ホビーの一種である鉄道模型において、あえて実際の鉄道と同様に、ダイヤに沿った運転に挑戦している団体があります。その名も「RFC(Railway Fan Club)」。趣味の集まりである任意団体でありながら、鉄道事業者のイベントなどにも出展するなど、精力的な活動を続けているグループです。
11月には、東京都新宿区のホビーセンターカトーにおいて、「RFCダイヤ運転フェスタ2018」が開催されました。多くの模型車両を用いて実際の鉄道を再現するRFC。そのイベントの模様を追いました。
RFCが掲げるダイヤ運転、一体どのようなものなのでしょうか。
ダイヤ運転の実演では、実際の時刻を基にした模型時刻を設定しています。たとえば、現実の現在時刻が12時03分30秒の場合、模型時刻では3時30分と、実際の時間の分を時に、秒を分とします。これにより、24分で模型時間での24時間を再現することができるのです。
そして、ダイヤ運転で必要となるのが時刻表。RFCでは、模型時刻スケールにデフォルメしたダイヤグラムを作成し、これをもとに列車を運転しています。もちろん、ただ運転時刻を策定するのみならず、列車や乗務員の運用・行路もあわせて決定しており、実際の鉄道と同様に、車両や乗務員はこの行路に従って運転しています。
ところで、鉄道模型を運転した経験のある方はご存じでしょうが、日本で主流となっているタイプの鉄道模型では、同じレールの上で多数の車両を別々に制御することは基本的にはできません。実物の電車では各編成に制御機器が搭載されているため個別制御が可能ですが、鉄道模型の場合はコントローラーから供給される電気がレールを経由して車両のモーターにそのまま流れるため、1つのレールに複数の編成を載せた場合、全ての車両がコントローラーの操作に従って動いてしまうことになります。
それでは、RFCはどのようにしてダイヤ運転を実現しているのでしょうか。その秘密は「DCC(Digital Command Control)」というシステム。レールにはデジタル信号を流し、車両にはこのデジタル信号を読み取る「デコーダ」という部品を搭載します。これにより、同じ線路を走る複数の車両を個別に制御でき、各駅停車が特急列車に追い越される緩急接続などのシーンが実現可能となるのです。
車両面では、デコーダを搭載する以外にも、車両の安定走行のために足回りを他社製のものに交換する改造も実施するそう。また、模型メーカーによって製品化されていない車両でも、実演する路線にあわせて改造などで製作することもあるといい、魅せることにかけるRFCのこだわりが伝わります。
そのこだわりは設備面でも。ポイントを制御するコントローラーは、一部は市販品ではない自作のもの。また、今回の展示では使用されませんでしたが、JR線などの信号機が設置されている路線では、本物同様に線路横に信号を建立し、この現示を確認して運転しているということです。
RFCでは、実際の鉄道事業者のような組織体制のもとに活動しているのが特徴です。組織は実際の運転業務に関わる「鉄道事業本部」と、運転システムなどを管轄する「総合技術本部」、イベントや広報などに関わる「経営統括本部」の3つにわかれ、さらにそれぞれの傘下に「運輸」や「指令」などのセクションが設けられています。この各部署が、運転実演の準備段階では企画やダイヤ・乗務員の行路作成、車両の作製・メンテナンスなどを、そして実演時には運転や指令、保守をそれぞれ担当するということです。
2018年のダイヤ運転フェスタでは、東急田園都市線がテーマに掲げられました。朝ラッシュ時には約2分間隔で列車が走り、大井町線や東京メトロ半蔵門線などとの直通運転も行われるこの路線を、全長約30メートルほどのジオラマで再現。45本の車両を使用する、RFCダイヤ運転フェスタ最大規模だという展示となりました。
ジオラマは、半蔵門線の押上駅付近から田園都市線の中央林間駅までと、大井町線の全線をカバー。メインはダイヤ運転のため、沿線を細かく再現したジオラマではありませんが、2層構造となっている桜新町駅や、二子玉川駅前後の情景、長津田駅で接続する横浜線や長津田~中央林間間の掘割など、要所要所で実際の路線をイメージさせる作りとなっていました。もちろん、ダイヤ運転に不可欠な線路配線は、駅の省略こそあるものの、ほぼ実物通り再現しています。
展示は、始発列車から最終列車までの1日を再現。ダイヤ運転の解説の後に始発列車が出発し、朝ラッシュを迎えると線路は大混雑状態へ。日中になり本数は減るものの、夕ラッシュを迎えると再び列車が増え始め、そして終電、という流れとなっています。
同じような展示の繰り返しと思いきや、実は各回ごとに内容が変化していることに気がつきます。今回の展示では、2017年と2018年の早朝に運転された臨時列車「時差Bizライナー」を再現。メンバーが乗車案内の看板を持ってアピールするなど、臨場感のある仕掛けが見られました。また、2018年12月から運転を開始する「Q SEAT」を連結した大井町線6020系が、回が進むごとに試運転、営業開始の流れで登場するなど、連続して見学する楽しみも。ダイヤ運転と同様、ただ走らせるだけではないRFCの意気込みが伝わります。
これだけ広いジオラマでは、運転するのも一苦労に見えます。しかし心配ご無用。RFCでは、無線式コントローラーを使用しているため、列車の進行に合わせて、運転士も歩いてついていくことができるのです。通常のコントローラーでは移動することができないため、遠くを走る車両が運転する場所からよく見えないということもあります。一方、RFCが使用する無線式コントローラーでは、車両ごとに設定したIDをコントローラーに打ち込むことで、無線の範囲内であればどこでも運転が可能。複数編成を同時に走らせることとあわせ、DCCの機能をフルに活用しているのです。
今回、実際に運転を体験させてもらうことができました。担当するのは、東急5000系による各駅停車の中央林間行き。押上駅を6時50分に出発し、中央林間駅には11:50分に到着するダイヤです。現実ではありえない5時間の所要時間ですが、これはデフォルメした模型時間ならではでしょうか。
6時50分に押上駅を定刻通り出発した列車は、渋谷、桜新町、二子玉川と設置された駅に全て停車しつつ進んでいきます。無線式のコントローラーにより近くで運転することができるので、操作に慣れてしまえば通常の模型より運転は簡単。あっという間に通過待ちを行う江田駅に到着しました。
と、ここでトラブルが発生。担当列車を抜かすはずの急行列車が、渋谷駅での非常ボタン動作により遅れているのです。ここで指令から「待避場所を変更せず、そのまま待機」との指示が。このように列車遅延が発生した際には、指令などのセクションが指示を出すことで、遅延を減らすのです。
担当する列車は遅れながらも江田駅を出発し、隣の長津田駅へ到着しました。現実では長津田検車区が設けられている長津田駅。今回のダイヤ運転フェスタでも、メインの車両基地として再現されており、展示のかたわら車両入れ替えや整備でひっきりなしに動いていました。
45本の車両を使用したという今回の展示。これらの模型車両はすべて会員の私物だということです。さらに、2018年現在は模型製品化されていない新7000系や6020系なども、会員が自作したとのこと。路線再現のためなら車両すら作るRFCの匠の技が光ります。一方で、車両の保守も苦労は多いとのこと。先述した通り、走行安定性確保のために足回りを交換するなどの対策を図っているということですが、実時間における一日あたりの走行距離は通常以上のため、車両にかかる負担は大きいといい、その苦労が垣間見えます。
さて、長津田駅を出発した5000系は、南町田駅に停車し、終点の中央林間駅へ無事に到着しました。中央林間駅に到着した列車は、そのまま渋谷方面へと折り返し。本来の運転士であるRFC会員へとコントローラーを引き継ぎ、ポイントが切り替わると慌ただしく出発していきました。
都内にある高等専門学校のクラブ活動が元となり、1997年に発足したRFC。当初は学生メンバーが中心でしたが、現在では学生から社会人まで幅広い年齢層がおり、RFCでの活動を通して、実際の鉄道会社に就職した人もいるということです。かつては東京ビッグサイトにて開催される「国際鉄道模型コンベンション」にて展示を実演していましたが、東京急行電鉄から声を掛けられたことにより、長津田検車区でのイベント「東急電車まつり」でも展示することになりました。これがきっかけで、京浜急行電鉄や北越急行、富士急行など、実際の鉄道会社からも広くオファーを得ることになったとのこと。これらのイベント展示のほか、一般展示もホビーセンターカトーに場所を移し、現在も年に1度のペースで実演しているということです。
「実演では、やはり苦労することも多い」と語ったのは、RFC会長の森下直樹さん。模型にありがちな脱線などの現象のほか、手作りのシステムや高い負荷ゆえのトラブルなど、課題は多いといいます。しかしながら、鉄道好きが集まるRFC、「好きだから続けられる」と、困難を物としないスペシャリストの目で話してくれました。
年1回のダイヤ運転フェスタを始め、関東を中心に各地で展示を実演するRFC。ファンながらプロが集まる団体の今後に注目です。
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