鉄道のきっぷといえば、乗り放題タイプのものでない限り、出発地と目的地が決まっているのが普通です。しかし、JR西日本が7月1日に発表した「サイコロきっぷ」は、アプリ上でサイコロを振って目的地を決める、という、これまでにないきっぷ。企画が発表された時から、多くの反響を呼びました。
サイコロで目的地を決める、まるでゲームやバラエティ番組のような「サイコロきっぷ」。この商品に込めた思いを、JR西日本営業本部の山田真義さん、佐野愛翔さんに聞きました。
サイコロを振って「どこなんだここは!?」
――まず、「サイコロきっぷ」の詳細について教えてください。
「サイコロきっぷ」は、その名の通り、サイコロで行先が決まるきっぷです。大阪市内発着で、白浜、餘部、東舞鶴、倉敷、芦原温泉、尾道の6か所と、「レア駅」の博多の、計7か所を目的地として設定しています。通常のサイコロは6目ですが、これに加えて、7つ目の「レア駅」も設定することで、面白さを演出しました。
価格は5000円で、目的地までは新幹線や特急列車で往復できます。値段的にも価格訴求性が高い商品として仕上げました。発売期間は7月29日から10月29日までで、ご利用開始日の1か月前から当日まで発売します。有効期間は3日間です。
――目的地はどのように決めるのでしょうか。
まず、専用サイトからエントリーしていただき、その後に当社が提供しているスマートフォンアプリ「WESTER」上でサイコロを振ります。
それぞれの出目の出現確率は、尾道が36分の5、博多が36分の1で、その他の5か所がそれぞれ6分の1です。ここで、サイコロで尾道が出た場合は、6分の1の確率で出目が博多に変化します。
エントリーは、1人あたり2回まで可能です。また、1回目と2回目で同じ出目が出た場合は、サイコロで出た場所か博多のいずれかを、目的地として選ぶことができます。
――どのような利用者を想定しているのでしょうか。
ターゲットは、10代、20代の若年層、いわゆる「Z世代」を想定しています。当社はこれまでにも、旅の魅力を発信するプラットフォーム「アオタビ」を展開し、Z世代を始めとする若年層の方々にアプローチしてきました。今回の「サイコロきっぷ」は、「アオタビ」がプロデュースする企画として展開しています。
また、新型コロナウイルスの影響が拡大する中、以前のように気軽に旅行に出られる情勢ではなくなっています。しかし、青春時代の色あせない思い出は、社会に出た際にも、さまざまな困難に立ち向かう際の活力になると思います。私たちのような思い出を、今のZ世代の方々にも作っていただきたいと考え、このような商品を企画しました。
商品の開発時にイメージしたのは、大学のサークルのような、少人数の若いグループです。お一人での利用ももちろん歓迎ですが、最大で6人まで同時エントリー可能とすることで、友人グループと一緒に行けるように設計しています。
ただ、旅行が好きな方であれば、どなたでも利用していただきたいと考えております。JRグループでは、普通列車に乗車できる「青春18きっぷ」を、年に3回発売しています。こちらのきっぷは「青春18」という名前ですが、年齢制限は設定しておりません。「サイコロきっぷ」も同様に、老若男女問わず利用していただきたい商品です。
――なぜ「WESTER」上での発売としたのでしょうか。
「WESTER」のダウンロード数増加につなげることが、目的の一つとなっています。
当社が提供している「WESTER」は、乗り換え案内や駅時刻表の案内など、当社をいつも利用していただいている方には便利なアプリだと自負しています。また当社では、コロナ禍という現状を踏まえ、非対面・非接触によるサービス提供を、全社的に推進しています。そこで、利用者ご自身での情報取得やきっぷの申込に便利な「WESTER」のダウンロード数を増やすことで、お客様の利便性向上につなげることを目指しています。
――今回この7駅が選ばれた理由について教えてください。
5000円という価格とあわせて検討した結果、大阪からおおむね200キロ程度の主要な観光地を目的地に選びました。いずれも特急か新幹線に乗れる、旅を感じられる目的地です。
たとえば、白浜駅へは「くろしお」、餘部駅なら「はまかぜ」と、ほどよい時間、ほどよい距離を、特急列車で移動できます。また、白浜といえば海水浴、あるいはアドベンチャーワールドがあります。餘部はInstagramで人気となっていますが、白浜や倉敷のような知名度はありません。そこで逆に「どこなんだここは!?」と思いながら行くことになるかもしれません。
このように、一つ一つの観光地がキラっと光っていることも特徴です。どこの目的地が当たっても、それぞれ楽しんでもらえればと思います。
ただし、レア駅として設定した博多駅は、当社としては出血大サービスとなります。こちらは当社でも最後まで議論になっていました(笑)。
――一部の目的地では、途中下車が可能な駅が設定されています。
通常の乗車券では片道100キロ以上の場合に途中下車ができますが、サイコロきっぷでは基本的に途中下車は不可能です。これは、先にお話ししたとおり、サイコロの行先に対して当社も思いを持っており、目的地での思い出を作ることを大切にしていただきたいためです。
ただし、岡山駅や城崎温泉駅といった一部の駅では、途中下車を可能としています。これは、目的地に設定した7か所はもちろんのこと、途中下車が可能な駅でも、その地を楽しんでいただきたいからです。道中の観光地で宿泊をともなう旅行も、ぜひ検討していただければと思います。
――料金の内訳を見ると、エントリー代が4500円、きっぷ代が500円となっています。
この商品のシステム上、2回決済する必要があるので、このような料金設定としました。また、仮にエントリー代が格安ですと、行きたい出目が出るまで何度もトライする利用者もいるかもしれません。大きく踏み出す、というと大げさですが、「サイコロきっぷでどこかへ旅行するんだ!」という気持ちで、最初に比較的大きな金額をお支払いいただいて、挑戦していただきたいと考えています。