3月21日に、富山駅の南側を走る路面電車の富山地方鉄道富山軌道線と、同駅北側を走る富山港線が直通運転する「南北接続」が始まった富山市。「鉄道王国」と呼ばれることもある富山の路線が、また1つ新たなステージへと踏み出しました。
都道府県別の人口ランキングでは37位(2015年国勢調査結果)と、決して人口が多いわけではないものの、多くの路線が走る富山県。路面電車に加え、県内各地へ路線を延ばす私鉄路線、トロッコ電車など、鉄道好きにはたまらないエリアです。
今なお成長中、富山県を走る路面電車たち
富山県では、2つの事業者によって路面電車も運行されています。そのうちの1つが、富山地鉄による富山軌道線と富山港線。富山市街地や富山市北部を走る、総延長15.2キロの路線です。
富山軌道線は、かつては網の目のような路線網を持っていましたが、モータリゼーションの進行により、1970年代より路線を次々と短縮していました。しかし2004年には環状線「富山都心線」が開業したほか、2015年には高架化した富山駅の直下へ新たに軌道を敷設し、乗り入れが始まっています。
富山港線は、2006年まではJRの鉄道線だった路線です。同線の存廃が検討される中、路面電車スタイルの車両が、市街地は道路上の併用軌道を、郊外では専用軌道を走る「LRT」化する案が持ち上がり、第三セクターの富山ライトレールに事業譲渡して生まれ変わった経歴を持ちます。富山ライトレールは、3月21日の南北接続を前に富山地鉄と合併しており、現在は富山港線は富山地鉄の1路線となっています。
そして、もう1つの路面電車が、富山県西部の高岡市や射水市を走る万葉線です。こちらの路線も、LRTとは呼ばれていませんが、富山港線と同じように併用軌道区間と専用軌道区間の両方を持っています。
万葉線は、もともとは富山地鉄が建設した路線です。1959年に併用軌道区間が、1966年に専用軌道区間が、それぞれ子会社の加越能鉄道に譲渡されていましたが、経営悪化による存廃問題の影響で、2002年に第三セクターの万葉線として再出発した過去があります。
万葉線では、第三セクター移管後に導入された低床車両MLRV1000形が主力。6編成を導入しており、うち1編成は「ドラえもん」原作者の藤子・F・不二雄が高岡市出身であることにちなみ、ラッピング車両「ドラえもんトラム」として運転されています。また、加越能鉄道時代に導入された車両もまだまだ現役で、うち1両は加越能鉄道時代の塗装を再現した「レトロ電車」として4月まで運転されています。
海から山まで、さまざまな観光列車
急峻な地形が際立ち、日本最急勾配の河川である常願寺川のような落差の大きい川が多い富山県は、ダムによる電源開発が戦前から盛んでした。
黒部川が流れる黒部峡谷では、大正時代より電源開発が始まりました。1923年、後に5大電力会社として数えられることとなる日本電力が、建設資材運搬用鉄道の建設に着手。1926年から1937年にかけて、宇奈月~欅平間の路線を順次開通させていきました。現在の黒部峡谷鉄道本線です。
工事用として建設されたこの路線ですが、当初より地元住民や観光客の需要があり、便乗といった形で乗車が許可されていました。1953年には増え続ける観光客の需要に応え、当時この路線を保有していた関西電力が地方鉄道法の許可を得て、「黒部鉄道」として営業を開始。1971年には鉄道専業事業者の子会社として黒部峡谷鉄道を設立し、事業を譲渡しました。現在は「トロッコ電車」の愛称で親しまれており、自然が作り上げた黒部峡谷の絶景や、開放感のあるトロッコ客車といった要素が人気を集め、年間約65万人(2019年度)と、多くの人々が訪れています。
戦後、トロッコ電車よりさらに上流でも、電源開発は進められました。1963年に完成した黒部ダムです。この黒部ダムを含む観光ルートとして整備されたのが、1971年に全通した「立山黒部アルペンルート」です。
長野県側の大町市からスタートし、電気バスやケーブルカー、ロープウェイ、トロリーバスを乗り継ぐこのルートは、多くが広義の「鉄道」によって構成されています。こちらも年間100万人前後の旅客を集めており、トロッコ電車とならんで、富山県がほこる観光地となっています。
また、2015年の北陸新幹線開業を契機に、既存路線でも観光列車の運転が始まりました。高岡駅から城端駅までを結ぶ城端線と、高岡駅と氷見駅を結ぶ氷見線では、「ベル・モンターニュ・エ・メール」、通称「べるもんた」が2015年10月より運転されています。風光明媚な雨晴海岸などを眺められるほか、車内では地酒や寿司を提供するとあって、1両編成ながら大人気。運行開始から1年を待たず、2016年7月には利用者数1万人を達成しています。
このほか、北陸本線を受け継いだあいの風とやま鉄道でも、観光列車を運転しています。その名も「一万三千尺物語」。立山連峰や富山湾を表現した青の車体が特徴的で、こちらも車内で寿司などを提供。富山駅を中心に運転されています。同社は他にもイベント用車両「とやま絵巻」を運行中。こちらはイベント列車のほか、定期列車でも運転されています。