鉄道コム

変わったのは車両だけじゃない? 移動を楽しみたい人々にもアピールする、東海道新幹線N700Sデビューキャンペーン

2020年7月19日(日) フォトライター 栗原景

撮り鉄が初登場?したN700Sデビューポスター

東海道新幹線が、そしてJR東海が、変わりつつあります。

7月1日、東海道新幹線13年ぶりの新型車両、N700Sが営業運転を開始しました。従来のN700Aの技術をさらにブラッシュアップさせた車両で、より快適な座席、全座席に設置されたモバイルコンセント、さらなる省エネルギー化と安全性能の向上など、着実な進化を遂げています。

7月1日にデビューしたN700Sの出発式(画像:JR東海)
7月1日にデビューしたN700Sの出発式(画像:JR東海)

同時に、JR東海はN700Sのデビューキャンペーンを開始しました。これまでにも、700系やN700系などがデビューする際に、同じようなキャンペーンが行われていましたが、よく見ると、これまでの東海道新幹線の新型車両キャンペーンとは、少し趣が異なります。

N700Sのデビュー告知ポスター(画像:JR東海)
N700Sのデビュー告知ポスター(画像:JR東海)

第一弾のポスターを見てみましょう。巨大なN700S先頭車の写真のまわりに、さまざまな人物や風景が鉛筆デッサンのタッチで描かれています。富士山をバックに走るN700S、指差喚呼をする乗務員、車内で眠る乗客……。

利用者だけでなく、旅のプランを考えている女性や、望遠レンズをつけたカメラを構える人たちも見えます。いわゆる「撮り鉄」の人々が、東海道新幹線のポスターに登場したのは初めてのことかもしれません。キャッチコピーは、「あなたが、走り出す日のために。」

テレビやネットで公開された第一弾のCMも、独特のテイストです。QUEENの名曲「Don't Stop Me Now」が流れるなか登場するのは、離れた場所にいる孫とビデオチャットをする男性、自宅で温泉旅行を思い描く女性、バスケットボールができずにいる青年。いずれの広告にも、新型車両のセールスポイントは全く登場しません。

技術力のアピールから、”人々の想い”へ

JR東海東京広報室の安田吉孝さんは、今回のキャンペーンについて「”人々の想い”にフォーカスしています」と言います。

「今はウイルスの影響もあり、自由に移動をすることが難しい状況もあります。でも、将来また自由に動けるようになる日のために、東海道新幹線は着実に歩み続けていますという想いを、スケッチ調の絵とアップテンポな曲に乗せて表現しました」(安田氏)

N700SのテレビCMの一場面。「人々の想い」を表現した構成となっています(画像:JR東海)
N700SのテレビCMの一場面。「人々の想い」を表現した構成となっています(画像:JR東海)

新型コロナウイルスの感染拡大が生んだ表現とも言えますが、こうした広告表現は、2007年にN700系がデビューした時とは対照的です。

実は、N700系の時も、デビューを知らせるポスターには車両先頭部をやや下から見上げた、今回とほぼ同じ構図(ただし左右は逆)の写真が使用されました。ただ、この時の背景は青一色。「新!」という、デジタル風フォントの文字とともに、「最新技術のおもてなし」というキャッチコピーがありました。

N700系がデビューした2007年は、いわゆるリーマンショックが発生する前年にあたり、日本経済が比較的順調だった時期です。先端技術が未来を切り拓く。そんな時代でした。

最新技術こそが「おもてなし」であると技術力をアピールしたN700系に対し、自由に移動したいという「人々の想い」にフォーカスしたN700S。2つの広告を見ると、日本と東海道新幹線を取り巻く状況の変化が読み取れます。

ミルクボーイから老舗そうめんまで幅広いキャンペーン

さて、N700Sの広告キャンペーンには、もう1つの特徴があります。それは、極めて幅広い人々に向けて発信されていること。

「N700Sのデビューは、レールファンの方以外からはそれほど知られていませんでした。新幹線に特に興味がない方、詳しくはご存知でない方にも広く知っていただきたいと考え、N700Sの”S”が意味する”Supreme”、つまり”最高”という言葉に注目しました。沿線や各界の”Supreme”な方々とコラボレーションさせていただき、いろいろな角度からN700Sの特徴を御案内することにしたのです」(安田氏)

そこで登場したのが、昨年M-1グランプリを制した人気漫才コンビ「ミルクボーイ」です。ボケ担当の駒場孝さんが、「おかんが好きなものを知りたい」とあれこれヒントを出し、ツッコミ担当の内海崇さんが内容を想像する「コーンフレーク」のネタがおなじみですが、コーンフレークを東海道新幹線に置き換えたオリジナル漫才「新幹線」がYouTubeに公開されました。

人気漫才コンビ「ミルクボーイ」(画像:JR東海)
人気漫才コンビ「ミルクボーイ」(画像:JR東海)

「おかんの好きなもの(=商品)」の特徴から正解を考えるミルクボーイの漫才は元々広告向きですが、M-1グランプリの優勝以来、東海道新幹線を頻繁に利用しているお二人は、JR東海のオファーを快諾し、アイディアも積極的に出してくれたそうです。

たとえば、ミルクボーイは漫才の冒頭でお客さんからおかしなプレゼントを受け取るという定番ネタがあります。ここは当初の台本では「電車の吊革」でした。それも面白いのですが、鉄道ファンから見ればよくあるグッズの1つで、鉄道好きの芸人なら普通に喜びそうでもあります。

そこで、ミルクボーイは収録の直前に「もっとこうした方が面白いんじゃないですか」と、別のアイディアを提案したそう。現実にプレゼントされることはあり得ない、でも誰もが知っている鉄道関係のもので、「さすがはミルクボーイ」と採用されました。それが何かは、ぜひYoutubeを見てみてください

企業とのコラボレーションでは、「シウマイ」で知られる横浜の「崎陽軒」、名古屋でえびせんべい「ゆかり」を販売する「坂角総本舗」、奈良の三輪そうめんの老舗「池利」といった各地の食品メーカーが選ばれました。

「崎陽軒」とコラボしたデビュー記念弁当(画像:JR東海)
「崎陽軒」とコラボしたデビュー記念弁当(画像:JR東海)

新幹線の沿線ではない奈良の企業があるのが少し意外ですが、これはJR東海が展開している「うましうるわし奈良」キャンペーンと連動したもの。実は今年の春から、木箱にN700Sとドクターイエローを描いた「そうめん新幹線」「そうめんドクターイエロー」を発売していました。

「当社が行ったN700Sのコラボレーションとしては、最も早かったのがこの”そうめん新幹線”でした。ですので、描かれているN700Sは量産車ではなく確認試験車なんですよ(笑)。乗務員室扉に、ちゃんとJ0と編成番号が書かれているので、ぜひ見てみてください」(JR東海東京広報室 辻原みなみ氏)

三輪そうめんの老舗「池利」とコラボした「そうめん新幹線」「そうめんドクターイエロー」。実はN700Sの確認試験車がモデルなのだとか(画像:JR東海)
三輪そうめんの老舗「池利」とコラボした「そうめん新幹線」「そうめんドクターイエロー」。実はN700Sの確認試験車がモデルなのだとか(画像:JR東海)

さらに、人気のアニメ「おしりたんてい」とのコラボレーションでは、「JR東海からの挑戦状」という無料の冊子が約7万部作成され、駅や車内、名古屋のリニア・鉄道館で子供たちに配布されています。

「おしりたんてい」とコラボした冊子「JR東海からの挑戦状」
「おしりたんてい」とコラボした冊子「JR東海からの挑戦状」

「おしりたんてい」は、お尻そっくりの顔をした名探偵が、視聴者とともに事件を解決していく”なぞとき”アニメですが、この冊子は”なぞとき”をしながら、N700Sや東海道新幹線に詳しくなれる本格派。車両のうんちくとは関係ない、キャラクター探しのパズルもあるなど、たっぷり楽しめる内容となっています。

「東海道新幹線は、多くの方にご利用いただいていますが、逆に言えば、あまりにも当たり前の存在となっています。N700Sのデビューをきっかけに、もう一度東海道新幹線がこれまで果たしてきた役割を知っていただき、また1つ新幹線が進化したんだな、新型車両に乗って、出かけてみようかなって思ってもらえたらと思っています」(安田氏)

鉄道コムの最新情報をプッシュ通知でお知らせします無料で受け取りますか?

鉄道コムおすすめ情報

画像

特急などの「座席反転率」

乗っていたら、いつの間にか座席の向きが逆に……。そんな特急・観光列車をご紹介します。

画像

出世した元一般型車両たち

特急・観光列車用に改造された、元一般型車両たち。大出世したさまざまな車両をご紹介します。

画像

「青胴車」2025年2月引退

阪神最後の「青胴車」5001形が、2025年2月にラストランと発表。12月以降はイベントを開催。

画像

ドクターイエロー2本並び

10月末に開催された、浜松工場のイベント。ドクターイエロー2本がならんだ模様などをご紹介。

画像

東武の車両「記録推奨度」

この車両、いつまで走る? 引退が危ぶまれる車両や、見た目が変わりそうな車両をご紹介。今回は東武編です。

画像

12月の鉄道イベント一覧

2024年も残りわずか。師走の鉄道旅行や撮影の計画には、鉄道コムのイベント情報をどうぞ。

画像

イベント投稿写真募集中!

鉄道コムでは、臨時列車や基地公開など、さまざまなイベントの投稿写真を募集中! 投稿写真一覧はこちら。