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スーパーミドル機「Z6III」、鉄道撮影での実力は? フラッグシップの「魂」を受け継ぐニコン新型ミラーレス

2024年9月7日(土) 鉄道カメラマン 助川康史

動体の視認性抜群! ~「準」ブラックアウトフリーEVF~

部分積層CMOSセンサーのおかげで実現したもう一つの機能が、「準」ブラックアウトフリーEVF(電子ビューファインダー)の搭載です。

通常のCMOSセンサーを搭載したカメラでは、ブラックアウト時(視認用ミラーが上がった時や、CMOSセンサーが撮影のための露光中)はファインダーが暗くなったり、EVFでは止まった画像が表示されます。また、ミラーレス一眼では、EVFの表示タイムラグも課題でした。一方、読み出し速度が速い積層型CMOSセンサーではこれを解決!EVFの表示性能に革命をもたらしたのです。

ニコンでは、既にZ9とZ8でブラックアウトフリーEVF「リアルライブビューファインダー」を搭載しています。両機とも完全な積層型CMOSセンサーを搭載しているので、EVF表示も段違いの速さを誇ります。そのためEVFの表示タイムラグが非常に少なく、何より高速シャッターでの高速連続撮影中は連写しているにもかかわらず、EVFでは動画を見ているかのように滑らかに表示されます。

Z6IIIではなぜ「準」がつくのかというと、先述した通り、この製品では部分積層CMOSセンサーを搭載したため。読み出し速度は積層型CMOSセンサーよりも若干遅いため、完全なブラックアウトフリーEVFではありません。しかし、鉄道写真撮影においてのパフォーマンスは積層型CMOSセンサーとなんら変わらず、動体の視認性が抜群なEVFを体感できます。

そして、この「準」ブラックアウトフリーEVFが活きる撮影と言えば、やはり「流し撮り」でしょう。

「『準』ブラックアウトフリーEVF」が活きる「流し撮り」
「『準』ブラックアウトフリーEVF」が活きる「流し撮り」

私の連載「助川康史の『鉄道写真なんでもゼミナール』」でも何度も取り上げた流し撮りですが、EVFを採用したミラーレス一眼となってからは、先述した表示性能のために、流し撮りは非常に難しくなってしまいました。まだ光学ファインダーである一眼レフの方が、ブラックアウトはするものの、動く被写体を追いかけやすかったのです。

ミラーレス一眼でも、たとえば先代のZ6IIは連写速度を最高速にしないことで、一眼レフカメラのブラックアウトに似た状況を作り出し、EVFのタイムラグ表示を改善させるなど、各メーカーでも様々な方法で動体を追いかけやすいEVFの開発に力を注いだという経緯があります。

しかし、ブラックアウトフリーEVFの登場で、その難題も一気に解消し、今では一眼レフよりも被写体を追いかけやすい機種が続々と登場するまでになりました。だからこそ、鉄道写真では流し撮りが非常に撮りやすくなったのです。

Z6IIIのEVFも、流し撮りはお手の物。今まで失敗することを恐れて流し撮りを敬遠してきた人でも、流し撮りを決めることは容易になるに違いありません。カメラの性能が上がると撮影者の腕が落ちると考える人もいますが、私はそれは無いと考えます。Z6IIIの「準」ブラックアウトフリーEVFは、今まで流し撮りに苦手意識を持っていた人にも挑戦するきっかけを作ってくれます。流し撮りを覚えれば表現力が大きく広がること、間違いありません。

鉄道の被写体検出と高精度AFの融合! ~笑ってしまうほど驚くピント合わせの性能~

鉄道写真撮影を嗜む人にとって、Z9やZ8に搭載された「被写体検出『乗り物』」は、実際に使って驚いた方も多いでしょう。その「乗り物」を含む9種類の被写体検出機能が、Z6IIIにも惜しげもなく搭載されました。

鉄道車両を含む乗り物を認識し、ピントを確実に合わせてくれる「被写体検出機能」!
鉄道車両を含む乗り物を認識し、ピントを確実に合わせてくれる「被写体検出機能」!

先代であるZ6IIの被写体検出モードは、人物の顔(瞳検出)や犬、猫のみ。鉄道だけでなく乗り物系は、すべて通常のAF(オートフォーカス)システムを使用しており、AF精度に不満を持つ人がいたのも事実です。

ちなみに、Z6IIをお持ちの方で「AFがイマイチ……」と感じている方は、AFポイントは被写体の縦ラインの模様や縦方向のディテール部を狙いましょう。また、連写設定を「高速連続撮影(拡張)」に設定する場合は、絞りをF8よりも開放(F5.6やF4など)に、絞りをF8以上に絞りたい場合は、連写設定を「高速連続撮影」にしてください。理由を書くとかなり長くなってしまうので割愛しますが、これはニコンミラーレス一眼の像面位相差AFシステムを理解した上での設定であり、飛躍的にZ6IIのAF精度は上がります。これはニコンの開発の方にもうかがったAFテクニックであり、私はこの設定で通常の撮影を難なくこなしていました。

さて、話を戻しますが、はっきり言うとZ6IIIはこれら厳密な設定をしなくとも、鉄道写真撮影、特に編成写真撮影では、列車の先頭部に確実にピントを合わせてくれるようになりました。

列車の顔が撮像面内である程度大きくなると、AFポイントは別に、被写体検出の大きい白枠が出ます。2つの枠が近くなったところでAFを開始すると、大きな黄色の枠になり、列車の顔と認識。シャッターボタンや「AF-ON」ボタンを押し続けると、列車の動きに合わせて枠が動きながらピントを合わせ続けてくれます。この安心感たるや半端ないです(笑)。特に、高圧縮構図の望遠撮影では、正確な「起きピン」は難しいもの。望遠撮影では、列車の顔にピントを合わせるのが美しい編成写真撮影の成功のカギとなります。昔は「正確無比なピント合わせができればプロ」と言われた時代もありましたが、それをZ6IIIはバッチリこなしてくれるのです。

Z6IIIで撮影した特急「ゆふ」。高精度なAFにより、先頭部にピントがしっかりと合っています
Z6IIIで撮影した特急「ゆふ」。高精度なAFにより、先頭部にピントがしっかりと合っています
上の「ゆふ」を撮影した際のEVFをキャプチャーしたもの。先頭部にピントが合っている箇所を示す黄枠が表示されています。カメラが列車の顔を判別し、シャッターボタンなどを押せば、自動でピントを合わせ続けてくれます
上の「ゆふ」を撮影した際のEVFをキャプチャーしたもの。先頭部にピントが合っている箇所を示す黄枠が表示されています。カメラが列車の顔を判別し、シャッターボタンなどを押せば、自動でピントを合わせ続けてくれます

ただ、被写体検出はあくまでピント合わせをする場所をカメラが認識するための機能。それを活かすのは、やはり高速&高精度なAFが必要になりますが、Z6IIIはその点も抜かりはありません。Z9やZ8を上回る-10EVの暗さまで検出可能なAF能力を備え、露出の厳しい悪条件下の鉄道写真撮影で威力を発揮します。Z6IIIの被写体検出(乗り物)&高精度AFを目の当たりにすれば、Z9やZ8を持っている人は安心感を、Z6IIやその他Zシリーズを持っている人、そして初めてのカメラとしてZ6IIIを購入した人にとっては笑ってしまうほど驚くでしょう(笑)。それほどZ6IIIは驚愕のAFシステムを搭載しているのです。

ここで、Z6IIIのAFを活かすポイントを一つ。AFエリアモードはいくつかありますが、編成写真や動く被写体を大きく狙って撮る場合は「3D-トラッキング」がオススメです。「3D-トラッキング」は、被写体のディテールだけでなく、一度捉えた色を記憶して追い続けます。それが、より精度の高いAFを約束します。Z6IIにも「ターゲット追尾AF」という名の似たようなAFエリアモードがありますが、これは被写体のディテールのみを検出して動作するものでした。これと比べると、色までも検出対象となった「3D-トラッキング」の能力は、非常に優秀です。

高感度特性と画素数の魅力! ~上位機種ユーザーでも気になる「ちょうどいい」スペック~

Z6シリーズといえば、他のZシリーズに比べて高感度特性が高く、ハンドリングの良い有効画素数2450万画素が特徴です。

有効画素数約2450万画素のセンサーを搭載したZ6III。Z9・Z8より画素数は劣りますが、Z6IIIには取り扱いやすい画素数というメリットがあります
有効画素数約2450万画素のセンサーを搭載したZ6III。Z9・Z8より画素数は劣りますが、Z6IIIには取り扱いやすい画素数というメリットがあります

先行して登場した上位機種のZ9やZ8は、高機能でありながら有効画素数4571万画素という飛びぬけた高画素機。特にZ9は、それまでフラッグシップ機の専売特許だった「高速連写&高速AF」を必要としなかった風景写真や静物写真を嗜む人たちに対しても、魅力的に見える機種に仕上げてきました。もちろん、鉄道写真撮影でも編成写真から鉄道風景までこなしてくれる、スーパーオールラウンダーです。

しかし両機種は、画素数が多い分、データ量も多く1回で数千枚撮影する取材ではオーバースペックな感もありました。また、編成写真も2000万画素クラスでも十分な解像度があるので、納品時は解像度を落として納品することも。さらに、常用感度の上限がISO25600とやや低めの点も少し気になってはいました。私としては、以前から高感度特性が高くて2000万画素クラスのZ6シリーズの後継機を望んでいただけに、Z6IIIの発表は「待ってました!!」と喜んだものです。

Z9やZ8のユーザーにとっても、コンセプトの違うZ6IIIの存在はとても魅力的です。特に常用感度がISO100~64000と、Z6IIのISO51200よりも上限が上がっています。ダイナミックレンジはZ6IIと同じレベルと分析されていますが、どのように美しく超高感度の画像を処理するかは、画像処理エンジンの能力がカギになります。

Z6IIは、画像処理エンジン「EXPEED6」を2つ積んだ「デュアルEXPEED6」を搭載。これでもAF性能や高速連続撮影、そして高感度特性は優れた機種に仕上がっていました。一方、今回のZ6IIIでは、上位モデルであるZ9やZ8と同じ「EXPEED7」を搭載!画像処理エンジンは後継型の方が飛躍的に性能が上がるため、Z6IIIは今までのZ6シリーズと一線を画す「ネオスタンダード」を生み出したと言っても過言ではありません。EXPEED7がこなす超高感度撮影の処理性能は期待以上のもので、ノイズリダクションがカラーノイズの発生を良好に抑えつつも、ディテールやコントラスト、彩度の低下が少ない美しい超高感度撮影が可能になりました。Z6IIIは、今まで以上に思い切った超高感度撮影ができます。

上位モデルと同じ画像処理エンジン「EXPEED7」を搭載したZ6III。今まで以上に思い切った超高感度撮影が可能となりました
上位モデルと同じ画像処理エンジン「EXPEED7」を搭載したZ6III。今まで以上に思い切った超高感度撮影が可能となりました

鉄道写真は、夕暮れ時や降雨時の暗いシーンで高速シャッターを使って撮影することもよくあります。そんな悪条件下の撮影でも、Z6IIIはより美しい鉄道写真を撮ることができるのです。鉄道写真愛好家にとっては最高の相棒になること請け合いです。

 

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