JR京浜東北線と東急多摩川線・池上線の3路線が乗り入れる蒲田駅と、京急本線と京急空港線が分岐する京急蒲田駅。この2つの蒲田駅は、直線距離で約700メートル、徒歩移動では10分ほど離れた位置にあります。両者の接続を改善すべく、地元自治体の東京都大田区が計画しているのが、通称「蒲蒲線」です。
蒲蒲線は、東急多摩川線の矢口渡駅から、蒲田駅、京急蒲田駅を経由し、京急空港線の大鳥居駅までを結ぶ構想の路線です。
大田区は、まず第1期として矢口渡~京急蒲田間を建設し、2つの離れた蒲田駅を連絡。第2期として残りの京急蒲田~大鳥居間を整備するという、2段構えの構想を示しています。第1期の区間については、整備主体は新たに設立する第三セクターが担い、運行は東急が担当する予定です。第2期区間の開業後は、東急多摩川線と京急空港線の相互直通運転も考えられています。
蒲蒲線予想ルート 国土交通省「東京圏における今後の都市鉄道のあり方について」などを基に作図
大田区では、蒲蒲線の開業により、区内の移動利便性の向上やまちづくりの推進のみならず、東急線を介した池袋・新宿~羽田空港間のアクセス向上、ひいては国際都市東京の鉄道ネットワーク強化につながるとし、国や東京都、関係各社に積極的に働きかけています。特に空港アクセスについては、大田区は蒲蒲線を「新空港線」とも呼称するなど、新たな空港アクセス路線としての地位確立を期待していることがうかがえます。
一方で、蒲蒲線の全線開業については問題点も挙げられます。
まず挙げられるのが、相互直通運転時の軌間の問題です。東急線は1067ミリ、京急線は1435ミリとレール幅が異なり、ただ路線を接続するだけでは物理的にも直通運転は不可能です。大田区はこの点に対して、フリーゲージトレインを導入すると2015年に説明しています。しかしながら、日本では鉄道総合技術研究所が「新在直通」タイプのフリーゲージトレインを開発していますが、2019年2月現在で実現の目処は立っていない段階。在来線同士では、2018年に近鉄がフリーゲージトレインの開発に着手しているものの、こちらも実現時期は示されていません。よって、フリーゲージトレインを今すぐ導入し、東急線と京急線で直通運転を実施する、ということが実現できる段階ではありません。
収益面での課題も浮かびます。羽田空港のアクセス路線としては、JR東日本がりんかい線や貨物線を経由して運行する「羽田空港アクセス線」を計画しています。羽田空港アクセス線は、東京・上野方面や舞浜・蘇我方面のほか、新宿・池袋方面から列車を運行する構想。一方の蒲蒲線は、東急多摩川線から先、東横線や副都心線方面への直通運転も構想として挙げられています。2015年に発表された東京都の資料においては、羽田空港アクセス線を建設し、さらに蒲蒲線を整備した場合、両線が競合してしまうため、双方の収支確保に課題があるとしています。
2016年に国の交通政策審議会が発表した「『東京圏における今後の都市鉄道のあり方について』の答申(案)」において、「事業化に向けて関係地方公共団体・鉄道事業者等において、費用負担のあり方等について合意形成を進めるべき」とされた蒲蒲線。今後、技術面や収支面での課題を解決し、路線建設を実現することができるのかが注目されます。
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