鉄道コムは9月22日、「鉄道写真 撮影上達セミナー ~懐かしの鉄道写真コンテスト講評会~」を開催しました。「懐かしの鉄道写真コンテスト」にご応募いただいた写真を講評するとともに、審査員の2人が写真撮影術を紹介する内容で、当日は多くの方にご参加いただきました。
みなさまにご応募いただいた作品を講評した第1部「懐かしの鉄道写真コンテスト講評会」に続き、第2部は、鉄道写真家の山下大祐さんによる鉄道写真撮影術のコーナー「オレならこう撮る。鉄道写真」です。ソニーの「α」シリーズでドラマチックな写真を撮影する山下さん。プロカメラマンの視点から、撮影術を参加者に紹介しました。
オレならこう撮る。鉄道写真
鉄道写真を撮るにあたっては、どのような狙いを持てば良いのでしょうか。山下さんは「写真は記録的な役割が非常に大きいですが、一方で表現としての側面もあります」と説明し、「記録の写真」と「創造の写真」の2つの目的別に撮影してほしいとアドバイスしました。
まずは記録写真の解説です。山下さんは、「背景」「見せたい情報」「LED表示」に注意してほしいと説明しました。
羽越本線の特急「いなほ」の写真です。このような編成写真を撮影する際には、線路をオーバークロスする陸橋や、背景の高い建物など、車両の奥に目立つ物が見えないような場所を選ぶことが重要だといいます。
このように、アウトカーブから正面を撮る場合も同様です。「同じいなほ号の写真ですが、顔に電柱が見えないように場所を選んでいます」(山下さん)。肩から柱が見えてはいますが、柱が顔の横に見えるよりは、このように隠した方が、背景がすっきり見えると説明しました。
こちらの500系の写真は、電柱は顔と重なっていますが、上手く処理されています。もちろん鼻先は画面内に収まっています。列車の色や形をしっかり写し止める必要がある記録的な編成写真の場合、こういった処理が写真の見え方を変えてくるといいます。
記録的な写真の場合、車両そのものを撮るだけでなく、車両のデザインも対象とすることがあります。山下さんが「オレなら見せたい情報を明確に見せる」として紹介したのは、中央線130周年記念ラッピング編成を写したこの写真。この場合、大切なのは車両の前面ではなく、ラッピングされた側面です。山下さんは、できるだけ側面が多く写るようにワイドなレンズで撮影しました。「望遠レンズで撮影すれば綺麗に正面が写りますが、側面の色は上手く見えなくなります」と、記録写真ならではの気遣いを解説しました。
続いては、車両のLED表示についての解説です。近年の車両が表示器に採用しているLEDは、目には見えない速さで点滅する仕組みのため、高速シャッターで撮影すると表示が途切れ途切れになってしまいます。特に、この写真のように広角レンズを使用すると、ブレない写真を撮る場合には高速シャッターを使う必要があり、LEDの表示内容が読み取れなくなってしまいます。
山下さんは、この失敗を可能な限り減らすには、カーブの区間で列車が真正面を向いたシーンを狙えば良いと解説しました。カーブでは見かけ上の速度が遅くなるので、シャッタースピードを落としてもブレずに撮影できます。
ところで、ここまで紹介した写真に共通点があることにお気づきでしょうか。そう、すべて晴天下で撮影された写真なのです。山下さんは「オレなら晴れで撮る」と、天候の重要性にも触れました。
さきほどの中央線ラッピングも、このように撮影時に曇ってしまったことがあったのだそう。先ほどの写真と比較して、背景や日差しの有無で雰囲気が変化していることがおわかりでしょうか。
山下さんは、「天気が悪い日には撮らない」と冗談を挟みつつ、「太陽のエッセンスは何者にも代えがたい」と、写りを左右する重要な要素だと説明しました。
続いて、山下さんは記録要素のある風景写真について解説しました。
大糸線を走る特急あずさの写真です。「非常に有名な撮影ポイントですが、5月に菜の花が咲いているのを見つけて、これとアルプスの山を入れた写真を撮ろうと思いました」(山下さん)。ここで重要なのは、やはり「晴れ」、そして一番良い時期を選ぶことだと説きました。たとえば桜はすぐに状態が変化し、あっという間に散ってしまいます。山下さんは、「写真づくりにこだわるならば、時期を選ぶことは重要」だとアドバイスしました。
東北新幹線を走る新幹線試験車両「ALFA-X」。背景の栗駒山とマッチした雄大な写真ですが、山下さんから見ると「列車が大きすぎて季節の写真とは言いづらい」といい、季節を記録した写真としては不合格なよう。そこで……。
先ほどの撮影地で季節感を出すためには、このように、さらに引いた位置で望遠レンズを使い、背景の山を大きく見せる一方で、列車を小さく見せた方が良いと説明しました。もう一つ重要なのは、新幹線の右端の車両を画面の端で切らないことだといいます。木の端から飛び出させることで、車両が後ろにも続いているように見せているのだそうです。
続いては、創造の写真の解説です。山下さんは、「アーティスティックな写真を撮るならば、車両のクローズアップが良いでしょう」と説明しました。
真正面をとらえた特急「あずさ」の写真です。「冬のシーンなので、雪煙を上げているドラマチックな瞬間を撮影しました」(山下さん)。ただ顔を真正面から取るのではなく、列車の屋根を見せることで、長編成の列車がなめるように続く様子を表現したといいます。
このような創造の写真は、色や形を伝えることが最優先ではないので、天候や時間に左右されず、自由に撮影できます。山下さんは、このように車両をクローズアップすれば、かっこいい表現ができると説明。「コンテストでは記録のかっこいい編成写真でも賞を取ることはありますが、このようなアーティスティックな写真の方が入賞しやすい」と、コンテストの応募者に向けたメッセージを送りました。
さらにアート感を出す方法として、山下さんは逆光での撮影を紹介しました。
西武線の入間川橋りょうで撮影したというこちらの写真。列車の窓の向こうに太陽が差し込むようなタイミングを狙ったということで、川面からはねる水しぶきも、芸術的な印象を作り上げるのに一役買っています。
また、山下さんはストロボを使用したチャレンジ的な写真も紹介しました。夜間にストロボを用い、桜を浮かび上がらせたといいます。「普通では試さないのですが、なかなか面白い方法かなと思います」と、発想次第でさまざまな芸術的写真が撮れることを紹介しました。
露出アンダーな写真ですが、流線型の先頭部が浮かび上がり、印象的な写真です。適正露出で撮ればトンネルのポータルや地面が見えてしまうところを、あえてアンダーな設定とし、背景を黒くしたといいます。
こちらの写真は、車両の下部が切れています。もちろん失敗写真ではなく、あえてカメラを上に向けたとのこと。「地面を入れると標識が入ってしまうので、トラスの連なりや背景の緑を映し出しました」(山下さん)。
山下さんは、コンテストに写真を応募する際には、このような柔軟な発想が必要だと強調しました。場所やレンズの選択ももちろんですが、どこまで入れてどこまで捨てるか、という割り切りも重要です。山下さんは「『車両の写真は下まで入っていないといけない』というような既成概念に捕われることなく、思い思いに撮影してみてください」と、参加者にアドバイスしました。