新しい「大三元」ラインナップのレンズとしても
――静止画専門のユーザーからは、時おり「動画機能は不要だから削って、その分安くしてくれ」という意見が聞かれます。本製品は静止画・動画の双方に訴求した製品ですが、仮に静止画専用モデルとして開発した場合、価格を下げることはできるのでしょうか。
奥田さん:あくまで一般論ですが、専用モデルとして開発した場合、多少安くなる余地はあるかもしれません。ですが今回の製品は、静止画と動画の双方に対応するというコンセプトですので、そのような考えはありませんでした。
「RF24-105mm F2.8 L IS USM Z」の場合は、動画に対応させることで、静止画撮影の場面でもメリットがありました。たとえば、ズームリングを小さな力で回せる設計としたことによるメリットです。本製品に装着できるパワーズームアダプターは、外付けのモーターで電気的に駆動させるものです。ズーム操作の負荷が大きいと電池の消費が早くなるので、ズーム操作の負荷が小さくなるように設計しました。結果、静止画撮影時にも、24mmから105mmまですばやくズーミングできるというメリットが生まれています。
家塚さん:動画兼用レンズという部分でお話しすると、「RF24-105mm F2.8 L IS USM Z」では、他のRFズームレンズと異なり、ズーミング時に全長が変化しない方式(インナーズーム)を採用しています。これは、様々な動画用アクセサリーを組んでいく際の操作性を考慮したためです。また、映像制作の現場では、レンズの全長が変化すると、特にカメラと演者の距離が近い場合には、演者はこれが気になるそうです。そのような「撮られる側」へも配慮した、動画用レンズの基本を守ったレンズとして開発しています。
――キヤノンの動画用レンズには、「CINEMA EOS」というブランドがあります。「RF24-105mm F2.8 L IS USM Z」は動画に振った製品ですが、CINEMA EOSとは何が異なるのでしょうか。
家塚さん:現在の動画制作の世界では、省人化やダウンサイジングが進んでいます。たとえば報道関係では、一人で静止画と動画の両方を撮影することもありますし、動画クリエイターの方々でも、ワンマンオペレーションや少人数チームで制作することが増えています。そのような動画撮影という場面において、RFレンズとCINEMA EOSの立ち位置は、だんだんと近づいてきています。
しかし、映画などを撮影するCINEMA EOSのユーザーのみなさまに十分な満足を、となると、やはりRFレンズとCINEMA EOSには明確な違いがあります。製品のターゲットが異なるためです。実際にCINEMA EOSレンズをご愛用いただいている方々は、指1本の微妙な力具合でフォーカスや絞りを繊細にコントロールできることなどをレンズに求めています。
この「RF24-105mm F2.8 L IS USM Z」は、従来のシネマレンズと比べると、リングのゴムのパターンや、フォーカスリングのつくりが違うと感じるはずです。もしもこのレンズをいわゆるシネマレンズとしてラインアップするならば、細かい点で仕様は異なると思います。
――本レンズはポートレート用途や動画用途という印象が強いのですが、鉄道などの「動きもの」ではどうでしょうか。
家塚さん:もちろん、動きものでの撮影にもご活用いただけます。本レンズでは、高速でオートフォーカスができる超音波モーター「ナノUSM」を搭載しています。また、F2.8という明るいレンズでもあるので、たとえば室内で選手が激しく動くスポーツのシーンでも、存分に撮影できます。
「RF24-105mm F2.8 L IS USM Z」は、先ほどお話しした通り、動画やポートレートを撮影される方々をメインターゲットとして開発しました。とはいえ、それ以外の方々に注目されないのは、非常に勿体ないと感じています。「RF24-105mm F2.8 L IS USM Z」となると、「RF24-70mm F2.8 L IS USM」よりレンジが広い分、描写力に劣るのではと思われるかもしれませんが、実際には性能に大きな差はなく、非常に優れたレンズとなっています。
RFレンズのF2.8固定のズームレンズとしては、これまで「RF15-35mm F2.8 L IS USM」、「RF24-70mm F2.8 L IS USM」、「RF70-200mm F2.8 L IS USM」の3本を取り揃えていました。これらはいずれも、コンパクトでIS(手ブレ補正機構)を搭載した製品となっています。2023年には「RF100-300mm F2.8 L IS USM」と「RF24-105mm F2.8 L IS USM」という新たなF2.8 Lズームの選択肢が加わりました。ミラーレスカメラ用レンズで、F2.8固定で300mmまですき間なくラインナップしているのは、現時点ではキヤノンだけです。これらは特にスポーツ関係のフォトグラファーにとって魅力的だと考えています。
また、弊社の開発部門には鉄道好きの社員がいるのですが、彼によると「標準ズームレンズでこの24-105mmというレンジがあれば、風景と絡めて撮る際にはとても便利だ」ということです。また、「暗い場面でもF値が明るいので、ISO感度を上げることなく、ノイズが少ない写真が撮れる」というメリットもあると話していました。ぜひこのような場面でご活用いただければと思います。
――「RF24-105mm F2.8 L IS USM Z」の話とは変わりますが、キヤノンでは今後、どういった製品を展開していく予定なのでしょうか?
家塚さん:キヤノンでは、2018年にミラーレスカメラ用のEOS Rシステムを発表してから、これまで約40本の交換レンズを発売してきました。ですが、まだまだ世に送り出せていないレンズはたくさんあります。具体的な内容はお話しできないのですが、ベーシックな仕様のレンズもありますし、これまでになかった、誰もまだ想像できないような仕様のレンズもあります。これらをバランスよく開発を進めていきたいと考えています。
また、これまでの一眼レフカメラやミラーレスカメラは、静止画撮影の用途が先行していました。ですが、今のミラーレスカメラでは、動画が撮れることが当たり前です。静止画、動画問わず、みなさまに気持ちよく使っていただけるようなレンズのシステムを、今後も開発していく予定です。
キヤノンはカメラの歴史はありますが、ミラーレスカメラへの参入は後発でした。それでもキヤノンブランドが好きで使っていただいている皆様に、やはり一番いいものを届けたいという思いがあります。EOS Rシステムを、一番いい選択肢を持っているシステムにしたいと考え、今後も製品を展開していきます。