熊本県と鹿児島県を結ぶJR九州の肥薩線は、2020年7月の豪雨によって被災し、2022年現在も八代~人吉~吉松間の不通状態が続いています。
八代~人吉間で球磨川沿いを走る肥薩線は、豪雨による氾濫の影響を大きく受け、同区間では419件の被害箇所が発生。アメリカで製作され、100年以上も使われてきた球磨川第一・第二橋りょうの流失を始めとする、多大な被害を受けました。また、県境にまたがる人吉~吉松間では、人吉以北ほどではないものの29件の被害が発生しています。
沿線地域では道路などの復旧作業が進められている一方で、肥薩線の復旧に向けては費用などの課題が山積。線路設備は被災時のまま放置されている箇所も多々見られるのが現状です。
2022年3月には、国土交通省やJR九州などが復旧を議論する「JR肥薩線検討会議」の第1回検討会が開催。今後の議論によって、肥薩線の動向が決まることとなります。
未だ復旧への道筋が見えない肥薩線。現地の状態を取材しました。
線路が道路の下に
豪雨被害を受けた肥薩線は、一部では路盤や鉄橋が流され、現在でも大部分が被災当時のままとなっています。また、坂本駅付近を始めとする一部区間では、線路が埋め立てられ、道路として使用されています。これは、肥薩線と並走する国道219号線や熊本県道も被災しており、被災地復旧工事用の車両通行が困難だったため。地域の復旧工事が進められている現在でも変化はなく、鉄道信号や標識類が道路上に残されたままの状態となっています。
肥薩線は、八代~人吉間で球磨川を2回渡っていました。この「球磨川第一橋りょう」と「球磨川第二橋りょう」は、この区間が開業した際にアメリカで製作されたものを架橋し、100年以上も使用されてきた貴重なもの。国の近代化産業遺産群にも認定されていました。しかしながら、この2つの橋はいずれも豪雨によって流出。赤いトラス橋の面影はなく、現在は橋脚が残されているのみです。
球磨川第二橋りょう付近の踏切では、川側と陸側の中間点のレールが、川下方向に大きく曲げられた痕跡が残されていました。増水時の川の力の強さを物語っています。
中間駅も一部は被災時のまま。渡駅では、信号機や電柱が傾いた状態で放置されています。なお、渡駅の駅舎は被災した後もそのまま残されていましたが、2021年12月に解体されています。
一方、肥薩線代行輸送タクシーの人吉側の起点となっている一勝地駅は、駅舎は被災前のように、村の観光案内所などとして活用されています。ただし、この駅を発着する代行タクシーは1日2往復で、しかも平日のみの運行。その他の時間帯に公共交通機関で人吉方面へ移動する場合は、路線バスを乗り継ぐ必要があります。駅付近