著名人が実は鉄道ファンだった、という話はよく聞かれます。タレントのタモリさんや、将棋で「八冠」を達成した藤井聡太さんなどが有名ですね。
近年の人物だけでなく、古い時代にも、鉄道好きの著名人がいました。そんな一人が、作曲家のアントニン・ドヴォルザークです。
1841年に当時のオーストリア帝国で生まれた彼は、1890年代はアメリカで活動していました。そこで作曲されたのが、交響曲第9番「新世界から」。クラシック音楽に興味が無い方でも、第4楽章の出だしのメロディーは聞いたことがあるはず。また、第2楽章のメロディーも、日本では「遠き山に 日は落ちて」から始まる歌詞がつけられて、こちらも有名です。
新大陸であり新世界であるアメリカで作曲されたこの曲ですが、実は様々な場面で鉄道が描写されているのだとか。特に第4楽章の最初の部分は、蒸気機関車が駅をゆっくりと発車し、加速していく場面を再現している、と説明されることがあります。また、同じ第4楽章には、この曲でたった1回だけシンバルが鳴らされる箇所があるのですが、これについては「列車がブレーキを掛けた時の音を表現しているのでは」と、近年新たな考察が発表されています。
鉄道ファンであったドヴォルザークは、曲づくりだけでなく、私生活でも鉄道好きを発揮していました。西洋では、駅などで見た車両の番号をひたすらメモするという鉄道趣味があり、ドヴォルザークもこれを実践していました。ある時、彼が多忙のために駅へ行くことができないため、弟子で娘の婚約者に代わりにメモを取りに行かせます。しかし、鉄道に興味の無かった婚約者は、誤った番号を記載してしまい、ドヴォルザークに激怒されることに。「こんなに能力の無い奴に娘は渡せん!」となったのだとか。筆者も、怒るかどうかは別として、気持ちは理解できなくはないですが、いつの時代も鉄道ファン(というよりオタクでしょうか)は変わりませんね。ちなみに、当の婚約者は、その後無事に結婚できたそうです。
そんな「新世界」は、大阪環状線の新今宮駅で、発車メロディとして使われています。その理由は、ドヴォルザークが鉄道好きだったから……ではなく、近くにある繁華街「新世界」からの連想。鉄道とは無関係な採用理由ですが、鉄道好きのドヴォルザークも喜んでいるのではないでしょうか。