9月28日に発売された、ニコンの新型カメラ「ニコン Z 7」。同社では初となるフルサイズセンサ搭載ミラーレスカメラで、光学性能を追求すべく新システムを採用したことが特徴です。
Z7の発売に先立って開催された「ニコンファンミーティング2018」東京会場では、このZ7で撮影した鉄道写真を、写真家の助川康史さんがステージなどで解説。小型となったことで従来の一眼レフより機動性が増したZ7の魅力を、熱く紹介していました。鉄道コムは、助川さんにインタビューを実施。鉄道写真撮影の秘訣や、Z7の魅力などを聞きました。
――鉄道写真を撮る上で、大事なことは何でしょうか。
私は「ニコンカレッジ」で講師もしているのですが、ここでよく言うのは「説明書を読んで、自分のカメラが何をできるのか覚えること」です。一番やりがちなのは、ハイアマチュアが今まで自分がやってきたやり方をそのままやってしまうパターンです。まずは自分の持っているカメラの性能を知ることが大切ですね。そして、その性能の限界が見えたときに、新しいカメラを買ってください。そうすると、今まで撮れなかったものが撮れて、自分の腕が上がったように感じます。そうすると、写真を撮るのが楽しくなって、新しいレンズが欲しくなる……となります。上手くなると楽しくなる、より上を目指す、趣味ってそういうものなんです。
――上手くなるきっかけというのはどのようなことなのでしょうか。
「あの1枚が自分の構図を変えた」という瞬間があると思います。私は、中学生の頃に「あけぼの」を撮りに行った時にその瞬間が来ました。初めて200ミリの単焦点レンズを買って撮った時だったのですが、今までとは違う、とても綺麗な写真が撮れたんです。それまでなんとなく上手く撮れなかったのですが「こう撮ればいいんだな」というのがその瞬間に理解でき、劇的に編成写真が変わったんです。そういう瞬間が訪れたのは、やはり200ミリのレンズを買ったからなんです。機材を買うこともやはり重要なんだと思いました。どの分野でも言われることなのですが、新しい機材を買うと腕が上がるんですよね。
――性能に助けられるということですか。
高性能のカメラで写真を撮ると、それだけで上手くなった気持ちになります。それでいいのです。カメラのおかげでもありますが、自分が上手くなった気になると、こういうのが撮れる、ああいうのが撮れるって色々とチャレンジする気持ちが湧いてきます。カメラの能力が上がったから撮れた写真でも、綺麗に撮れたことで自分の腕が上がったと錯覚するんです。「自分上手いじゃん」と。趣味では、それが重要なんです。苦しむのは仕事の撮影だけで十分ですから(笑)。趣味で写真を撮る人には、楽しむことを追求してほしいですね。
――さきほどのステージでは、編成写真が基本中の基本だとおっしゃっていました。
そうですね。鉄道写真は編成写真に始まり編成写真に終わる、というのは、私がよく言う言葉です。たとえば先ほど紹介したE3系つばさの編成写真ですが、完全なバランスを取るために構図にかなりこだわっています。E3系は流線型なのであの構図がいいのですが、例えば同じ区間を走る701系や719系では、同じ構図で撮ると写真の中の重心が上がってしまいます。なので、701系が来たときにはカメラを少し上げて、綺麗に見えるように構図を直すんです。そういったスキルが必要な環境の中で、いかにいい現場を見つけるか、その列車を生かす構図にするか、といったことも、あわせて重要になります。
私の場合は、編成と列車の形によってレンズの焦点距離を使い分けています。通勤電車では10両なら70-200ミリのレンズ、特に135ミリ~200ミリを使います。新幹線では標準レンズで鼻の流線型を生かします。さらにふかん気味の構図にすると、鼻がすらっと長く見えます。特にE5系のようなノーズが長い車両になると、望遠レンズで圧縮してしまったら、寸詰まりになってしまって饅頭に見えてしまったりと、カッコよさが見えないと思います。また、E6系ではアヒルのように見えてしまいます。かわいさを追求するのならばいいと思いますが、カッコよさが見えないんです。狙う被写体にあわせて、レンズを変えるんです。
――奥が深いです。
だからこそ、その中で確実に1枚を物にしないといけません。となると、やはり信頼できる機材が必要です。列車が来たときに急にピントが外れたり、シャッターが切れなかったり、というトラブルは困ります。また、特に新幹線を撮る場合には、シャッターのタイムラグの短さが重要です。鉄道写真というジャンルは、それだけ要求がシビアな世界なんです。撮る人がアマチュアでも、カメラに対する要求はかなり大きい。それに応えられる信頼できる機材を持つか持たないかで、鉄道写真が楽しめるかどうかは大きく変わります。いい写真が撮れたら嬉しいですもんね。
――そこで助川さんがお勧めしていたのが、今回発表されたZ7ですね。このZ7ですが、どのような感想をお持ちですか?
一言で言うと、ハイエンド向けフルサイズセンサ搭載カメラである「D850」のミニ版です。私はD850が好きなのですが、Z7は、D850の性能を軽くて小さなボディで実現していて、そして全く同じ環境で撮れるという驚きがあります。軽くなったことで機動力が上がるんです。私は今まで必ず三脚を使っていたのですが、Z7ではつい手持ちで撮ろうとしてしまいます。それだけ気軽に撮れる、どこにでも持って行ける、より行動力を上げるカメラだと思います。山の上から撮影する際も、今までは「この機材を担いでこの山に登るの?」と尻込みしていた場所に、軽くなった装備を担いで行こうかなと思えます。より行動力が上がったことで、今まで見たことのない世界が撮れる機材です。
――いま一眼レフカメラを持っているユーザー目線では、ミラーレスの世界に足を踏み入れるのに躊躇してしまう部分もあるかもしれません。
一眼レフには、高いバッファや高速連写という、ミラーレスカメラには無いメリットがあって、これは鉄道でもありがたい性能です。逆に、山に登って鉄道写真を撮るといったような、重さがネックになる場合にはミラーレスカメラが大活躍します。ハードな環境やスナップではなるべく軽いミラーレスカメラで、本気で狙うときは一眼レフで、といった両刀使いでもいいでしょうね。ミラーレスカメラが出たことによって、ニコンならではの高クオリティな写真を撮る際にも、状況に応じて機材を選べる時代になりました。
いま、カメラ市場ではミラーレスカメラが主流になっています。しかしニコンは先日、初心者向けの一眼レフ「D3500」を発表しました。これは、「一眼レフもやります、ミラーレスカメラにも力を入れていきます」ということだと思います。消費者に選択権が与えられているんです。なので、それを存分に活用し、自分の中で吟味してください。機材を選ぶって楽しさがありますよね。Zマウントシステムは今後の展開が楽しみなシステムなので、これからカメラの購入を考えている方は、Zマウントで揃えることも検討してほしいです。そして、写真のいいことは、買った後にも楽しいことが待っています。選んで楽しむ、撮って楽しむ。なので、鉄道ファンの皆さんには、旅行や模型だけでなく、ぜひカメラにもお金を掛けてほしいです(笑)。
――ありがとうございました。
全7会場での開催となるニコンファンミーティング2018。今後は、10月28日(日)の広島会場、11月4日(日)の福岡会場、11月10日(土)の仙台会場での開催が予定されています。Z7を始めとするニコン製品の体験コーナーが設けられるほか、助川さんらプロ写真家の方々によるZ7の解説ステージも実施されます。ニコンファンの方は、ぜひ出向いてみてはいかがでしょうか。
アンケート
このリポート記事はいかがでしたか?
よろしければ、5段階にて、あなたの評価をお聞かせください。