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災害や列車火災、さまざまな状況に対応する東海道新幹線の訓練

2020年12月31日(木) 鉄道コムスタッフ 西中悠基

1日あたり378本(2019年度)の列車が走る東海道新幹線。日本の大動脈である東海道新幹線は、多くの列車を効率的に運行しており、平常時はわずかな遅延すら起きていません。JR東海が2020年に発行したアニュアルレポートによると、平均遅延時間は0.2分。これは、豪雨などで列車が大幅に遅延した日も含む、1年間を通した遅延時間だというから驚きです。

1年の平均遅延時間が0.2分と、高い定時性を誇る東海道新幹線
1年の平均遅延時間が0.2分と、高い定時性を誇る東海道新幹線

JR東海では、この定時性を実現するため、N700A(初期のN700系を改造した「N700Aタイプ」を含む)以降の車両に搭載している定速機能を始めとするハード面や、乗務員の訓練のようなソフト面の両面から、この高レベルな新幹線の運行を実現すべく、さまざまな方策を採っています。

しかしながら、そこまでの努力をしても、遅延を完全に無くすことはできません。たとえば、近年激しさを増す台風やゲリラ豪雨によって、新幹線が数時間運転を見合わせることは、毎年見られる事象です。

ただし、遅延の発生自体は防ぐことができなくとも、遅延を最小限に抑える努力はできます。JR東海では、社員へのさまざまな訓練・教育を通じて、この運行障害を最低限に抑える努力を、日々続けています。

「のぞみ」が途中で打ち切りに! その時乗務員は?

「非常に激しい雨が降っているため、この先の熱海~小田原間で、上下線とも、いったん運転を見合わせることとなりました。この列車も、新富士駅で運転を見合わせます」

実際に聞くと不安になる放送ですが、これはJR東海が実施した訓練時の放送。この日、JR東海では、豪雨で新幹線の運転を見合わせるという想定で、訓練を実施しました。

列車の運転見合わせ放送が流れた訓練列車の車内。ジェイアール東海パッセンジャーズの係員が、乗客(役の社員)に状況を説明していました
列車の運転見合わせ放送が流れた訓練列車の車内。ジェイアール東海パッセンジャーズの係員が、乗客(役の社員)に状況を説明していました

2020年3月のダイヤ改正以降、1時間あたり最大で「のぞみ」12本、「ひかり」2本、「こだま」3本、計17本もの列車が運転される東海道新幹線。この高頻度ダイヤで運行する中、豪雨などで運転を見合わせることになった際には、何も対策を打たなければ、駅間で止まってしまう列車が出てしまいます。短時間の運転見合わせであれば影響は小さいですが、数時間も駅間で停車してしまうと、体調を崩す乗客が出てしまうかもしれません。

そこで、長時間の運転見合わせが見込まれる際、途中駅に列車を臨時に停車させ、乗客を駅へ待避させることになります。今回の訓練では、このような状況を想定し、通過線に臨時停車した列車から、待避線の車両を経由し、乗客がホームへ移動する、といった内容が盛り込まれていました。

ホームへ移動するといっても、ホームの無い場所からの降車となる取り扱いは、簡単ではありません。しかも、新幹線の乗客には、自力で歩ける人のみならず、車いす利用者や超特大荷物の持込者など、さまざまな人がいます。今回の訓練ではこの点も踏まえ、多様な利用者を想定して実施されました。

さて、降車する訓練の舞台となったのは、静岡県の新富士駅。上下線に通過線各1本と待避線各1本がある、いわゆる「新幹線型配線」のオーソドックスな形です。しかしながらこの駅は、東海道新幹線開業後の1988年に設置された駅。旧来からの設備を残しつつ駅を建設したため、通過線と待避線の間に架線柱が建てられています。そのため、他の待避線がある駅よりも、通過線と待避線の間隔が開いているのです。

東海道新幹線開業後に建設された駅は、通過線と待避線の間に架線柱が設置されています(画像は掛川駅)
東海道新幹線開業後に建設された駅は、通過線と待避線の間に架線柱が設置されています(画像は掛川駅)
中継台から見た通過線と待避線の間の空間
中継台から見た通過線と待避線の間の空間

通常の待避線がある駅の場合、通過線上の列車から乗客を降車させる際には、通過線と待避線それぞれの列車に渡り板を掛け、両車両を橋渡しします。しかしながら、この新富士駅のように両線路の間隔が開いている場合には、渡り板を車両間に掛けることはできません。

そこでJR東海は、新富士駅の通過線と待避線の間に、中継台を設置して異常時に備えました。両線路の車両から中継台に渡り板を設置することで、線路間隔が開いている駅でも、他の駅と同様の降車手順が取れるようにしたのです。中継台は、新富士駅のほか、掛川駅、三河安城駅に配備。上下線とも、2・6・11・14号車の計4箇所に設置されています。

通過線と待避線の間に設置されている中継台
通過線と待避線の間に設置されている中継台

さて、取材陣を乗せた訓練列車は、新富士駅の通過線に到着しました。続いて待避線に他の訓練列車が停車すると、準備が完了。いよいよ降車の訓練が始まります。

列車が中継台の位置に停止していることを確認すると、車掌がドアコックを扱い、中継台前のドアを開けます。そして、車両から中継台に渡り板を掛け、手すりを設置すれば、降車準備は完了です。なお、この訓練で使用した渡り板は、縦175センチ、横75センチの幅広タイプのもの。車いすにも対応しているといいます。JR東海では、この渡り板を、2020年6月までに東海道新幹線(JR西日本所有車両も含む)全編成に搭載したということです。

ドアコックでドアを開ける車掌
ドアコックでドアを開ける車掌
車掌とジェイアール東海パッセンジャーズの係員が連携し、渡り板を設置
車掌とジェイアール東海パッセンジャーズの係員が連携し、渡り板を設置
設置が完了した渡り板
設置が完了した渡り板

そしていよいよ乗客の降車を開始。車掌とジェイアール東海パッセンジャーズの係員が連携し、乗客を案内します。中には車いす利用者や目の不自由な乗客、超大型手荷物持込者もいましたが、係員はスムーズに案内していきました。

車いす利用者も渡り板を通過
車いす利用者も渡り板を通過

筆者も実際に渡り板を歩きましたが、見た目の印象とは異なり、意外と安定していました。もちろん、車両間は手すりはあるものの吹きさらし状態ですが、距離が短いため、それほどの恐怖感もありませんでした。

報道陣に公開された訓練はここまででしたが、JR東海ではこの他にも、列車火災を想定した訓練や、1つの線路に2列車を停める訓練も実施したといいます。JR東海 新幹線鉄道事業本部 運輸営業部長の近藤雅文さんは、「お客様に安心してご利用いただけるよう、鉄道事業者として引き続き、実践的な訓練に取り組んでまいります」とコメントしました。

 

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