国鉄の直流近郊型電車として、1960年代から1980年代にかけて製造された113系・115系。この両形式に続く新世代の近郊型電車として、国鉄末期に登場したのが、211系です。
211系では、約20年間製造が続いた113系・115系に代わる新世代の車両となるべく、従来車とは大きく異なる思想の下、開発が進められました。
車体は、近郊型電車では初となる軽量ステンレスを採用。ボルスタレス台車の採用とあわせ、車両重量の軽量化に貢献しました。また、機器面においては、界磁添加励磁制御や電気指令式ブレーキを、こちらも近郊型電車では初採用。これら4点は先行する205系と共通するもので、205系と同様に、軽量化やコスト削減、省エネ化の実現を目指したのです。
近郊型電車として、3ドア・広幅車体という要素は113系・115系より踏襲されましたが、車体幅は2900ミリから2950ミリへと拡幅され、従来車よりも車内空間が拡大されています。一方、近郊型電車の内装はセミクロスシートが基本でしたが、211系ではロングシート主体の番台が当初より設定されていました。当時、常磐線用の415系ではオールロングシート車両が投入されていたものの、東海道本線などでは初のロングシート車の登場となりました。
登場時の編成は、5両編成または10両編成が基本でした。東海道本線の15両(10両+5両)編成の場合、モーター車が6両、非搭載車がグリーン車2両を含み9両という構成。車両重量の削減や性能の向上により、モーター車の比率を低くすることが可能となりました。それまでの113系の場合、モーター車は15両中8両だったため、モーター車2両分のコスト削減を実現しています。
この211系が採用した界磁添加励磁制御とは、103系や113系などで採用されていた制御方式である抵抗制御に、モーターの回路とは別の電源から得た電流の回路を組み合わせ、回生ブレーキの動作を可能としたものです。211系が登場した当時、既に201系などでさらに高効率な電機子チョッパ制御方式が採用されていましたが、この方式は制御機器が高価という欠点がありました。一方、この界磁添加励磁制御では、抵抗制御による損失こそ発生するものの、比較的低コスト、かつ保守面でも有利でした。
界磁添加励磁制御は、国鉄での初採用は1985年デビューの205系でしたが、元は近郊型電車、つまり211系向けに開発されていたもの。国鉄末期世代の211系・205系に採用された界磁添加励磁制御方式は、他にも651系や215系、311系、221系など、JR初期にデビューした直流・交直流電車にも採用されていきました。
211系の兄弟車も登場
211系は、1985年に第1編成が落成し、翌1986年2月に東北本線・高崎線で、3月に東海道本線東京地区で、それぞれ営業運転を開始。その後も国鉄による投入が続き、民営化によってJR東日本が発足した後も継続投入されました。国鉄時代に投入された車両は、基本編成がセミクロスシート車、付属編成がロングシート車となるよう考慮されていましたが、JR発足後の投入車両は全てロングシート車となっています。
JR発足後の1989年以降に製造されたグリーン車は、それまでの平屋車両から2階建て車両に変更されました。ラッシュ時には着席できない乗客も出るほどの、東海道本線グリーン車の混雑に対応すべく製造されたもので、日本の狭軌路線では初めての2階建て車両となっています。
また、国鉄時代はほとんどが首都圏向けに投入された211系ですが、JR発足後にはJR東海も導入を進めました。国鉄時代にも、名古屋地区向けに0番台4両編成2本が投入されていましたが、JR東海では独自仕様の5000・6000番台を開発。中央本線や東海道本線名古屋・静岡地区などに投入し、旧来の103系や113系を置き換えていきました。
さらに、JR西日本では211系のシステムを採用したジョイフルトレイン「スーパーサルーンゆめじ」を製造しました。1988年の瀬戸大橋線開業にあわせたもので、車両の外観は快速「マリンライナー」用213系グリーン車と同じですが、3両編成のうち、モーター搭載車の2両が211系(もう1両は213系)となっていました。「スーパーサルーンゆめじ」は、2003年の「マリンライナー」車両置き換え後も残存していましたが、2010年に引退しています。
211系の製造数は、首都圏向けが575両、東海エリア向けが250両、「スーパーサルーンゆめじ」が2両の、計827両。総数が4ケタを突破している先代の113系・115系よりも少ない数ですが、近郊型におけるロングシートという設計思想や、足回り機器の技術などは、後に続く車両たちに受け継がれていきました。また、兄弟車である213系に加え、車両システムこそ異なるものの、415系のステンレス車両である1500番台、JR東日本の719系、JR四国の6000系などと、車両デザインも様々な形式に踏襲されています。