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鉄道の電化、「直流」と「交流」の2つの方式

2020年6月12日(金) 鉄道コムスタッフ

交流電化のメリットとデメリット

交流電化のメリットとは、地上設備のコストを直流電化に比べて削減できることにあります。

架線へ電力を供給する変電所は、設置や維持に多くのコストが掛かるため、鉄道事業者としては数を減らしたいところです。しかしながら、直流1500ボルトの場合、単純に数を減らすと、電力が電車へ届くまでに損失によって減衰してしまいます。

電車へ電力を供給する架線には、わずかながら抵抗があります。そのため、変電所から電車までの間に損失が生まれてしまうのです。中学理科で学習する「オームの法則」では「電流は加えた電圧に比例し、抵抗に反比例する」となっていますが、これに従うと、同じ抵抗値の架線を用いる場合には、電圧を上げた方が効率も上がるのです。

しかしながら、直流の場合、高電圧で供給された電気を使うことは容易ではありません。20000ボルトのような直流高電圧を降圧する機器は鉄道車両に搭載することは難しく、高電圧の電力をそのままモーターへ供給することも性能上困難です。

一方の交流は、変圧器を用いれば電圧を変えられます。鉄心にコイルを巻き付けるという単純な構造の変圧器で、20000ボルトのような高電圧でも、鉄道車両に適した電圧へ降圧できます。

そのため、20000ボルトという高圧の交流を採用することで、変電所から離れた場所まで低い損失で電力を送ることが可能となり、直流電化よりも変電所を削減できるのです。

ただし、重量のかさむ変圧器を始め、交流電車に特有の機器を搭載するということは、直流電車に比べ、車両の重量や製造コストが増加するというデメリットもあります。

多くの機器を搭載するためには車両の機器搭載スペースも必要となるため、現在に至っても1両編成の交流専用車両は機関車を除くと実現できていません。そのため、需要が少ない路線においても、交流電化区間では直流電車のような1両編成の電車列車を運転することはできません。

2両編成のE721系。交流専用車両では、多くの機器を搭載する必要があるため、いまのところは2両編成が最低単位となっています
2両編成のE721系。交流専用車両では、多くの機器を搭載する必要があるため、いまのところは2両編成が最低単位となっています

このほか、高電圧で送電する交流電化の場合、周辺設備へ電流が流れないように取る間隔「絶縁距離」を、直流電化の場合よりも広く設定する必要があります。そのため、地下区間で交流電化を採用した場合には、広く取る絶縁距離の分だけ直流電化より建設コストが増えることとなります。

これらのメリット・デメリットにより、東京や大阪など、多くの車両が必要な都市部では、変電所のコストが高くとも車両の製造コストを下げられる直流電化方式が、現在でも主流となっています。一方、戦後に電化が進められた北海道、東北、北陸、九州では、車両が高価となることと引き換えに、地上設備のコストを下げられる交流電化を採用しました。

なお、交流電化区間と直流電化区間を直通するには、双方の電源方式に対応した「交直両用車両」が必要となります。このタイプの車両は、双方の電化路線を走れる一方で、両方式に対応した機器・回路を持つために、交流専用車や直流専用車よりも高価となる傾向にあります。

交直両用車両であるつくばエクスプレスTX-2000系の屋根上。多くの機器が搭載されています
交直両用車両であるつくばエクスプレスTX-2000系の屋根上。多くの機器が搭載されています
直流専用車両であるTX-1000系の屋根上は、比較的スッキリしています
直流専用車両であるTX-1000系の屋根上は、比較的スッキリしています

車内の電気が消えるのは?

交流電化区間と直流電化区間の境界には、当然のことながら、双方の電化方式が接する場所があります。しかし、交流電化の架線と直流電化の架線は、直接接続することはできません。そのため、現在の日本の鉄道では、両者の境界に電気が流れていない区間「デッドセクション」を設けて対応しています。

常磐線取手~藤代間のデッドセクション
常磐線取手~藤代間のデッドセクション

デッドセクションは、交流区間と直流区間のそれぞれの架線の間に、FRPなどの絶縁体を使用した数十メートル程度の「セクションインシュレータ」を挿入したものです。交直両用車両は、デッドセクションの通過にあわせて交流用回路から直流用回路に、あるいはその逆に切り替えることで、双方の電化方式を走行できるのです。

セクションインシュレータ部分の拡大。架線が太くなっている部分がセクションインシュレータです
セクションインシュレータ部分の拡大。架線が太くなっている部分がセクションインシュレータです

このデッドセクションを通過する際には、架線からの電気を絶ってしまうため、旧型の車両では車内の電気が一部を残して消えてしまいます。有名な箇所では、かつては常磐線の取手~藤代間で体験できましたが、現在はこの区間で電気が消える車両は無くなりました。今では、山陽本線の下関~門司間、七尾線の津幡~中津幡間でこれを体験することができます。

下関~門司間でデッドセクションを通過している最中の車内。かつては常磐線でも同様の体験ができました
下関~門司間でデッドセクションを通過している最中の車内。かつては常磐線でも同様の体験ができました

なお、近年の鉄道車両では、デッドセクション通過中は蓄電池から電気を供給するようになっており、走行中に電気が消えることは無くなりました。ただし、交直両用車両が始発駅で出発準備中に、交直切換器を試験することがあり、この際には車内灯が消えた状態を体験できます。

直流区間と交流区間の境界に限らず、交流電化区間においても、変電所から供給する電源の境界において、デッドセクションが設けられます。

これは、交流の特徴である、プラスとマイナスが入れ替わる波の周期(位相)がズレていることがあるため。架線に電気を供給する変電所によって位相にはズレがあるのですが、両者をそのまま接続すると、大電流が流れて事故が発生することがあります。そのため、鹿児島本線春日~大野城間など、変電所の境界にあたる部分には、交流同士のデッドセクションが設置されています。

交流の波の周期(位相)のズレ
交流の波の周期(位相)のズレ
 

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