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都内の鉄道遺産を訪ねて~晴海橋りょう、浜離宮前踏切、松住町架道橋など

2018年8月14日(火) 鉄道コムスタッフ

鉄道を支える、または支えてきたさまざまな建築物、施設、設備。これらのうち、一定の年月を経たものは鉄道遺産とも呼ばれ、その歴史や功績を今に伝えています。

今回は、鉄道遺産とされるものの中から、東京都千代田区と中央区にあるスポット(計4か所)をご紹介します。*1.2.は8月5日、3.4.は8月3日に撮影

1.晴海橋りょう(東京都港湾局専用線)

東京都道304号線の本線区間上にある春海橋。隅田川の河口部、春海運河に架かる橋で、中央区と江東区の境界をまたいでいます。その春海橋の南側に並行して架かっているのが、かつての貨物線の橋りょう「晴海橋りょう」です。

貨物線は、東京都港湾局の専用線にあたり、亀戸~越中島~豊洲石炭埠頭間を結ぶ「深川線」と、豊洲三丁目付近で分岐し、晴海埠頭までを結ぶ「晴海線」などがありました。晴海橋りょうは、その晴海線の鉄道橋で、1957年11月に完成。国鉄が設計と施工を行い、完成後に東京都に引き渡されたという経緯があります。

ディーゼル機関車がけん引する貨物列車が行き来していましたが、1980年代半ばから専用線の廃止が一部で始まり、最後まで残った晴海線も1989年2月に廃止となりました。以降、春海鉄道橋を列車が通ることはなくなりましたが、橋りょう部分は遺構として存続。今なお、その姿をとどめています。

春海橋の江東区側から撮った晴海橋りょう。鋼製のアーチ橋部分の長さは約59メートルあります。橋の奥(写真右側)は中央区晴海二丁目地区。かつての晴海線の用地にあたります。
春海橋の江東区側から撮った晴海橋りょう。鋼製のアーチ橋部分の長さは約59メートルあります。橋の奥(写真右側)は中央区晴海二丁目地区。かつての晴海線の用地にあたります。
橋りょうは、ローゼ(Lohse)橋と呼ばれるタイプに分類されます。このタイプの橋りょうでは、日本初の建造。カーブ部(アーチリブ)と水平部(橋桁)が、ともに厚みを持っていることが特徴です。
橋りょうは、ローゼ(Lohse)橋と呼ばれるタイプに分類されます。このタイプの橋りょうでは、日本初の建造。カーブ部(アーチリブ)と水平部(橋桁)が、ともに厚みを持っていることが特徴です。
運河に面する春海橋公園側から撮った橋りょう。アーチ橋の前後には、プレストレスト・コンクリート(PC)橋が用いられました。PCの構造物は今日では広く普及していますが、建造当時は新しい技術でした。
運河に面する春海橋公園側から撮った橋りょう。アーチ橋の前後には、プレストレスト・コンクリート(PC)橋が用いられました。PCの構造物は今日では広く普及していますが、建造当時は新しい技術でした。
都内では数少ない廃線の橋りょう。線路も撤去されずに残っています。
都内では数少ない廃線の橋りょう。線路も撤去されずに残っています。

2.浜離宮前踏切(汐留~東京市場間廃線跡)

再開発により、高層建築が並ぶ汐留エリア。かつて国鉄の貨物駅である汐留駅があった一帯です。その旧汐留駅の貨物ホームの脇から、東京市(当時)の中央卸売市場内に設けられた東京市場駅までを結ぶ引き込み線がありました。敷設されたのは、関東大震災の後。中央卸売市場が築地に開場したのを受けて敷かれ、卸売市場の輸送を支えました。最盛期には1日に150両の貨物車両が通過したといいます。

引き込み線は単線で、全長は1.1キロ。1986年の旧汐留駅廃止の後に撤去され、線路用地は主に区道として残っています。鉄道設備の名残としては、都道316号線(海岸通り)に設けられた踏切「浜離宮前踏切」の警報機があり、現地では、「銀座に残された唯一の鉄道踏切信号機」と掲示されています。

銀座郵便局付近にある浜離宮前踏切の一部。右の道路が廃線跡で、奥に進むと築地市場に出ます。
銀座郵便局付近にある浜離宮前踏切の一部。右の道路が廃線跡で、奥に進むと築地市場に出ます。
警報機の台座部分には、解説が掲示されています。左は踏切の説明で、右は「保存理由」と題する解説文です。「都民の暮しの台所を支えて来たこの信号機を、国鉄廃止に当り捨て去られるのにしのびず」(原文)といった一文が記されています。
警報機の台座部分には、解説が掲示されています。左は踏切の説明で、右は「保存理由」と題する解説文です。「都民の暮しの台所を支えて来たこの信号機を、国鉄廃止に当り捨て去られるのにしのびず」(原文)といった一文が記されています。
廃線跡の道路からの汐留側の眺め。高速道路の下が海岸通りで、左方向に浜離宮があります。
廃線跡の道路からの汐留側の眺め。高速道路の下が海岸通りで、左方向に浜離宮があります。
区道として整備された引き込み線の跡地。この付近はかつて築地川が流れ、貨物列車は橋を渡って行き来していたといいます。川は高速道路となり、橋は区道の工事の際に架け替えられました。築地市場は、写真中央の浜離宮朝日ホールなどの建物の先にあります。
区道として整備された引き込み線の跡地。この付近はかつて築地川が流れ、貨物列車は橋を渡って行き来していたといいます。川は高速道路となり、橋は区道の工事の際に架け替えられました。築地市場は、写真中央の浜離宮朝日ホールなどの建物の先にあります。

3.松住町架道橋

松住町架道橋は、JR総武線の御茶ノ水~秋葉原間に位置し、外堀通りと国道17号線が入り組む地点に架かる鉄道橋です。関東大震災の後、総武線を西に延ばし、同線の起点を両国駅から御茶ノ水駅にする際に架けられました。

道路をまたぐ必要があったことと、当時の交差点は、東京市電が通っていたこともあり、橋脚を設ける工法がとれませんでした。そのため、橋脚を使わないアーチ橋が採用され、アーチ両端の支点部に力がかからないように、つなぎ材で支持する「タイドアーチ橋」が使われました。鉄道橋としては、日本で最初のタイドアーチ橋で、1932年に竣工。輸入ではなく、国産の橋りょうで、震災復興にあたり、最新の技術が積極的に投じられた建造物の一つといわれています。

国道と都道が交わる昌平橋交差点の上に架かる松住町架道橋と、橋を通過中の総武線の列車。この位置での橋りょう後方付近の町名が松住町だったころから、名称に使われました。
国道と都道が交わる昌平橋交差点の上に架かる松住町架道橋と、橋を通過中の総武線の列車。この位置での橋りょう後方付近の町名が松住町だったころから、名称に使われました。
旧松住町側から見た架道橋。下の水平に延びる部材によりアーチ全体の荷重を支え、右下の支点部への負担を軽減しています。アーチには、「ブレーストリブアーチ」と呼ばれる三角形のトラス構造が使われています。
旧松住町側から見た架道橋。下の水平に延びる部材によりアーチ全体の荷重を支え、右下の支点部への負担を軽減しています。アーチには、「ブレーストリブアーチ」と呼ばれる三角形のトラス構造が使われています。
神田川に架かる昌平橋から見た松住町架道橋。全長は約72メートルです。写真右方向に、秋葉原駅があります。
神田川に架かる昌平橋から見た松住町架道橋。全長は約72メートルです。写真右方向に、秋葉原駅があります。
松住町架道橋付近には、万世橋高架橋があり、高架上を中央線快速列車などが走っています。この万世橋高架橋も都内の鉄道遺産の一つ。松住町架道橋の20年前、1912年に完成しました。
松住町架道橋付近には、万世橋高架橋があり、高架上を中央線快速列車などが走っています。この万世橋高架橋も都内の鉄道遺産の一つ。松住町架道橋の20年前、1912年に完成しました。

4.小石川橋通り架道橋

小石川橋通り架道橋は、JR中央線・総武線の飯田橋~水道橋間に架かる橋りょうです。日本橋川などをまたぐ鉄道橋で、川に架かる2本の道路橋(三崎橋と新三崎橋)と並行しています。

製造年は1904年。ドイツのメーカーHARKORT社で製作され、同年末、甲武鉄道(当時)の飯田町~御茶ノ水間の開通にあわせて架設されました。総武線の列車が走る北側の橋りょうが、当時からのものです。中央線快速列車などが走る南側の橋りょうは、1933年、飯田町~御茶ノ水間の急行線開業時のものになります。

小石川橋通り架道橋と、水道橋駅に向かう総武線の列車。総武線側2本の橋桁が1904年に架けられたものです。川に架かる部分は、三角形構造が特徴のトラス橋(分類上は「ワーレントラス橋」)が採用されました。
小石川橋通り架道橋と、水道橋駅に向かう総武線の列車。総武線側2本の橋桁が1904年に架けられたものです。川に架かる部分は、三角形構造が特徴のトラス橋(分類上は「ワーレントラス橋」)が採用されました。
架道橋は、日本橋川をまたぐ必要から架設されました。付近で神田川と分岐する日本橋川は、江戸時代初期に埋め立てられましたが、1903年に開削、復元されたものです。橋りょうの竣工はその翌年、1904年です。
架道橋は、日本橋川をまたぐ必要から架設されました。付近で神田川と分岐する日本橋川は、江戸時代初期に埋め立てられましたが、1903年に開削、復元されたものです。橋りょうの竣工はその翌年、1904年です。
架道橋北側には、三崎橋が架かっています。飯田橋駅は写真右奥方向です。
架道橋北側には、三崎橋が架かっています。飯田橋駅は写真右奥方向です。
主桁の部分には、製造会社(HARKORT)と製造年(1904年)を記した銘板があります。HARKORT社がドイツのデュースブルクの会社であることもわかります。
主桁の部分には、製造会社(HARKORT)と製造年(1904年)を記した銘板があります。HARKORT社がドイツのデュースブルクの会社であることもわかります。

鉄道遺産は、都内だけでもこのほかにいくつもあり、全国に目を向ければ、国の登録有形文化財、重要文化財をはじめ、土木学会選奨土木遺産、近代化産業遺産など、遺産として指定されたものも数多くあります。現地を訪ね、その歴史をたどってみるのもいいでしょう。

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