撮影に出かけて素晴らしい鉄道写真が撮れたなら、PCの液晶で見るだけではなく、ぜひプリントして作品として仕上げてみたいものだ。写真展などで展示されている目の覚めるような素晴らしい作品はいったいどのようにして生み出されているのだろうか。鉄道写真家 中井 精也先生の作品づくりの秘密に迫ってみた。
2ページ目の最後には、中井先生が本コンテンツのために特別に撮り下ろしてくださった『1日1鉄!』鉄道コム出張版も掲載。
講師:中井 精也 レポート:シバタススム
中井先生が作品づくりに使う、エプソン「PX-5002」。A2ノビ対応のフラッグシップ機ではあるものの、一般ユーザーでも手の届く価格帯だ。
プリンターを使って撮影した写真をプリントしているが、どうも色が悪い、絵が眠いなど、うまく作品を作れないことがあるだろう。例えば写真展で中井先生の作品を見たときに、自分の作品と出来映えに差があるのは、中井先生が普通のユーザーでは手に入らないような高価なプリンターや、印刷に1枚何万円もするような印刷所を使っているに違いないと思うかも知れないが、決してそうではない。中井先生が作品づくりに使っているのは、プリンターメーカーとしてはお馴染みのエプソン製プリンターだ。中井先生は長年エプソンのプリンターを愛用している。さすがにプロの作品づくりだけあり、使用している機種はA2ノビ対応のフラッグシップ機「PX-5002」だ。年賀状の印刷に使うような一般的なプリンターと比べると数倍の価格差はあるが、決して一般のユーザーが買えない製品ではない。本当にプロの作品がそれでできるのか? と思うかも知れないが、そこにはプロだからこそのノウハウがあるのだ。中井先生がどのようにしてエプソン「PX-5002」で作品を作っているのか、その奥義の一端を手順を追って解説していく。
まずこの作品を見て欲しい。これは中井先生が北海道 日高本線で撮影したものだ。使用したカメラは中井先生のお気に入りのひとつペンタックス「K-7」。中井先生がK-7を鉄道写真に使う理由の1つがその色の表現力だ。作例では夕日が鉄橋を渡るキハ40の背後に掛かり、北海道仕様独特の小窓の美しいシルエットが浮かび上がっている。このように微妙な夕日のトーンを忠実でコクのある色合いに仕上げてくれるのがK-7の魅力のひとつだ。
日高線は苫小牧駅~様似(さまに)駅間の146.5kmを走る路線だが、地方ローカル線ということもあり、本数が極端に少ない。平日では苫小牧駅から終点の様似駅まで行く列車は1日5本しかなく、途中の鵡川(むかわ)駅や静内(しずない)駅までしか運行しない列車を含めても、ほぼ1~2時間に1本あるかないかといった運行本数だ。その少ない本数にも関わらず、このように夕日と列車が重なった絵が撮れるのは、中井先生ならではの神業的なタイミングだ。しかも、偶然ではなくこのタイミングを予め狙っていたとのこと。これだけでも既に作品として完成している感はあるが、さらに完成度を高めていく必要があるという。
まず、作品の完成度を高めるために適切な環境を整えることが必要だ。中井先生によると、エプソン「PX-5002」で作品づくりをする場合、カメラ設定も重要とのこと。ポイントとしては、色域をAdobe RGBに設定し、RAWデータを記録できるように設定しておく必要がある(RAWデータとJPEGデータを同時に記録する設定にしてもよい)。RAWデータで記録することで、上の作品のように微妙な色合いのグラデーションがある画像をプリントする場合に滑らかな階調表現を可能にしてくれる。JPEGデータでは8ビットの階調表現になるため、色の明るさは256階調しか表現できないが、12ビットのK-7はRAWデータで撮ることで4095階調の表現が可能になる。プリントした作品のグラデーション部分に色の段差ができてしまうという場合には、カメラとプリンターが8ビット処理していることが起因する場合があるため、このようにRAWデータの12ビットデータを使用することで軽減することができる。
中井先生は作品づくりをするご自宅でAdobe RGB環境を構築しているため、P-7000はもっぱらバックアップストレージとして使用しているが、ノートPC用の外部モニターとしてAdobe RGBの発色を見ることもできる。
また、カメラの色域設定をAdobe RGBにすることで、sRGBと比べて青系や緑系の発色を増やすことができる。「PX-5002」はAdobe RGBの出力に対応しているため、一般的なプリンターで出力するよりも作品の色表現がより豊かになる。もちろん、元データがsRGBの色域しか持っていなければ、Adobe RGBのプリントに対応していても、Adobe RGBの発色をすることはできないので、撮影時のカメラ設定は重要だ。他にもレタッチに使用するPCの液晶ディスプレイにはAdobe RGBの色域カバー率が高い製品を選ぶようにする。こうすることで、撮影からレタッチ、プリントまで一環してAdobe RGBの豊かな色表現環境で作品づくりができるようになる。よりよい作品を作るためには、このようにカメラやプリンターをうまくチョイスして適切に設定することで作品づくりの環境を揃え、階調表現や色域表現能力が高い画像データの処理を一環してできるようにすることが重要だ。中井先生はペンタックスK-7とエプソン「PX-5002」を上手く組み合わせてこのような環境を構築している。
なお、中井先生の場合にはご自宅にしっかりとAdobe RGBの色域が表示できる環境を作っているが、ノートPCのユーザーや宿泊先のホテルなどでノートPCを使って写真を確認したい場合には、エプソンのフォトビューアー「P-7000」が役だってくれる。「P-7000」は搭載している液晶がほぼAdobeRGBの色域をカバーしており、PCに接続することで外部ディスプレイとして使うことができる。ノートPCの液晶ディスプレイはsRGBすらも表示できない製品が多いため、「P-7000」を使うことで、外出先やノートPCユーザーでもAdobe RGBの色域で写真を見ることができる。
AdobeRGBと12ビットのRAW撮影に対応しているため、PX-5002を使ったAdobe RGB色域での作品づくりに威力を発揮できる。上の中井先生の作品はK-7で撮られたものだ。夕闇というカメラにとっては難しい環境でも優れた描写力と豊かな色表現の撮影ができる。これを見るだけでK-7の底力がわかるというものだ。
SLばんえつ物語号を牽引するC57180の黒い車体に立体感を出しつつ、周囲の緑の色も飛ばしていないところがK-7の底力を感じさせる作例だ。(画像をクリックすると拡大します)
160GBのバックアップストレージだが、USBケーブルでPCに接続するとサブモニターとしても使うことができる。しかも、液晶はAdobe RGBの色域をほぼカバーしているため、ノートPCなど色域の狭い液晶しか使えない環境でも、Adobe RGBの色域を確認することができる。
中井 精也(なかい せいや)
鉄道写真家の真島満秀氏に師事。雑誌、広告撮影のほか、テレビ出演、「JAL旬感旅行」の鉄道写真ツアー講師など幅広く活躍している。2004年春から毎日必ず一枚鉄道写真を撮影する「1日1鉄!」(ブログ)を更新中!
鉄道の旅の臨場感を感じさせる写真を撮りたいといつも考えている。
社団法人 日本写真家協会(JPS)会員
日本鉄道写真作家協会(JRPS)副会長
ブログ『1日1鉄!』>>
・写真展「ほのかたび」
4月末より東京 新宿の「ペンタックスフォーラム」にて中井先生の写真展が開催されます。
詳しくはこちら >>
上野駅は常磐線、高崎線、宇都宮線と北へ向かう中距離を走る3路線のターミナル駅となっている。この3路線では、E231系、E531系など新系列の通勤電車の導入が進んでおり、同じくE231系に統一された山手線、E233系に完全に置き換えられた京浜東北線と合わせると、新系列通勤型車輌のメッカとも言える場所だ。