レンズの特徴を知ることで作品の幅と撮影の楽しみが広がる!
最近のデジタルカメラは機能や画質の向上が著しく、カメラ雑誌やSNSのコメント欄などで話題になることが非常に多くなっています。「失敗せずに撮れるようになる」「プロと同じ技が簡単に再現できる」「今まで難しかった撮影がお手の物に!」など、撮影していて顕著に実感できるところが多いからではないでしょうか。たしかに、新たな技術によって、今までよりもひと回りもふた回りも良い作品が撮れると、腕も上がったように感じます。もしそれが本当にカメラのおかげだとしても、自身が撮影を楽しく感じ、より写欲が増してくるのであれば、それは良い事なのです。
私も、写真教室やイベントなどのトークで、「写真は何より自己満足の世界。心から楽しむべき!」と言っています。写真撮影はまさに「自身の自身による自身のための文化的活動」なのです。我ながらリンカーンもびっくりの名言です(笑)。
しかし、その自己満足を達成するには、カメラだけでは到底成しえません。やはり、カメラの相棒であるレンズの存在が重要なのです。しかし先述した通り、どちらかというとカメラの性能が注目されがちで、レンズ性能はあまりこだわらないという声も多く聞かれます。
そこで今回は、前回の「撮影スタイルに合ったレンズを選ぼう!」前編に続き、標準レンズと望遠・超望遠レンズを中心に解説をしていきたいと思います。それぞれのレンズの特性を生かした撮影の考え方もお話しするので、ぜひ明日からの撮影にヒントにしていただければと思います。
写真撮影の基本中の基本は標準レンズ
各レンズの焦点域に関しての明確な定義はありませんが、フルサイズ35mm換算で35mm~50mmの焦点域を持つレンズが「標準レンズ」と言われています。また、同じくズームレンズの場合は、24mm~70mm前後の広角側も含むレンズを「標準ズームレンズ」と言います。よって、70mm~80mm前後までを標準レンズと考える人もいるので、焦点域の呼称はそれほど限定しなくても良いかと私は感じています。
さて、標準レンズの特徴ですが、まず「人の視野角に近い自然なパースペクティブ(遠近感)で表現ができる」という点が挙げられます。ここで注意なのが、「人の視野角=標準レンズの画角」ではないということです。標準レンズの基本と言われるのは50mmですが、画角は47度です。対して、人間の視野角(水平視野角)は両目を合わせれば最大で200度にもなり、かなり差があります。
では、なぜ50mmが人間の視野角と同等と言われるのかというと、それは「パースペクティブ(遠近感)」のことを指しているからです。たとえば、広角レンズで近くの物と遠くの物を一緒に見ると、肉眼以上に近くの物は大きく、遠くのものは小さく表現されます。またその逆に、望遠レンズは圧縮効果によって、手前のものと奥の物の大きさが同じくらいの大きさに見えたりします(ボケ具合は考えず)。それがそれぞれのレンズが持つ遠近感の特性なのですが、標準レンズは人間の肉眼のパースペクティブに近くなっています。
ちなみに、私が現在愛用している「Z6III」はファインダー倍率が0.8倍ですが、やはり56mm前後で肉眼とドンピシャに重なります。
このような自分の肉眼とレンズとのパースペクティブの一致を知る方法ですが、両目を開けた状態で片方の目をファインダーに、もう片方の目をそのまま開けた状態で同じ被写体を見てズームしてみてください。ステレオグラフの様に見えるよう調整していくと、ある所で肉眼とファインダーの被写体の大きさ(背景も含めて)が完全一致する焦点距離があります。それが、肉眼とレンズの焦点距離のパースペクティブが同じになったということになります。デジタルカメラでしたら、一回撮影するとレンズの焦点距離を何ミリに合わせて撮影したか記録されるので、細かく確認することができます。
もちろん、これは個人差もありますし、カメラのファインダー倍率によっても肉眼と同じパースペクティブの焦点距離は変わります。自分の肉眼とカメラ&レンズのパースペクティブを知ると面白いので、是非一度試してみてください。また、この方法で動体を見ると、ミラーレス一眼のEVFの表示タイムラグの差も顕著にわかるので、覚えておくと便利です。
さて、ここで標準(標準ズーム)レンズのメリットとデメリットを挙げてみましょう。
メリット
- 人間の視野角の自然なパースペクティブに近い
- 被写界深度が深い写真と浅い写真の両方が撮れる
- 小型&軽量で持ち運びも楽々
- ボケが柔らかく、明るいレンズが多い
デメリット
- 説明的な構図になりやすい
- (標準ズームレンズでは)便利すぎて撮影者のフットワークが悪くなる
標準レンズのメリットといえば、先述した通り、やはり自然なパースペクティブで撮影できるということです。標準レンズには、広角レンズのようなデフォルメ感や、望遠レンズの圧縮感はありません。肉眼に近い見え方なので、作品を観賞する側に安心感や安定感を与え、無理なく「すっ」と見せることができます。
標準レンズは鉄道写真の世界ではまさにオールマイティな焦点域で、鉄道風景写真や鉄道スナップ写真だけでなく、編成写真にも使えます。特に編成写真は2~5両程度の短い列車にぴったり。線路のバラストから2~5mくらい離れて撮ると、自然な感じで先頭車が大きく、最後尾車が小さくなり、のびやかで迫力ある編成写真に仕上がります。
また、被写体に寄って絞りを開ければ、被写界深度が浅くなり、背景などの被写体以外のものは比較的大きくボケます。遠景であれば、絞りを絞ることによって、前面から背景までパンフォーカスの(被写界深度が深い)作品を撮ることも可能!様々な使い方と表現方法を生み出せるのが標準レンズの魅力なのです。
ちなみに、同じ50mmでも絞りの開放値が違うレンズを複数出しているカメラ会社やサードパーティーの会社があります。それは、より大きく美しいボケを表現するためのレンズだったり、お手軽で扱いやすい小型のレンズだったりします。それほど50mmをはじめとする標準レンズの描写力やフレキシビリティに、魅力やこだわりを持った写真愛好家が居るということなんですね。
写真専門学校や大学の写真学科では、最初に使うカメラのレンズを50mmに指定するところもあります。それほど標準レンズは撮り手の表現力を育て、時には試すレンズということなのです。よって、初めてカメラを買う方は、やはり標準レンズから揃えることをおすすめします。
ただし、デメリットにもあるように、構図が説明的な写真になりやすいという点もあります。露出ワークやフィ―ルドワーク、絞りなどを駆使して、被写体を強調するように動くようにすると良いでしょう。そうやって、現場での表現力と、自分ならではの視点を磨くことができるのです!
鉄道写真とは切っても切れない望遠&超望遠レンズ!
今回のレンズのお話も、いよいよ最後となりました。その最後のトリを務めるのは、望遠&超望遠レンズです。以前の記事で私は「鉄道写真は編成写真に始まり、編成写真に終わる」と書きましたが、その編成写真で最も活躍するのが望遠&超望遠レンズです。
私が幼い頃、小学生や中学生はコンパクトフィルムカメラを持つのが精いっぱい。コンパクトフィルムカメラは大概が標準レンズで、迫り来る列車を迫力いっぱいに撮ることは難しく、駅で撮るのが関の山でした。一眼レフ&望遠レンズを持つ大人が実に羨ましく、また格好良く見えたものです(笑)。
しかし現代においては、駅で見かける小中学生ですら、デジタル一眼レフ+望遠レンズという装備で撮影する時代となりました。親からのお下がりか、はたまたお小遣いやお年玉を一生懸命貯めたか、それともお稽古事や運動部の発表会や大会で優秀な成績を修めたお祝いか……(笑)。若い鉄道写真愛好家の人たちの中では、まだデジタル一眼レフという機材構成を多く見かけますが、あと数年もすれば若い人の多くがミラーレス一眼に移行していくでしょう。
さて、少し話は反れましたが、望遠&超望遠レンズの特性を考えてみましょう。まずはメリットとデメリットです。
メリット
- 遠くの被写体を引き付けて大きく撮れる。
- 隙間(架線柱と架線柱の間など)を抜くことが可能。
- 遠近感の無い高圧縮な表現ができる。
- ボケを大きくした印象的な作品ができる。
デメリット
- 被写界深度が深い写真が撮りにくい。
- 開放F値(絞り)が明るいレンズは大きくて重い。
以上が望遠&超望遠レンズのメリットとデメリットです。メリットの最初にも書いていますが、「遠くの被写体を引き付けて大きく撮れる」というのが、望遠&超望遠レンズを使う一番の理由ですね。
鉄道沿線は鉄道会社の敷地や私有地などが多く、撮影場所がかなり限られます。線路から離れることも多く、そういったところで標準レンズで撮影すると、鉄道風景写真や鉄道イメージ写真を撮る時とは別として、列車が小さすぎて迫力のある編成写真にはなりません。そういう場面で望遠&超望遠レンズが活躍するのです。
編成写真撮影で標準レンズしかないがために線路に寄り過ぎて、鉄道会社や鉄道利用者に迷惑をかける事案もよく見かけます。そういう時は迫力のある編成写真を撮ること潔く諦めましょう。私も、標準レンズしかない若い頃は無理をせず、鉄道風景的に引いて撮影をしたものです。もし迫力のある編成写真を撮りたければ、頑張ってお金を貯めたり、親のすねをかじりまくって望遠&超望遠レンズを買ってからにしましょう(笑)。
すこし説教臭くなったので方向を修正します。メリットのもう一つである「隙間を抜くことが可能」というのも、「列車を大きく撮れる」に近いものです。特に電化区間や街中では、架線柱や電柱が線路際に立っているので、編成写真撮影には邪魔なものが多くて撮影に不向きな場所と思うことも多いです。しかしよく見ると、その邪魔なものの隙間から綺麗な編成写真が撮れそうな場合があります。そんな時に望遠&超望遠レンズが役に立つのです。こういった場所では多くの人が「ここは撮影できない……」として見向きもしなかったのですが、超望遠レンズで撮影できることが分かって、後に有名撮影地となったという例も多く見かけます。「針の穴を通す」ようなフレーミングで、今までにない作品や撮影地を生み出し、創り出す力があるのが望遠&超望遠レンズなのです。
表現方法としては、遠近感のない高圧縮な表現ができるのも望遠&超望遠レンズ魅力です。編成写真でいえば、広角レンズや標準レンズの様に列車の最後尾が細く小さくなるのとは違い、長編成でも先頭から最後尾まで大きく写すことも可能です。それは望遠&超望遠レンズの特性であり、この遠近感の無い高圧縮な表現のひとつなのです。そしてこの特性を理解して活かすことこそが、ワンランク上の作品を撮ることに繋がるのです。
編成写真以外でも、たとえば鉄道風景写真撮影では手前の木から列車、そして奥の山々まで一つの画面に高圧縮で収め、さらに光にもこだわると、より印象的な作品に仕上がります。基本的に風景を広く入れる鉄道風景写真ではなかなか活かせる場面は少ないように見えるかもしれませんが、目を皿のようにすると意外と見つかるものです。
ほかに、鉄道イメージ写真でも超望遠レンズが「良い仕事」をしてくれます。高圧縮にした上で、場面や被写体を部分的に切り取ることで、今まで見たことの無い世界が表現できたりします。これらは鉄道写真だけでなく、様々な撮影分野で有効な撮影テクニックや考え方のひとつですので、ぜひ覚えてください。
話は進みますが、望遠&超望遠レンズには「ボケを大きく(被写界深度を浅く)することができる」というメリットもあり、これもまた作品作りには大きな恩恵があります。
最近は、編成写真でも先頭部だけにピントを合わせて1両目でも乗務員ドアあたりから大きくぼかし始める「ピン(ピント面)浅」写真が流行っているようですね。望遠&超望遠レンズは高圧縮になる分、ピント面から外れた被写体は大きくボケます。これは高圧縮ならではの現象でもあります。
標準レンズでも、絞りを開放値で編成写真を撮影すれば、先頭部にピントが合っていても、さすがに乗務員ドア辺りからボケてきます。しかし高圧縮でないために乗務員ドアが小さくなり、それほど大きくボケたように見えないのです。望遠&超望遠レンズでピント面から外れた部分が大きくボケて見えるのは、こういう理由もあるのです。
フレーミング内の被写体が全て遠景であれば全てにピントが合って見える撮影もできますが、望遠&超望遠レンズでは積極的にボケを活かした撮影も心掛けましょう。
ただし、何でもかんでも大きくボカせばいいということではありません。過度なボケは画面がうるさくなってしまいます。「適度なボケ」を作るためにも、絞りを絞り込むことが大切です。
また、「ボケを大きく(被写界深度を浅く)することができる」がメリットと書きましたが、逆にデメリットである「パンフォーカスに(被写界深度を深く)することは難しい」ということも覚えておきましょう。特に、高圧縮なフレーミングで撮影できる超望遠レンズは、被写界深度を深くして手前から奥までピントが合ったように見えるパンフォーカス撮影をすることはまずできません。絞りを最小絞りにしてもボケが出てしまうシーンは多いです。よって望遠&超望遠レンズでは「高圧縮でボケを活かした撮影をする!」と心掛けましょう!
レンズの特性を知ることで作品は大きく変わる!
「撮影スタイルに合ったレンズを選ぼう!」と題して、前後編2回にわけて各レンズの特性をお話ししましたが、いかがだったでしょうか。読者の中には「知っていて当然!」と思っている方も多いでしょう。それは経験と勉強に基づく知識と技術ですから、とても素晴らしいことです。
先述した通り、デジタルカメラの性能の向上は著しく、今まで撮影できなかったシーンや被写体が撮影できるようになりました。今後もさらにその範囲は広がりを続け、また新たな鉄道写真の表現ができるようになるかもしれません。まだまだカメラ業界は楽しみですね。
しかし変わらないものもあります。それが今回お話ししたレンズの特性です。もちろん、レンズ自体も描写力が上がったり、より明るいレンズやAF速度が上がったりと進化は止まりません。しかし、広角や標準、望遠の各レンズの表現特性(被写界深度など)が覆るような大きな変化はなかなか起きないと私は考えます。だからこそ、各レンズの特性を理解し、それを理解することが、良い作品を撮る上で重要になります。
比較的高速で走る鉄道車両を被写体とする鉄道写真は、シャッタースピードやISO感度などの設定で対応しなければならない「制約」が出てしまいます。その制約とうまく折り合いをつけながらレンズの特性を撮影に活かしたいものです。そうすることで、作品は大きく変わると言っても過言ではありません!
次回の「助川康史の『鉄道写真なんでもゼミナール』」は、写真から少し離れて「鉄道動画」についてお話ししたいと思います。
最近のミラーレス一眼は、プロ機もびっくりするような動画収録機能がついています。それを使った助川流動画撮影術や考え方をお話したいと思います。もちろん、鉄道動画撮影専門の方もいらっしゃいますし、編集スキルや知識がそれほどあるわけではありません。鉄道写真家が録る鉄道動画として楽しんでいただければと思います。どうぞご期待ください!!