栃木県の宇都宮市と芳賀町では、8月26日に路面電車「芳賀・宇都宮LRT」(宇都宮芳賀ライトレール線)が開業しました。国内で、これまで路面電車が走っていなかった場所で新路線が開業するのは、1948年の富山地方鉄道伏木線(現在の万葉線の一部)以来、約75年ぶりのことです。
この芳賀・宇都宮LRTでは、行政が主体となって整備計画が進められました。8月26日、多くの市民から歓迎される中で開業した新路線。この裏側を、宇都宮市 建設部 LRT整備課 協働広報室の黑﨑さんに話を聞きました。
見た目は「専用軌道」でも実は……芳賀・宇都宮LRTの行政の取り組みとは
――まずは、芳賀・宇都宮LRTについての解説をお願いします。
芳賀・宇都宮LRTは、宇都宮駅東口から芳賀・高根沢工業団地までを結ぶ、全長約14.6キロの路線です。宇都宮駅から、商業施設である「ベルモール」付近、企業が集まる「清原工業団地」、ニュータウンである「ゆいの杜」などを経由し、本田技研工業(ホンダ)などを有する「芳賀・高根沢工業団地」に至ります。
運転時間帯は、宇都宮駅を発着する新幹線の始発・終電との接続を考慮しました。当初計画では、オフピーク時は約10分間隔で1時間あたり6本、ピーク時は約6分間隔で1時間あたり10本を運転することとしていました。しかし開業時点では、運賃収受などで時間を要すると考えられるため、オフピーク時は約12分間隔、ピーク時は約8分間隔と、余裕を持たせたダイヤとしました。実際の運行状況を見て、当初計画のダイヤとするタイミングを探っていきます。
また、開業時は各駅停車のみの運転となりますが、将来的には一部停留場を通過する「快速」も運転する予定です。開業時の段階で、既に設備類は快速運転に対応したものとなっています。
LRTの車両は、全長を可能な限り長くした29.520メートルとし、国内の低床式車両では最多となる定員約160人を実現しました。座席の幅も通勤電車なみの数値を確保した上で、座席数は50席を確保しています。
芳賀・宇都宮LRTでは、トータルデザインのコンセプトを「雷都(らいと)を未来へ」としました。芳賀と宇都宮は雷が多い地域である、ということと掛けており、雨を降らせ、稲穂を育てる雷のように、恵みを届ける、という意味を込めています。
車両のシンボルカラーは、コンセプトに則って黄色とし、外観のみならず、車内にも稲妻を表現した黄色を配色しました。加えて、ロールカーテンには伝統工芸である「宮染め」のイメージを表現し、一部椅子の床部分では「大谷石」をイメージするなど、沿線の地域性を取り入れています。
芳賀・宇都宮LRTでは、ICカードであれば全ての扉から乗り降りできるシステムを採用しました。全ての扉にICカードリーダーを設けるもので、30メートル級連接車両によるワンマン運転のLRT・路面電車では、日本初の取り組みです。乗降扉の位置を制限しないことで、乗降時間の短縮を図り、定時性の確保につなげています。
――最高速度は、他の路面電車と同じ時速40キロなのでしょうか。車両の性能上はスピードアップも可能なようですが、将来的な計画は。
法律で定められている時速40キロが最高速度です。法律で定められている速度なので、まずはこれを守っていくことになりました。車両の性能には余裕を持たせており、道路上ではない専用走行区間もあることから、将来的に速度を向上するということになれば、国と相談しながら検討を進めることになると思います。
――自治体としては、LRTの整備にどのように関わっているのでしょうか。
LRT事業のスキームについては、「公設型上下分離方式」という新しい事業方式を採用しました。レールの整備や車両の導入は宇都宮市や芳賀町が担当し、レールや車両の日常的な維持管理を含めた実際の運行業務は、宇都宮ライトレール株式会社が担うという構造です。自治体が担う部分は、考え方としては道路や公園と同じで、まちづくりに欠かせない持続性のある社会基盤として整備・保有しています。
この延長で、「鬼怒川橋りょう」などを始めとする、LRTクルマが並走しない区間、専用走行区間についても、市道として整備しました。LRTは誰でも利用でき、不特定多数の一般交通のために用いられることから、併用走行区間、専用走行区間とも、道路と同じ役割を担うという考えです。
また、細かい部分なのですが、一部の併用走行区間では、併走する市道とは別の路線として市道認定した場所もあります。これは、敷地の管理区分を明確にするためです。先にお話しした通り、芳賀・宇都宮LRTでは、施設を宇都宮市・芳賀町が整備・保有し、日常的な維持管理は運行を担う宇都宮ライトレール株式会社に委託しているので、併走する市道であっても、軌道敷については他の道路と区分しているのです。
――LRTの整備に至った経緯を、宇都宮市の視点でお聞かせください。
宇都宮市は、ほかの都市と同じように、人口増加とマイカー普及によって、市街地が拡大してきました。これにより、生活に身近な施設も拡散してしまっているのが現状です。今後、人口減少や高齢化が進行し、まちの密度が低下してしまうと、日々の暮らしの効率が悪くなってしまいます。これを改善するために、本市では「ネットワーク型コンパクトシティ」(NCC)というまちづくりを目指しています。
これは、すでにある街を、都市拠点、地域ごとの拠点、産業の拠点、観光の拠点など、それぞれの核として位置付け、これらを公共交通機関で結ぶというものです。それぞれのエリア内で日常生活に必要な機能が満たされ、市民生活や都市の価値を向上させることが狙いです。
コンパクト化に向けた市の取り組みとしては、マイホームの取得支援補助や住宅ローン金利補助といった政策を打ち出しています。
そして、NCCの形成に向けた公共交通機関の軸となるのが、今回開業するLRTです。地域内拠点を結ぶLRTに、市内の東西を結ぶLRTに、路線バスなどが枝葉のように接続するネットワークを形成します。私たちはこれを「魚の骨ネットワーク」と呼んでいます。
LRTの開業にあわせて、路線バスは路線を再編します。LRTと重複するバス路線を南北方向などに振り分けることで、公共交通空白地域の解消や、拠点間の連携強化を図ります。また、主要なLRTの停留場には、「トランジットセンター」を設けています。