首都圏の通勤輸送を担うJR東日本。国鉄分割民営化により同社が発足した当時、首都圏では国鉄時代に投入された103系が多数活躍しており、老朽化したこの車両の置き換えが課題となっていました。
多数の車両を、コストを抑えつつ導入する、というコンセプトの基に、JR東日本が1993年に営業運転に投入したのが、京浜東北線などで活躍した209系です。同社はさらに、1994年に近郊型のE217系、1995年に交直両用車両のE501系を投入。JR発足後の第1世代車両群を作り上げました。
そして、209系をさらに進化させた第2世代の車両として、JR東日本が開発したのが、2000年にデビューしたE231系です。
2つのタイプを1形式に統一
E231系の一番の特徴は、それまで区別されていた「通勤型電車」と「近郊型電車」を統合し、「一般形電車」という区分を生んだことです。
国鉄時代、都市部の通勤電車に使用される「通勤型電車」と、都市部と郊外を結ぶ列車などに使用される「近郊型電車」は、明確に区別されていました。103系や205系などの通勤型は、4つドアとロングシートが基本。113系や415系などの近郊型は、3つドアとセミクロスシートが基本と、両者の設備は別。通勤型では加減速性能を重視、近郊型では加速性能と引き換えに高速性能を重視と、性能も異なっていました。
しかしながら、国鉄末期にかけて郊外からの通勤需要客が増えてくると、特に首都圏においては、従来の近郊型では扉数が少ない、セミクロスシートのため乗車効率が悪い、というデメリットが目立ってきました。また、設備や性能が異なる車両を別形式をそれぞれ開発し、保守管理することは、コストも膨らみます。
1994年にデビューしたE217系は、近郊型の区分ながら、ドア数は4つ、セミクロスシートは一部車両のみと、従来の近郊型とはコンセプトを異にした車両となりました。また、床下機器は209系を基にしており、209系よりも起動加速度を抑えた代わりに高速性能を向上させた車両となっています。
このように、すでに209系・E217系で機器類の設計共通化は実現していましたが、E231系ではこれをさらに推し進め、同じ形式の中に「通勤タイプ」と「近郊タイプ」の2つの仕様を持つコンセプトとしました。
E231系の車体は、E217系のような広幅・4つドアのもの。通勤タイプでは従来車よりも定員が増加し、近郊タイプではE217系同様に乗降時間短縮が狙えます。
床下機器は従来の通勤型の性能を発揮できる仕様ですが、209系やE217系よりもモーターの回転許容数を引き上げることで、近郊タイプに求められる高速性能も発揮できるように。E231系通勤タイプの起動加速度は時速2.5キロ毎秒と、209系と同じ数値となっていますが、設計最高速度は時速120キロと、起動加速度が時速2.0キロ毎秒に抑えられるE217系と同等のスペックを実現しています。
車体設計や搭載機器が統一された一方で、先頭部のデザインは両者で異なっています。通勤タイプは209系のデザインを受け継ぐものですが、近郊タイプは衝撃吸収構造を採用した高運転台の設計。踏切などでトラックのような障害物と衝突した場合にも、あえて破壊する部分を設けることで衝撃を分散し、乗務員の生存率を高める「クラッシャブルゾーン」の概念を採用し、郊外路線走行時の安全性を確保しています。
また、車内設備も両タイプで異なります。通勤タイプでは従来通りのロングシートを設置していますが、近郊タイプでは一部車両にセミクロスシートを設置。基本編成にはグリーン車も連結しており、中長距離での移動需要に応えています。
車両タイプの統合に加え、搭載機器の進化も試みられました。特筆されるのが、車両統合管理システム「TIMS」の搭載です。
従来の電車では、加速や減速、ドアの開閉、空調機器などの指令は、すべてそれぞれ独立した電線を編成間に貫通させ、乗務員室などから伝達する方法を採っていました。しかし、この方式では多数の配線が必要になることでの重量増加、メンテナンスの不便さといったデメリットが表れていました。
E231系が搭載するTIMSでは、これらほぼすべての指令をデジタル通信化し、2本の伝送路に統合。大幅な配線数削減を実現しました。また、通信容量も従来車より大幅に向上したため、さまざまな新機能も搭載できました。たとえば、車両基地から出区する際に実施する点検の自動化や、機器類の稼働状況の記録などなど。TIMSをJR東日本と共同で開発した三菱電機では、検査員5人による月検査(1か月~3か月間隔で実施する検査)に要する時間を、TIMS搭載車では40分と、従来車両の120分から大幅に短縮できるとしています。