日本の玄関口の一つである羽田空港。現在は東京モノレールと京浜急行電鉄の2路線が乗り入れていますが、JR東日本も「羽田空港アクセス線(仮称)」を建設し、3本目の鉄道アクセス路線として乗り入れる計画を進めています。
この羽田空港アクセス線は、一部でかつての貨物線を転用する計画。現在は草に埋もれている貨物線が、将来ふたたび日の目を見ることとなります。
2029年度の開業を予定する羽田空港アクセス線、その経由地の現状を取材しました。
【2023年4月4日追記】羽田空港アクセス線の開業予定は、2031年度となることが発表されました。
羽田空港アクセス線とは
羽田空港アクセス線は、羽田空港と都心方面を結ぶ構想の路線。羽田空港~東京貨物ターミナル間で約5キロの新線を建設するほか、既存路線のルートを一部流用・改良して運行する予定です。これら新線や改良線を経由して、羽田空港から宇都宮・高崎方面、常磐線方面への列車を運行する計画となっています。
羽田空港アクセス線の線路として転用されるのは、東海道本線の貨物支線のうち、通称「大汐線」と呼ばれる区間です。
1872年の鉄道開業時に東京側のターミナル駅として開業した新橋駅は、1914年に東京駅が開業すると同時に、旅客機能を現在の新橋駅へ移管し、駅名を汐留駅に変更。貨物専用の駅となりました。汐留駅はこれ以降、東海道本線の東京側の貨物ターミナル駅として、重要度を高めていきました。
一方、戦後の高度経済成長期に突入すると、貨物の需要が増大し、従来の設備ではこれらを捌くことが難しくなります。そこで、東京の郊外を中心に貨物線のバイパス線を敷設し、貨物線上に新たな貨物駅を建設する計画が進められました。この計画によって建設されたのが、現在の武蔵野線や京葉線、東京臨海高速鉄道りんかい線。そして、このプロジェクトの一貫として、東京の新たな鉄道貨物の拠点、東京貨物ターミナル駅が、大井ふ頭に建設されました。
そして、新たな拠点駅となる東京貨物ターミナルと、従来の汐留駅を結ぶ路線として1973年に開業したのが、通称大汐線です。しかしこの路線は、1986年に汐留駅が廃止となり、途中で分岐していた浜松町~品川間の区間も1996年に廃止となったことで、貨物線としての役目を終えることとなりました。1998年以降は休止状態となっており、現在は一部が草に埋もれている状況です。
新幹線と並走する大汐線
2021年現在、大汐線の起点は浜松町駅ですが、この近辺は再開発によって線路が剥がされており、線路が現れるのは浜松町~田町間の駅間です。大汐線の線路は、東海道新幹線よりさらに海側に敷設されており、東海道本線や山手線の線路とは接していません。
羽田空港アクセス線を走る列車は、東海道本線から大汐線へ乗り入れる形となりますが、現状の配線では東京駅から大汐線に直接入ることができません。そのためJR東日本では、田町駅付近に単線のトンネルを建設し、大汐線への接続線とする計画です。
大汐線への接続線は、東海道本線の上下線間に建設する予定。このスペースを捻出するため、山手線の引き上げ線を廃止し、跡地に山手線外回りを、山手線外回り跡地に京浜東北線南行を……と、一線ずつスライドする工事を実施します。羽田空港アクセス線の着工は2022年度を予定していますが、田町駅引き上げ線代替となる同駅南側の山手線渡り線設置工事は、2020年より進められています。
田町駅を過ぎると、大汐線は東海道新幹線の車庫回送線とともに、東海道本線から東へと分岐していきます。ここから東京貨物ターミナル駅・大井車両基地までの間は、大汐線と新幹線回送線が一体で建設された区間。4線分の高架線が、約4キロにわたって並走しています。
なお、新たに建設される接続線は、トンネルで東海道新幹線の下をくぐり抜け、東海道新幹線本線と回送線の高架橋が別れるまでに、大汐線の路盤に合流する計画です。