幅広い鉄道趣味分野の中で、列車への乗車と共に大きな勢力を占める鉄道写真撮影。写真を撮るには、プロも使うハイエンドカメラを持たずとも、入門機やコンパクトカメラ、さらにはスマートフォンでも可能なため、その入口はとても広いものとなっています。
しかしながら、写真の世界に足を踏み入れた際に悩むのが、写真の撮り方。シャッターを切ることは誰でも簡単にできますが、構図や設定などを考慮した、綺麗な写真を撮ることを目指すならば、講師からの指導を受ければ、独学よりも上達のスピードが速くなります。
そこでぜひ活用したいのが、さまざまな組織が開催している写真撮影講座。特にカメラメーカーが開催する講座では、プロカメラマンの指導のもと、写真の撮り方やマナーといった撮影術のほか、それぞれのメーカーの機材についても詳しく教えてくれる点が魅力です。
日本の光学機器メーカーとして高いシェアをほこるニコンでは、全国7都市で「ニコンカレッジ」を開催しています。今回はこのニコンカレッジにて開催された講座「鉄道写真の基本を習得! 鉄道写真入門講座」を取材しました。ニコンカレッジでは、講座によって開催日数が異なります。今回の鉄道写真入門講座では、1日目に撮影講座、2日目に撮影実習、3日目に評価・振り返りという3日構成での開催でした。講師は、鉄道写真家の助川康史さんです。
鉄道写真の基本「編成写真」と、風景がメインの「鉄道風景写真」
1日目は、撮影技法や構図を説明。助川さんが「鉄道写真の基本中の基本である」と語る編成写真や、風景写真などを撮影するための方法が解説されました。
編成写真では、鉄道車両の記録的要素が求められます。そのため、列車の先頭から最後尾までがフレームに収まり、背景が綺麗で電柱も被らない、かつ足回りもしっかりと入る場所での撮影が重要なのだそう。撮影条件は晴天時が望ましく、しっかりと列車の顔に太陽が当たる場所や時間を選べればなお良いです。
ただし、曇りでももちろん撮影は可能。曇り空を背景に入れてしまうと白い空が目立ってしまうため、俯瞰気味、あるいは望遠で撮影することで、車体がくすんで見えてしまうことを防げます。「晴れは晴れの撮り方、曇りは曇りの撮り方、雨は雨の撮り方がある」のだといいます。
使用するレンズは、2両から6両程度なら、左右の空間が均等かつ開きすぎないように標準レンズで。長編成では望遠レンズを使用して、編成全体がフレーム内に収まるように圧縮します。さらに助川さんは車両の形によってもレンズを使い分けているといい、鼻が長い新幹線のような車両であれば標準で俯瞰気味に、逆に箱形の車両なら望遠で顔を四角く写すようにしているそうです。
車両の重心は低めに。「車両を見せたくて車両中心を画面の中心に持ってくる人は多いですが、それでは不安定な写真になる」と解説した助川さん。「風景写真のようなドキドキ感が求められない編成写真では、重心を低くすることで、安定性や列車の重厚感を見せることができる」といいます。
撮影時に考慮する必要があるのは、列車の速度。時速100キロで走る列車は、1000分の1秒で3センチ移動しています。これをふまえ、ブレない写真を撮影するには、標準レンズではシャッタースピードを2000分の1秒や4000分の1秒に設定すれば問題ないそう。
ピント合わせは、シングルAFサーボ(AF-S)などのような、シャッター半押しでオートフォーカス(AF)を一度だけ合わせる設定を使い、ピントを列車が来る位置に「置いて」おく「置きピン」が基本。AF設定が変えられない機種でも、マニュアルフォーカス(MF)に設定できるカメラであれば、AFで位置合わせをした後にMFにすることで、ピント位置を動かさず置きピン状態にすることができます。
また、置きピンをしたいけどピント位置がわかりにくい、という場合には、シャッターを半押ししている間はAFを動作しつづけるコンティニュアスAFサーボ(AF-C)で、「ターゲット追尾AF」を使用する、というような、ピント合わせをカメラ任せにする手法もあります。
助川さんは、「置きピンでピントを合わせる位置は、標準レンズでは列車の頭より少し後ろ、望遠レンズなら台車が来る場所がベスト」と解説。ターゲット追尾AFでは、列車の頭が来るだろう場所にフォーカスポイントを置いておけば、自動で列車を追尾してくれるということです。
もう一つの鉄道風景写真は、車両は副題で風景が主題となるもの。助川さんは、「風景の中に列車を小さく、ただし『ウォーリーを探せ』のように米粒になるのではなく、しっかりと見えるくらいのサイズで置く、メリハリをつけた構図が重要」だと説明しました。
風景写真でまず考えられるものとして、助川さんは「日の丸4面構図」を解説しました。画面を4分割し、うち1つの枠で中心に被写体が来る「日の丸構図」を組んだものです。鉄道写真だけでなく、他の分野の撮影でも活用できる黄金バランスなのだとか。鉄道写真の場合には、列車の進行方向が画面中心向きとなっていると、安定した構図となるということです。
日の丸4面構図が難しければ、次に試すのが「三分割構図」。画面を上下に三分割し、上3分の1か下3分の1の位置に地平線・水平線を置くのが基本です。ただし、湖や水田に反射した被写体を共に撮る「水鏡」の場合は、地平線・水平線は画面の中心に配置すると安定感が生まれます。
三分割構図でもダメな場合は、メインの被写体と列車を対角線上に置く「対角線構図」。太陽や桜など、メインとなる被写体を列車の対角線上に配置し、重心を画面の真ん中に置く構図です。
これら3つの構図を試した上で、どうしても上手くいかない場合はどうすればいいのでしょう。助川さんは「自分がパッと見て安定している構図にすればいい」とアドバイス。無理にセオリーにこだわりすぎると、逆にバランスが崩れた写真になってしまいます。そのため、「セオリーは覚えておいて、上手く撮れなければ別の方法を試して、それでもダメなら崩すという消去法で、安定した構図を目指す」のがベストだと説明していました。
さらに助川さんは応用編として、「ハーフNDフィルター」を活用した撮影法も解説しました。NDフィルターとは、レンズに入る光の量を抑えるもの。通常のNDフィルターは、シャッタースピードを落とすことができない明るい空間で装着することで、シャッタースピードを落として流し撮りやボケが生まれた写真の撮影をする際に使用するものです。ハーフNDフィルターとは、文字通りフィルターの半分がこのNDフィルターになっているもの。空のような明るさの差が大きい場面で使用することで、たとえば普通に撮るだけでは白飛びしてしまう空の青さを、はっきりと映し出すことができます。