営業用車両が「お医者さん」に⁉
ドクターイエローのような専用車両ではなく、営業用車両に検測機器を搭載して対応する会社もあります。
JR九州の九州新幹線では、2004年の開業時、営業用車両の800系の一部で、検測機器の搭載が可能な設計としていました。現在は対象編成が変わっていますが、同様に800系の一部編成が検測対応編成です。西九州新幹線でも、N700Sの5本中3本が、検測対応編成となっています。いずれも、ドクターイエローのような専用車両を導入するほど路線が長くないため、営業用車両と検測車両を兼ねたものが導入された形です。なお、九州新幹線は2011年に山陽新幹線と線路がつながりましたが、九州新幹線(博多南線との共用区間を除く)にはドクターイエローは入線していません。
East iを導入しているJR東日本ですが、営業用車両であるE5系U28編成にも、検測機器を搭載しています。これは、East iの検査時にも検測を継続できる体制を整えるため。北陸新幹線用のJR西日本W7系でも、2本が同様に検測機器を搭載しています。なお、かつてはE7系F10編成も検測機器を搭載していましたが、この編成は2019年の台風19号による長野新幹線車両センターの浸水被害で被災し廃車となってしまいました。その結果か、普段はもっぱら東北・北海道新幹線を走るE5系ですが、East iが検査入場した時などに限り、U28編成が検測列車として上越新幹線を走る姿が見られます。
JR九州では、「列車巡視支援システム」や「電車線路モニタリング装置」を搭載した811系「RED EYE」を導入しています。こちらは軌道や電気設備の点検など、係員の目視巡回で実施していたものをカメラに置き換えるための車両。列車動揺や支障物といった線路周辺の状態を自動判定する技術も採用しています。
このほか、山陽電気鉄道の3000系、京成電鉄の3000形やAE形、京浜急行電鉄の600形といった私鉄の営業用車両にも、架線の検測機器を搭載した編成が存在します。いずれも普段は旅客列車で使われていますが、時おり専用の検測列車として運転されています。
JR東日本では、営業用車両の床下に搭載する「線路設備モニタリング装置」を、同社管内の電車が走るほとんどの区間に導入しています。この機器は、営業列車としての運転中に線路の状態を確認し続け、データとして取得します。1日に何往復も走るため、高精度なデータの取得が可能なのが特徴で、これにより最適な時期に軌道を補修することが可能になったといいます。同様のシステムは他の事業者でも導入されており、特にJR東日本、小田急、東急、東武、相鉄、東京メトロなどでは、同装置を活用した保線管理システム「RAMos+」を導入している、あるいは今後導入することを発表しています。
ドクターイエローを置き換えるJR東海では、先述したように、営業用車両のN700Sに、検測機器を搭載します。これまでは検測専用の臨時列車としてドクターイエローを運転していましたが、この機器を搭載した編成では、旅客を乗せて走りながら、軌道や周辺設備の状態を検査することが可能となります。JR在来線のように路線が多い会社では事情が異なりますが、新幹線や一部私鉄のように走る路線が限られている場合は、今後は専用の検測車両を用意する必要性は少なくなっていくのかもしれません。