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普通列車に抜かれる特急、WEST EXPRESS 銀河の紀南コースでゆらり旅

2022年12月24日(土) 鉄道コムスタッフ 西中悠基

普通列車にも抜かれる特急列車でゆらり旅

それでは、旅の模様をご紹介していきましょう。

今回乗車したのは、紀南コースの上り列車。種別上は特急列車なのですが、新宮駅から京都駅まで、約11時間の旅路です。同じ新宮→京都間では、特急列車の「くろしお」12号が約4時間50分で走行しており、6時間も余計に時間を要しています。しかし、観光列車であるWEST EXPRESS 銀河は、この長い所要時間こそが醍醐味。途中の駅にのんびり停車しながら、時には後続の特急どころか普通列車にも抜かれつつ、沿線の魅力を楽しむことができる列車です。

時には普通列車にも抜かれつつ……
時には普通列車にも抜かれつつ……

なお、紀勢本線では本来、和歌山駅から新宮駅へ向かう方が上り、その逆が下りとなっています。しかしWEST EXPRESS 銀河では、京都駅発着を上下の基準としているため、今回の記事でも和歌山・京都方面を「上り」としてご紹介します。

始発駅となる新宮駅は、世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」を構成する熊野速玉大社の最寄り駅。紀勢本線を運行するJR西日本とJR東海の境界駅でもあります。

旅の始まりとなる新宮駅
旅の始まりとなる新宮駅

列車は9時35分ごろにホームに入線し、9時50分に発車。ここから約11時間の長い旅が始まります。

列車は9時50分に発車。ここから約11時間の道のりです
列車は9時50分に発車。ここから約11時間の道のりです

今回筆者が利用したのは、ボックスシートの「ファーストシート」。2人用の座席を1人で占有できました。この座席は、予約開始直後に満席となってしまうほどの人気席だということ。事実、今回の乗車では、6ボックス全てが埋まっている状態でした。

新宮駅を発車したWEST EXPRESS 銀河は、日差しに輝く太平洋を望みながら南下。まずは紀伊勝浦駅に停車し、次に太地駅に停車。ここでの停車時間は、なんと19分となっています。

海を眺めながら列車は進みます
海を眺めながら列車は進みます
2つ目の停車駅、太地駅。ここで19分も停車します
2つ目の停車駅、太地駅。ここで19分も停車します

これほど長い停車時間が取られているのは、現地でのおもてなしイベントのため。観光列車であるWEST EXPRESS 銀河では、途中の駅にいくつも停車し、乗客は地元の観光業界などによる歓迎を受けることができるのです。この太地駅では、駅舎内で地元物産品の販売イベントを開催。観光パンフレットや、地元特産のクジラ肉を使用したソーセージも配布されました。

つづいて長時間の停車となったのは、潮岬にほど近い串本駅。串本町は本州最南端の自治体で、もちろん串本駅も本州最南端の駅です。

本州最南端の駅、串本駅
本州最南端の駅、串本駅

駅前には、「本州最南端のおみやげ」をアピールするおみやげ屋が存在。駅舎内で開催された物産販売イベントでも、本州最南端の訪問証明書が販売されていました。ちなみに、本州最北端は青森県の大間町、最東端は岩手県の宮古市、最西端は山口県の下関市。それぞれの自治体で証明書を販売しており、コンプリートを目指す人も多いのだとか。ちなみに、今回乗車した昼行列車では同駅に停車するのみですが、下りの夜行列車では、同駅からバスに乗車して移動し、日の出を見ることができるそうです。

「本州最南端のおみやげ」を売る駅前商店
「本州最南端のおみやげ」を売る駅前商店
WEST EXPRESS 銀河の停車にあわせた物産販売イベント
WEST EXPRESS 銀河の停車にあわせた物産販売イベント

なお、WEST EXPRESS 銀河 紀南コースの上り列車では、運転日によって駅の停車時間が異なります。今回乗車したのは、太地駅と串本駅で停車時間を取るパターン。ほかにももう一つ、紀伊勝浦駅と古座駅で長時間停車するパターンが用意され、それぞれのパターンが交互に運転されています。

串本駅を出た列車は、紀伊半島の西側を進んでいきます。この先の区間は、なんとなくトンネルが多くなった印象が。海は見えるのですが、串本駅以前よりは回数が減った気がします。これは気のせいではなく、駅で配布されている地元学生制作の「うみえるマップ」によると、車窓で海をしっかり望める区間は、和歌山~串本間で4か所なのに対し、串本~新宮間は7か所もあるそう。線路を通した場所の地形に応じて、海寄りと山寄りの経路を使い分けた結果なのでしょうか。

さて、旅の楽しみの一つといえば、グルメです。このWEST EXPRESS 銀河のツアーには、昼行列車では昼食と夕食、夜行列車では夜食と朝食が含まれています。

今回昼食として提供されたのは、「『海と大地と宇宙(そら)の町』串本の恵み」弁当。その名の通り、世界初の完全養殖に成功した「近大マグロ」や、古座川のジビエなど、串本町近郊の素材をふんだんに使用した、WEST EXPRESS 銀河オリジナル弁当です。筆者はグルメには疎く、この美味しさを完全に伝えることができないのは申し訳ないのですが、素材の味が活きた、分量もちょうど良く食べ応えのある弁当となっていました。

この日の昼食のメニュー。「『海と大地と宇宙(そら)の町』串本の恵み」と、和歌山産みかんのジュース、酒粕まんじゅうです
この日の昼食のメニュー。「『海と大地と宇宙(そら)の町』串本の恵み」と、和歌山産みかんのジュース、酒粕まんじゅうです
「近大マグロ」など、沿線の素材をふんだんに使用した弁当
「近大マグロ」など、沿線の素材をふんだんに使用した弁当

車窓を眺めながら弁当を食べていると、列車は周参見駅に到着。列車はここで、行程中最も長い、1時間15分の停車となります。

1時間15分停車する周参見駅
1時間15分停車する周参見駅

周参見駅周辺は、山と入江によって形成されるリアス式海岸。山と山の間にある平地と、その平地に食い込む入江の周辺が、市街地となっています。駅から歩くと、ものの2~3分で海岸線に到達。近くには日帰り温泉を営むホテルがあるほか、駅ではレンタサイクルの営業があり、1時間程度の停車時間で思い切り周辺探検をすることが可能です。

駅周辺をちょっと探検。青く美しい海が出迎えてくれます
駅周辺をちょっと探検。青く美しい海が出迎えてくれます

周参見駅での休憩を終えた列車は、白浜駅、紀伊田辺駅、印南駅に停車。時には後続の普通列車に先を譲りつつ、のんびりした旅が続きます。長い停車時間には、乗務員の方と談笑することも。「紀伊田辺で食べられるもちもちした『もちカツオ』は絶品」という、地元を良く知る乗務員ならではの情報を聞くこともできました。

白浜駅は12分停車。改札口ではパンダなどの動物たちが出迎えてくれます
白浜駅は12分停車。改札口ではパンダなどの動物たちが出迎えてくれます
印南駅に停車。駅前の「かえる大橋」は、カエルが印南町のシンボルであることにちなんでいます
印南駅に停車。駅前の「かえる大橋」は、カエルが印南町のシンボルであることにちなんでいます

次第に車窓が暗くなっていく中、藤並駅を発車すると、4号車のフリースペースで、なにやらイベントが始まります。和歌山の特産品、みかんの販売です。

このイベントで並べられたのは、有田のみかんを使用したジュースやはちみつ、乾燥みかんチップなど。もちろん有田みかんも販売されています。ためしにみかんジュースを購入し飲んでみると……とても美味しい!野菜ジュースのような舌触りすら感じさせる濃厚さです。聞いてみると、本来は2回こす作業を、このジュースでは1回のみとし、とろみを出しているのだとか。

フリースペースのイベント。この日は有田のみかんなどの販売でした
フリースペースのイベント。この日は有田のみかんなどの販売でした
車内イベントで素敵なみかん等を持ち込んだ、株式会社みかんの会のお二人
車内イベントで素敵なみかん等を持ち込んだ、株式会社みかんの会のお二人

この日のイベントは藤並→海南間での開催でしたが、これは運転日によって毎回内容や実施区間が異なるとのこと。JR西日本 和歌山支社の堂本さんによると、それぞれの地域をPRするため、日替わりで実施しているということです。

海南駅、和歌山駅と停車し、いよいよ大阪近郊区間に入ると、夕食の時間です。この日の夕食は、「紀州味づくし みくまの弁当」。昼食同様に走行路線沿線地域の食材を使った弁当で、別れを告げる紀南の思い出とともに噛み締めます。

海南駅で特急「くろしお」を待避
海南駅で特急「くろしお」を待避
和歌山駅に到着。223系と並び、いよいよ終点に近づいてきた感があります
和歌山駅に到着。223系と並び、いよいよ終点に近づいてきた感があります
夕食の「紀州味づくし みくまの弁当」。
夕食の「紀州味づくし みくまの弁当」。

和歌山駅を発車し、紀勢本線から阪和線に入ったWEST EXPRESS 銀河は、これまでよりも速度を上げて走行。沿線の夜景が窓の外を流れていきます。ここでクシェットに移動してみると、まるでかつてのブルートレインB寝台のような光景。鉄道ファンにとっては懐かしい雰囲気が楽しめます。

クシェットの通路から見る車窓。かつてのブルートレインのようです
クシェットの通路から見る車窓。かつてのブルートレインのようです

日根野、天王寺、新大阪と停車する各駅は、ちょうど帰宅ラッシュの時間帯。通勤列車が発着する中に潜り込む紺色の車体は、やはり一般の利用者からも目を引くよう。「あれなに?」という顔を向ける方もちらほら見えました。一方、「ああ、あの列車か」という雰囲気の方もそこそこ。デビューから2年が過ぎたWEST EXPRESS 銀河は、関西圏の人には見慣れた列車となりつつあるようです。

2023年2月には地下化されてしまう梅田貨物線から、大阪駅付近の夜景を眺めます
2023年2月には地下化されてしまう梅田貨物線から、大阪駅付近の夜景を眺めます

新大阪駅からはWEST EXPRESS 銀河はJR京都線に入り、いよいよラストスパート。長い旅路で仲良くなった人たちとも別れ、最後の区間を力走していきます。そして列車は定刻通り、20時53分に京都駅31番のりばに到着。時計の短針がほぼ一周するほどの長い列車の旅が終わりを迎えました。

約11時間の旅を終え、京都駅に到着
約11時間の旅を終え、京都駅に到着
 

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