべて撤去されました。また、外の風景との一体感を楽しんでもらいたいことや、カメラ設置の都合により、側面窓のカーテンはすべて取り外されました。その代わりに、各窓には遮光フィルムが貼り付けられています。このほか、LEDパネルの映像投影を処理するため、制御端末が扉横に設置されました。座席定員は変わっていないものの、立ち席スペースが少し減ったことから、この1号車の定員は3人減少しています。
また、車内のコンテンツにあわせ、車外は「オープンカーでパレードに参加するわくわく感」をコンセプトにラッピングされました。水色をベースにリボンや紙吹雪が飛ぶデザインで、車両自体を贈り物のようにとらえ、リボンが解けて中から楽しいものが出てくるイメージとしたといいます。
「JR WEST Parade Train」は、12月14日に営業運転を開始。先述したように、万博期間用の演出は4月13日以降の実施で、それまでの間はアイドリング映像や告知映像を表示する予定です。また、導入する予定のもう1本は、今回公開された車両が車両工場を出場した後に、改造工事に着手するとのことです。
車両が走るのは、他の323系と同様、大阪環状線とJRゆめ咲線です。ただしJR西日本では、万博の開催期間中は、新大阪駅と桜島駅を直接結ぶ臨時列車を中心に運転するとしています。
また、JR西日本では、今回の取り組みを実証実験だと捉えているということ。万博開催終了後における「JR WEST Parade Train」の取り扱いは現時点で検討中だそうですが、この車両の評判次第では、運転期間を延長することや、今後別の形で活用することも考えたいとしています。